【犬の失神】全ての原因を獣医師が解説します。

まずは、失神とは何か。

失神とは、短時間の無意識状態で、脳に起こる異常によるものです。多くの場合、脳へ流れている血液の量が減ったり、酸欠、あるいは低血糖が原因になります。失神は、激しい運動の後に起こることが多く、非常に短時間のものです。

つまりは、脳に何かしらの異常が起こって失神するわけです。そして、脳へ流れる血液の量が減るのは、心臓から脳へ血液を送る働きが低下したり、脳の血管そのものに異常が起こることが原因です。

今回、犬の失神の原因を網羅的に書きますが、似たような病気、診断のための検査、予後、治療については、また別記事にします。

大分類として、次のような原因があります。

心血管疾患によるもの、肺疾患によるもの、神経疾患によるもの、その他の原因によるもの

失神の原因が心臓や血管の病気にある場合

・心臓に病気があって、不整脈が見られる場合に失神が起こることがあります。

・生まれながらにして心臓に病気がある。

・先天性ではない、後天性の心臓病が見られる犬にも失神が見られることがあります。

慢性弁膜症、心筋症、心タンポナーデ、犬糸状虫症(フィラリア症)、など

・心臓の血管に影響する血液の異常。

血栓塞栓症、血液凝固異常、高蛋白血症、アテローム性動脈硬化症、腫瘍の合併症として起こる脳血管疾患、外傷

・低血圧

・失血(出血)

失神の原因が肺や気管・気管支の病気にある場合

・気管虚脱:気管にある気管軟骨が弱くなり、気管が細くなったり閉じたりして、水鳥が泣くような音の咳をする病気です。

・慢性気管支炎(→かいぼっち、慢性気管支炎の記事へのリンク)

・激しい咳:極めて激しい咳が続く場合、咳嗽(がいそう)性失神が起こることがあります。

・肺性高血圧症

・肺の血栓症

失神の原因が神経の病気にある場合

・舌咽神経痛(食べ物を食べているときに、口の中や喉が痛くなる病気)

・末梢神経、中枢神経の障害

・血管迷走神経刺激(ストレスや強い痛み、そして腹腔臓器の病気による刺激が、迷走神経という神経を介して、脳幹血管運動中枢を刺激することで、心拍数が下がったり、血圧が下がったりする生理反応が起こります。これらが失神の原因になることがあります。)

・姿勢性低血圧症(体勢を変えることで、急激に血圧が下がる症候群ですが、正直なところ、私は犬では見たことがありません。しかしながら、一応これも犬に失神の原因に一つとされています。)

・過換気(深呼吸のような、深い呼吸や、ハアハアが長く続くなど、換気量が増えることです。)

・頸動脈洞の感受性亢進(のどの両側にある頸動脈洞を圧迫すると、一連の連鎖反応により、迷走神経と呼ばれる神経が過剰な反応を示すことがあります。その結果、心臓の拍動数が減り、徐脈となって、血圧が下がる、脳血流量が減少する、そして脳幹の酸素量低下で失神に至ることがあります。故意に犬の首が絞められることはないでしょうから、首輪によって頸動脈洞への圧迫が引き金になることが考えられます。)

・血栓塞栓症

・腫瘍

その他の原因

・貧血

・低血糖

・薬によるもの(特に、急激に血圧を下げる薬や利尿薬によって失神が起こることがあります。)

・飢餓状態

鑑別診断リスト(失神に見えるけど、失神とは区別される病気)

・発作、副腎皮質機能低下症、低カリウム血症、出血、睡眠発作、強硬症

治療方法

失神の治療方法は、その失神の原因によって異なります。

可能であれば、その失神の原因となっている基礎疾患を治療します。不整脈があれば、その治療が必要です。低血圧、や出血による血液量減少があれば、静脈点滴を行います。

予後(その後どうなる?)

失神があった場合、その後治療で元気になるのでしょうか。

これも、失神の原因になっている基礎疾患によります。基礎疾患が軽度のものであれば、治療可能ですし、重篤なものですと、元気な状態に戻ることは難しいかも知れません。