犬の乳腺腫瘍
治療は外科手術です。手術を選択できない場面もありますが、治療としては、外科手術以外はありません。
乳腺腫瘍の特徴
乳腺腫瘍は、避妊手術をしていない、あるいは、避妊手術を行ったのが遅めだった犬に見られます。つまりは、早期に避妊手術をした犬に見られることは極めて稀です。これは、犬の乳腺腫瘍の発生は飼い主次第とも言えます。
私は獣医師ですので、よく犬の避妊手術をしますし、避妊手術をした方がいいでしょうか?という質問を受けます。必ず、お勧めしますと回答します。
ときに、避妊手術はかわいそうという飼い主がいます。一応は、避妊手術と乳腺腫瘍の関係は話すようにしますが、それ以上は話しません。避妊手術はかわいそうという飼い主さんは、こんな話をあまり聞いてくれません。
そして乳腺腫瘍は、発見されたときから時間が経つにつれ、そして大きさが大きくなるにつれ、悪性に変化することが知られています。
発見したら、できるだけ早くに手術をすることが原則です。
乳腺腫瘍が発見されて、様子をみるとしますと、それはすなわち、今は良性腫瘍かも知れませんが、時間が経って大きくなって悪性に変わるまで待ってみましょうと言っていることに近いものがあります。
乳腺腫瘍に関わるいろいろな数字
犬の乳腺腫瘍にはいろいろな数値的な情報があります。
- 犬の乳腺の良性腫瘍と悪性腫瘍の割合は、概ね50%、すなわち半分が良性、半分が悪性とされています。
- 乳腺の良性腫瘍がみられた犬の平均年齢は8歳です。
- 乳腺の悪性腫瘍がみられた犬の平均年齢は10歳です。
- 小型犬種に悪性腫瘍が発生するのは25%です。
- 乳腺の腫瘍の大きさが1cm未満だと99%が良性腫瘍。
- 乳腺の腫瘍の大きさが1-2cmだと93%が良性腫瘍。
- 乳腺の腫瘍の大きさが3-5cm未満だと82%が良性腫瘍。
- 乳腺の腫瘍の大きさが5cm以上だと43%が良性腫瘍。
- 初回発情期前に避妊手術をした犬に乳腺腫瘍が発生するのは0.5%。
- 2回目の発情期までに避妊手術をした犬に乳腺腫瘍が発生のは、8%。
- 2回目の発情期以降に避妊手術をした犬に乳腺腫瘍が発生のは、26%。
最も高い予防
乳腺の腫瘍を予防するためには、初回発情以前に避妊手術をすることです。それでも100%ではありませんが、ほぼ100%(99.5%)の犬で乳腺腫瘍はみられません。そして、小さい乳腺腫瘍が見つかったら、1cmになる前に手術をすることが勧められます。
犬の乳腺は、腕の付け根あたりから足の付け根までの領域に、左右2対ずつあります。特に一番下の乳腺に発生することが多いので注意が必要です。
唯一の治療は外科手術です。犬の乳腺には、外科手術の適応外があります。それは、炎症性乳癌と呼ばれるものです。基本的には、犬の乳腺腫瘍が良性か悪性かを確定診断するためには、病理組織学的検査を行います。そのためには、外科手術で腫瘍を切除する必要があります。
すなわち、外科手術をする前に、良性か悪性かを確定することは困難で、手術の後に結果として良性だったとか悪性だったとかの診断が可能になります。
しかし、そもそも手術をするべきではないのが、この炎症性乳癌です。また、炎症性乳癌は、高悪性度の乳癌の手術の後から見られることもあります。
炎症性乳癌は、外観から評価が可能なことが多く、診断時点で手術の適応から外します。予後も悪く発見時期にもよりますが、数日から数か月ということがあります。
炎症性乳癌以外の乳腺腫瘍は、まずは外科的切除を行い、犬の余命が期待できる場合には、同時に避妊手術を行うことが推奨されます。
早期に発見して早期に手術を行えば、完治が見込める腫瘍です。