【犬が骨折した。】さて、どうしましょう。獣医師が解説します。

骨折は小型犬に多い

国内で飼われている犬の多くが小型犬、または超小型犬です。半数以上が体重10kg以下です。このサイズの犬が骨折をする場合、多くは橈尺骨と呼ばれる、前腕(肘から手首まで)の骨が骨折します。それは、骨折全体の18%を占めるとされます。

私がみる小型犬の骨折のほとんどが橈尺骨の骨折です。そして、明らかな原因がある場合と、飼い主が帰宅したら骨折をしていたというような、明らかな原因が定まらない場合があります。

そして、トイ犬種と呼ばれる小型犬の場合、この橈尺骨の骨折が起こるのは1歳未満で体重も2-3kgくらいしかないことも多いのですが、ときには1kg未満ということもあります。

トイ犬種の骨折治療は外科手術です。

骨折の整復方法は、獣医師によって異なることがありますが、最も合併症が少ない方法はプレート固定による方法です。それでも、統計によると合併症の発生率は10%を超えます。また、外固定と呼ばれるギブスのみの治療ですと、合併症の発生率は70%を超えます。

私は、基本的にはどのような骨折であっても、まずはプレート固定ができないかを検討して、できる場合には、プレート固定で治療するようにしています。幸いにして、いまだに合併症をみたことはありませんが、今後も合併症をみることなく治療できれば良いという思いは変わりません。

そして、プレート固定の合併症が、一般的な統計で10%を超えるというのは、他の骨折治療の合併症の発症率よりも格段に高いのですが、その理由は、獣医師側にあるとされます。具体的には、選択したプレートが適切ではなかったり、手術手技に問題があったというようなときに合併症が起こるとされます。

ときに、他の動物病院で骨折の整復手術を受けた犬のレントゲン検査を行うことがありますが、プレートが大きすぎたり、小さすぎたりすることがあります。

この2-3kgのトイ犬種の骨折の整復を積極的に行う動物病院はあまり多くはないかも知れません。そこで、ちょっと無理をして手術をすると、合併症が見られることが増えるのかも知れません。

骨折治療の流れ

犬が骨折していることに気づいて、動物病院に行ったとします。そこの動物病院で骨折治療を行なっているようでしたら良いのですが、もし行なっていなかった場合には、その後で次のようなことが考えらえれます。

  1. その動物病院に手術ができる獣医師が来て手術をする。
  2. トイ犬種の骨折整復手術ができる一般病院を紹介される。
  3. トイ犬種の骨折整復手術ができる二次診療施設を紹介される。

そして、ここからが難しいところですが、二次診療施設は良いかも知れませんが、かなり高額になるでしょう。おそらく、一般的な動物病院の2倍以上になることもあります。

そして、一般病院を紹介された場合、アタリとハズレがあるかも知れません。正直なところ、アタリとハズレを事前に知ることは難しいと思います。

骨折整復手術に使うインプラント

積極的にトイ犬種の橈尺骨の整復手術を行なっている動物病院であれば、一般病院であっても、二次診療施設であっても、トイ犬種に適切なプレートを用意しているはずです。トイ犬種に適切なプレートとは、ロッキンングシステムと呼ばれるプレートです。プレートは、ロッキンングプレート以外にもありますし、これ以外でもしっかりと手術ができますが、ロッキングプレートは現在の主流であり、世界中でも相当数使われています。それだけロッキング以外のプレートと比べてメリットが大きいのです。

また、骨折整復手術で使うプレートにはサイズがあります。2-3kgの犬に使うのは、1.5mmか2.0mmのスクリューが入るプレートです。小さいものでは1mmのスクリューが入るプレートもありますが、体重2-3kgでは使いません。

私が橈尺骨の骨折の整復手術をした犬で、最小だったのは体重800gでした。適応するプレートは販売されていません。そこで選んだのは、1.2mmのスクリューが使えるロッキングプレートです。このロッキングプレートの適応は、体重1.0kgから1.5kgですが、使えるプレートで最も小さい犬に使えるものでしたので、消極的な選択でした。

1歳未満のトイ犬種の骨折は高速で治ります。

しっかりと正しい手術ができればという前提ですが、1歳未満のトイ犬種の骨折は高速で治ります。もともと成長期ですから、自然にどんどん治ろうとします。ただし、間違ったインプラントと間違ったやり方で使いますと治りません。そして、トイ犬種の骨折が手術後に治らないと、大変なことになります。

骨折の手術後に、治るのが遅いことを癒合遅延と言います。また、遅いのではなくて、治らないことを癒合不全と言います。トイ犬種の癒合遅延、癒合不全はとても怖いものです。リカバリーできないことが多いからです。

最悪、切断しなければならないこともあります。

骨折したトイ犬種の飼い主さんに勧めること

  1. 適切な動物病院でしっかりと治療すること。このためには、はじめの問い合わせで、例えば、体重1.5kg、生後5か月のトイプードルの前足の骨折の手術を受けてもらえますか?などど聞いてみることです。
  2. 多くの獣医師は、焦るかも知れません。準備がないからです。準備とは、手術機器、インプラント、そして、知識と技術です。
  3. 問い合わせで、ロッキングプレートでの手術はできますか?と尋ねて見ましょう。獣医さんにちょっと嫌われるかも知れませんが、大切な我が子にためです。
  4. 手術費用を聞いてみましょう。30万円未満であれば、妥当だと思います。プレートやスクリューの原価でも、10万円くらいはします。ですから、10万円くらいで手術をするとなった時点で、あれっ?となります。そうなりますと、15万円から30万円くらいはかかると思います。入院や検査も必要ですから。50万円くらいの話をするのは、だいたい二次診療施設です。そこしかないとき以外には、選択しなくても良いと思います。

合併症が多いとされるトイ犬種の橈尺骨の骨折整復手術ですが、しっかりと手術できる動物病院では、ほとんど合併症もなく治療してくれるでしょう。

東京都にお住まいなら、日本橋動物病院も選択肢に入れても良いと思いますよ。