【犬のマラセチア】皮膚炎と外耳炎を獣医師が解説します。

マラセチアは、もともと犬の体の表面にいるものです。何かしらの原因によって、皮膚炎や外耳炎を起こします。そして、ほとんどの場合、再発します。

マラセチアがいるけれども、問題がないことがほとんどで、これを共生性があると言いますし、マラセチアが皮膚炎や外耳炎などを起こすようになることを病原性があると言います。

犬が皮膚炎外耳炎と診断を受けると、マラセチアという酵母菌(真菌属)の話を聞くことが多くなります。

ときに、獣医師が犬の飼い主さんに、検出されたマラセチアの顕微鏡画像を見せてくれることもあるでしょう。マラセチアの形は、雪だるまのようでも、ピーナッツのようでもあります。

マラセチアは、分類では真菌属の一つで、いわゆるカビという言い方をされることもあります。マラセチアは、正常な犬の皮膚、耳の中、鼻、口の中、肛門や肛門まわりの表面、肛門嚢、膣で見つかることが多く、早ければ、生後数日の仔犬からも見つかることがあります。

マラセチアが起こす皮膚の変化は、色素沈着、脂漏性、紅斑、脱毛そして痒みです。

色素沈着とは、皮膚の色が変わることですが、多くの場合、メラニン色素が沈着しますので、黒ずみとして認められます。ときに、苔癬化(たいせんか)と言い、皮膚が厚みをもって、やや硬くなることがありますが、色素沈着と苔癬化が同時に見られることもよくあります。

脂漏性とは、皮脂の分泌異常です。皮脂腺の数が増えたり、皮脂腺の大きさが大きくなったりすることもあります。ベトベトした感じになりますので、皮膚表面を触った感じからでも、ある程度予測できることがあります。

紅斑とは、そのままで、赤い斑点のようなものですが、皮膚の赤みのことです。その赤い範囲が広いばあいや炎症の程度によっては、この紅斑部分は、やや熱っぽく感じることがあります。

そして、マラセチアによる皮膚炎も、外耳炎も、共通して見られるのは、痒みです。痒みの程度は様々ですが、軽い痒みから、激しい痒みまで様々です。

マラセチアの共生性と病原性を分けるのは、つまりは、マラセチアによって皮膚炎や外耳炎が起こる原因には、次のようなものが考えられています。

湿度が高い、皮膚にシワがあってベトっとしている、内分泌疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症など)がある、角化異常、遺伝的素因、免疫機能不全、過敏症、共生するブドウ球菌数の増加

このようなことがマラセチアが共生性ではなく、病原性をもつ原因だとすると、なかなか治らないことがわかるかも知れません。

湿度が高いことが原因となるのは、日本の気候に順応することが難しい犬種によくみられます。

皮膚にシワがあってべとっとしていることで、マラセチアが増えて病原性をもつことがあります。シワがあるところ、顔や手足の関節近く、ワキなどです。とくに、下唇の口角近くに、気付きにくいシワがあることがよくあります。多くはそこでブドウ球菌も増えていますので、膿皮症も同時に見られ、口臭かのような臭いがすることがあります。

内分泌疾患があると、皮膚表面に、マラセチアが必要とする栄養素や増えるために必要な物質や環境ができあがることがあり、マラセチアによる皮膚炎や外耳炎の原因になることがあります。そして、皮膚表面のマラセチアに注目がいくために、基礎疾患としての内分泌疾患が見落とされることもあり、マラセチア対策だけではなかなか治らないこともあります。なかなか治らないマラセチアによる皮膚炎や外耳炎の原因には、もっと治りにくい疾患が潜んでいることもあるのです。

免疫機能不全は、本来マラセチアが病原性をもつ前に、リンパ球が免疫の働きでマラセチアを抑え込むのですが、そのリンパ球の数が減ることでマラセチアにうまく対処できない状態です。バセットハウンドにみられます。

過敏症とは、アレルギー反応のことで、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、ノミアレルギー性皮膚炎などのことを言い、これらは犬のマラセチアによる皮膚炎や外耳炎に対する素因になります。また、他の原因と同様に、これらの過敏症、アレルギー性疾患は、管理をすることはできても、治ることはないために、マラセチアによる皮膚炎や外耳炎が繰り返すことになります。

遺伝的な要素によって、マラセチアによる皮膚炎と外耳炎が多いのは、次のような犬種です。

シーズー、アメリカンコッカー、ウエストハイランドホワイトテリア、トイ・プードル、ダックスフンド、キャバリアキングチャアールズスパニエル、ジャーマンシェパードなどです。

まとめ

皮膚の最表面にあるのが、角化層です。この角化層は、バリヤ機能が崩壊することで、マラセチアが病原性を獲得することになります。そのバリヤ機能を崩壊させるものが、痒みによる掻き壊しや、内分泌疾患、角化異常、免疫障害などです。そして、そのマラセチアの病原性を引き起こす原因は、治療できなかったり、治療が難しいことが多く、その結果として、マラセチアによる皮膚炎や外耳炎が繰り返します。