【犬の肛門周囲腺腫】高齢のオス犬に多い腫瘍を獣医師が解説します。

肛門周囲腺腫

犬の肛門周囲腺腫は、肛門の周りにできる腫瘍です。初めは小さなデキモノですが、次第に大きくなったり、ときにいくつもいくつもできてきて、肛門をぐるっと一周するくらいにできることがあります。

治療は、外科的切除、すなわち手術をして切り取ります。

肛門周囲腺腫は、良性の腫瘍ですが、ときに悪性の肛門周囲腺癌ができることもあります。

これらは病理組織学的検査で判別しますので、見た目だけで肛門周囲にできたからと良性と判断することはできません。

治療は、手術でこのデキモノを切り取るのですが、肛門周囲選手はアンドロジェンと呼ばれるオスのホルモンで大きくなります。そこで、去勢手術をすることでホルモンを枯渇させて腫瘍を退縮させることができます。

私はできるだけ腫瘍の切除と去勢手術を同時に行っています。その方が確実ですので、去勢手術だけというやり方は行ったことがありません。また去勢手術を行わずに、腫瘍だけを切除するということも行ったことがありません。

この腫瘍は、8歳以上の去勢手術をしていないオスによく見られます。

ご家族の方にしてみますと、8歳まで去勢手術をせずにいるのに、腫瘍の治療とは言え、ある程度年齢が進んでから去勢手術をするのはかわいそうと思われる方もあります。しかし、腫瘍を解決せずに過ごすことの方が実際にはかわいそうに見えますので、決断していただいております。

このようなエピソードがありました。

ある犬が来院しました。10歳のミニチュア・ダックスさんの初診でした。私も初めて見るほどに肛門周囲にぐるっと一周に渡って腫瘍ができていました。この腫瘍を切除することは困難でした。できなくはありませんが、結構大きな手術になりそうでした。飼い主さんは、様子を見ていたら大きくなって、と、楽観的な雰囲気でお話をされます。私の方は手術の方法を考えるだけで、悩んでしまうほどなのに。去勢手術も同時に行わなければなりませんとお話をすると、「去勢手術はしませんの」との返事に驚いてしまいました。腫瘍の特性から、去勢手術をしないと治療は十分にはできませんとお伝えしましたが、それでも去勢手術の同意を得ることができませんでした。不本意でしたが、手術をお断りしました。しっかりと治したいと思う私とこの飼い主さんとは治療に対する気持ちに温度差がありました。

しかし、このように肛門周囲に一周に渡ってできるような厳しいものでなければ、去勢手術をしたくはないという場合でも手術をしたと思います。もちろん、腫瘍を切除して、去勢手術をせずに終わらせたでしょう。ただし、再発することがあります。

適切に切除して、去勢手術までできれば、しっかりと治せる腫瘍です。