短頭種と他の犬種とで、明らかな解剖学的な違いや病気が起こりやすいとするデータはほとんどありません。しかし、実際に日々の診療の中では、他の犬種に比べて担当種に起こりやすいという印象があります。
いくつかの裏付けのある根拠(データ)と、私の個人的な印象が混ざった話にはなりますが、よかったら参考にしてみてください。
短頭種の外耳
詳細なダータは少ないのですが、短頭種は、耳の穴が狭いので、外耳炎が慢性化しやすく、軽度の外耳炎でも耳垢腺の過形成が起こりやすくなっています。
犬の耳の穴は、L字になっていて、縦穴とそれに続く横穴があります。そして、その横穴の行き止まりが鼓膜です。鼓膜までが外耳で、穴を外耳道といいます。鼓膜の奥には、中耳と内耳がありますが、鼓膜が健全であれば、鼓膜の奥である中耳と内耳は外耳道からは見ることはできません。獣医師がよく使う、一般的な耳鏡では、見ることができないといういうことです。
その耳道が狭いと、耳垢を外に排出するための自浄作用が弱く、また慢性的な外耳炎によって、耳道が厚くなってくることが多く、耳道はさらに狭くなります。そうなると、さらに耳垢を耳の外に運ぶ自浄作用が弱くなり、外耳炎の悪化が起こります。
このときに、耳垢に関連する耳垢腺というものが外耳道にはありますが、この耳垢腺が過形成という変化を起こすことがあります。過形成とは、正常な細胞でありながら、数が増えるもので、数が増えることで、耳垢線が大きくなります。耳垢腺腫と呼ばれる変化が起こります。耳垢腺腫、あるいは炎症性ポリープは、短頭種にはよく見られるものです。
このことによって、耳垢が多く作られ、そして、耳道が狭い上に、さらに耳垢腺が過形成を起こすことで、これが耳栓のように耳道を塞ぐことがあり、さらに外耳炎を悪化させることになります。
この場合には、外科的な介入、すなわち手術が必要になることがよくあります。外耳道切開であるとか、外耳道切除、あるいは、外側耳道全切除などを行うことがあります。これによって、犬を外耳炎のストレスから解放できるのですが、犬だけではなく、ご家族のストレスも軽減できる気がします。
短頭種の中耳
短頭種は、短頭種ではない犬(非短頭種)に比べて、鼓室の壁が厚く、中の容積が小さいことがわかっています。鼓室とは、外耳道から入った場合、鼓膜の奥です。そこに小さな部屋があり、ここが鼓室です。そして、鼓室の空間のことを鼓室胞といい、鼓室胞を取り囲む組織は鼓室胞壁です。短頭種の鼓室は非短頭種と比べて小さいということです。
そして、短頭種の犬は、中耳に液体がたまりやすくなっています。この原因は明確にはなっていませんが、外耳炎から起こる中耳の感染症や、鼓室の形の異常から耳管機能障害によって中耳の中の液体が排出できずに起こるとされています。
犬の外耳炎では、それが慢性かすると、鼓膜が破れてしまうことがあります。そこでは、感染が起こることがあり、それが中耳に液体がたまる原因の一つと考えられています。また、耳管とは、鼻から中耳にいたる管で、そこに障害が起こることで、中耳の液体が排出され難くなるとされています。
中耳に至るルートは、外耳ルートから破れた鼓膜を通じてと、気道から耳管を通じての2つです。短頭種の中耳の感染は、この気道から耳管を通じてのルートだと考えられています。
治療は、全身的な抗菌薬を使うことがありますが、反応が悪かったり、再発を繰り返したり、炎症が外耳、中耳、内耳に及ぶ場合には、外側鼓室胞骨切術と外側耳道全切除術が推奨されます。
犬の場合には外耳炎があると、鼓膜が破れることがあり、そこから中耳炎が起こることがありますが、外耳炎が見られなくても、中耳炎が起こることがあり、これは原発性中耳疾患や耳管機能障害があるとされています。
短頭種では、フガフガいう子がいますが、これが気道→耳管→中耳というルートによって鼓膜弛緩部の浮腫や中耳浸出液を生じて抑うつ、頭を振ったり、耳を引っ掻いたり、そして聴力低下を起こすと考えられています。
ヒトが水中、飛行機、そしてエレベータの急な動きによって気圧や水圧で耳に違和感を覚えることがあります。その時に、唾を飲み込んだり、鼻を摘んで耳に圧をかけたりすることがありますが、あれで鼓膜に気圧をかけることで違和感が解消されるわけですが、短頭種は、フガフガすることで、鼓膜に耳管ルートで負荷をかけているのかも知れません。それによって、鼓膜弛緩部が膨隆したり、中耳浸出液が溜まったりすることも推測されます。
末梢前庭性運動失調症の犬は、聴力が低下し、内耳の蝸牛機能障害もあります。また、慢性外耳炎の治療として、耳に軟膏を入れて治療を行った場合でも、難聴を引き起こすことがあります。(耳に入れる軟膏は、鼓膜が破れている場合には使うべきではありません。)
外科手術によって、鼓室胞を切除る場合には、聴覚を失うことになります。これを前提としてし手術を行うわけですが、中耳に起こる疾患から犬の慢性的な不快感を取り除くには最善の方法です。
また、鼓室に問題がない場合の、外耳道切開や外耳道切除では、聴力は温存されます。