【猫の慢性腸症】炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)を獣医師が解説します。

猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)には、いろいろな症状が見られますが、ある程度共通する症状には、次のようなものがあります。

体重が減る( 痩せてくる)、食欲にムラがある(食べたり、食べなかったりする)、嘔吐、下痢、よく寝る(起きている時間が短め)

これらの症状は、必ずしも現れるものでもなく、またみられても全てが見られる訳でもありませんが、猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)では、どちらの病気でもある程度共通して見られるものです。

治るのか?

どちらも治りません。猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)は、どちらも完治をすることはありません。

猫の炎症性腸症(IBD)は、症状の改善ができますし、治療を続ける限りは良い状態を維持すことができます。それでも、重度に衰弱したり、深刻な胃腸病や腸炎を起こした場合には、予後は注意が必要になります。

小細胞性リンパ腫(ScLSA)は、腫瘍性疾患ですので、いわゆる抗がん治療が必要です。抗がん治療で使う用語として、寛解という言葉があります。小細胞性リンパ腫(ScLSA)を研究したものの中には、寛解率が90%を超えたとするもがあります。そして、その研究では生存中央値が2.5年以上と報告されています。癌治療として、この結果は悪くはありませんが、それでも治らないことは辛いことです。本当に。

猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)の2つの疾患を併記することの意味は、これらが同時に起こったり、炎症性腸症(IBD)から小細胞性リンパ腫(ScLSA)へと進むこともあるからです。

どのように診断をするのか?

結論から書きますと、これが結構難しいのですが、最も良いのは試験的開腹手術を行い、腸から病理検体を取る方法です。その検体を病理組織学的検査を行います。

これの何が難しいのかを解説します。

猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)の症状は、非特異的です。症状が非特異的というのは、猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)の病気の時にしか見られない症状がないということです。

例えば、猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)で見られることがある体重減少と下痢というのは、この2つの病気以外でも見られます。体重減少と下痢だから、猫の炎症性腸症(IBD)や小細胞性リンパ腫(ScLSA)とは必ずしも言えないわけです。このような症状のことを特異性がないと言っています。

そして、体重減少や下痢が見られる病気の中には、他の検査で診断できて、そして難しい治療をすることなく治るものも多く存在します。当然ながら、このような場合には、試験的回復手術は行う必要がありません。

猫の炎症性腸症(IBD)や小細胞性リンパ腫(ScLSA)を疑う場合でも、そのほかの病気ではないだろうかと推測し、違うということを確かめる作業が必要です。これを除外診断と呼んでいます。そして、最終的に、猫の炎症性腸症(IBD)や小細胞性リンパ腫(ScLSA)の可能性が高くなれば、病理組織学的検査を行いますが、できるだけ猫に負担をかけないようにするには、内視鏡を使うという方法があります。

しかし、内視鏡で全ての検査ができるわけではありません。何かと言いますと、猫の消化管は、いくつかの層でできています。層の少ないバームクーヘンのように層になっているちくわをイメージして見てください。穴の方から、穴側の層だけを検査するのが内視鏡による検査や、病理検体の採取です。

猫の炎症性腸症(IBD)や小細胞性リンパ腫(ScLSA)では、全部の層を検査しなければ区別できないものもあります。つまりは、ちくわであれば、穴の中から表面だを観察したり、病理検査するのではなく、全層検査が必要ということです。これは、ちくわであれば、穴の方から一番外側の層まで貫通させて消化管検体を取らなければならないということです。ちくわに穴が開くわけです。

これを内視鏡で行うことはできません。全層取ると、消化管に穴が空きます。そそて、内視鏡ではこの穴を塞ぐことができません。このような理由から、内視鏡ではなく、病理組織学的検査のためには、試験的回復手術を行いながら消化管、特に小腸の全層切除が必要になります。そして、その穴は縫合して塞がれます。

ここで、また難しい問題があります。

小腸を検査のために一部切り取るわけですが、腸を外から見てみても異常箇所がわかりにくいのです。例えるならば、ちくわの穴側に異常があり、そうですね、穴側に黒ずんだところがあり、黒ずみの原因を調べたいわけですが、それは穴の中しか分からず、外からいくら観察してもわからないわけです。だからと言って、適当に腸の一部を切り取っても、そこが黒ずんでいなかったら、黒ずみの原因はわからないままなのです。

しかも、消化管に異常があるかどうか、そして、その異常が何なのかを調べるわけですから、異常がないという結論もあるわけです。

先の例のように、ある程度当てずっぽで取るわけですから、取ったところに異常がないこともあり得るわけです。

猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)の区別を重視した場合、現在最も良いとされる検査方法と手順

内視鏡を使って、消化管の異常なところを採取します。具体的には、全身麻酔をかけた猫に内視鏡検査を行います。異常箇所を見つけて、内視鏡を使ってその異常部分を少しだけ取ります。

これを病理組織学的検査で、猫の炎症性腸症(IBD)か小細胞性リンパ腫(ScLSA)を判断します。

次には、免疫組織化学検査(IHC)や、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使うことで、猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)とを区別するとう方法です。

これであれば、内視鏡で完結し、その後は研究室での作業ですので、猫のお腹や消化管にメスを入れる必要な無くなります。他の疾患であれば、この限りではありませんが、猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)の鑑別はこれでできることになります。

猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)の鑑別ができれば、あとは治療を行いますが、それぞれの治療方法があります。この記事では、その詳細は割愛しますが、とどちらにおいても大切なのは、食事療法です。

この食事療法で選ばれるのは、消化性の高い新奇タンパク質です。これは、これまで猫に与えたことがないお肉ということです。ウサギ、シカ、ウマなどの肉が使われることがあります。また、動物病院で、タンパク質を加水分解した療法食が手に入りますから、獣医師と相談されるといいと思います。

これらの食事の影響がわかるのは、食事を変えてから10日以内です。

また、プロバイオティクスシンバイオティクスが使われることがあります。これらも、猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)に有効だとする明らかな根拠はまだ出ていませんが、慢性下痢が改善したという報告が増えてきています。

猫の炎症性腸症(IBD)と小細胞性リンパ腫(ScLSA)は、どちらも完治することのない病気ですが、症状を改善させることはできます。診断までも長い道のりがありますが、治療は猫の障害に渡って続くことがありますので、獣医師と連携を取りながらの治療が必要になります。