肛門で体温を測定して、40.5℃以上であれば、熱中症と判断して間違いありません。
熱中症の犬の死亡率はおおよそ50%です。そして、熱中症で死亡する犬の多くは、動物病院に到着してから24時間以内に死に至ります。
先にお伝えしておくべきこととして、熱中症という言葉を知っている犬の飼い主さんは非常に多くいらっしゃいますが、本当の熱中症をご存知の方は少ないものです。言葉の定義として、ちょっとした暑さで元気がないくらいのことを熱中症と思われることもありますが、前述したように、犬の熱中症は、致死的な病気です。
熱中症の犬に必要な処置は、体全体を常温の水道水で冷やすことです。そして、扇風機を当ててください。おすすめできないことは、冷水や氷、アイスパックなどの保冷剤を使うことで、これらは使わない方が良いでしょう。
私は、熱中症の可能性がある犬に対して行うのは、まず水のシャワーです。ちょっと常温とは言えないくらいに冷たいことがありますが、それでも常温まで温める必要はありませんから、水のシャワーを続行します。顔にかけると嫌がる犬もいますから、基本的には首から下にまんべんなくシャワーの流水をかけ続けます。もし水を飲むようでしたら、シャワーをしながらでも、水を飲むでしょうから、飲みたいだけ与えると良いでしょう。
普通の水のシャワーを続けて、体がやや冷んやりとしてきたら、一旦止めて、まだ体が熱いようでしたら、再度シャワーを始めてください。体温がわかりやすいのは、体の表面も良いのですが、肉球の間や耳の内側の毛が少ないところなどです。なかなかご自宅で肛門から体温測定ができる方は少ないと思いますが、できるようなら肛門から体温計を入れて体温測定をして、水のシャワーで下げる体温の目標値は39.5℃くらいです。
39.5℃は、犬の平熱よりもやや高いのですが、この温度まで体温が下がると、その後はさらに平熱のレベルまで体温が下がることが期待できます。そして、冷やしすぎには注意が必要です。
肛門から体温計を入れられる方は少ないはずです。熱中症の犬は、過度にハアハアしています。いわゆるパンティングをしています。できればこのハアハアが見られなくなるところまで、シャワーをしたり止めたりを繰り返します。そして扇風機で風を送ってあげます。冷房の風も、それほど氷のように冷たくなければ良いのですが、扇風機やうちわで扇いであげるなどした風がおすすめです。
その後は可能なだけ、動物病院に急いでください。
水道水で冷やしたタオルで体を包んで、動物病院に行ってください。もしお車で行かれる場合には、車内の冷房や送風、外気温によっては、窓を開けて車窓から入ってくる風に当ててください。
ここで、なぜ冷水や氷、アイスパックなどの保冷剤が良くないかを説明します。
体の熱が下がるためには、熱が体の表面から出ていかなければなりません。つまりは、熱い血液が体の表面を流れる時に、流水によって冷やされて、冷やされた血液がまた体を循環することで、体全体の温度が下がります。
しかし、冷水や氷、アイスパックなどの保冷剤を使うと、体の表面の血管が縮んでしまいます。すると、縮んだ血管を流れる血液は少ないので、体の内部が冷却され難くなります。そうなりますと、体の内部に熱がこもってしまって、なかなか体温が下がりません。すると、熱い血液が体の中の臓器を循環し、逆効果になります。
犬の熱中症では何が起こるのか?
・循環器では、抹消血管拡張、血管内脱水、循環不全、低血圧、不整脈
・中枢神経では、過呼吸、急性呼吸促迫症候群、肺水腫
・泌尿器では、急性腎不全
・中枢神経では、脳浮腫、脳出血、脳虚血、意識障害、発作、昏睡
・血液凝固系では、播種性血管内凝固
・消化器では、下痢、消化管出血、敗血症、嘔吐
などが見られます。
動物病院では、いろいろな検査に加えて、点滴や酸素吸入、播種性血管内凝固の治療や予防を行います。各種臓器の障害に対しては、それぞれの治療を加えます。
犬の熱中症は、ご家族の方がそうだと思われても、犬が暑がっているだけで獣医師が定義する熱中症ではないことが非常に多い病気です。また、私が診察する場合、暑がってもいないことも多々あります。ただ、もし熱中症であれば、50%の致死率をみる病気ですので、熱中症ではないことを願いながら、上記冷却処置を行い、動物病院へ急行してください。冷却処置を行いながら、動物病院へ連絡されることも忘れずに。