【獣医師が手術の練習をする方法】私の場合。

私が手術習得する方法

  1. はじめの就職先で学びます。初めは見学だけ、そして助手、そして執刀と進みます。
  2. 先輩獣医師の動物病院などで見学実習をさせていただくことがあります。
  3. 国内のセミナーで座学を行います。手は使いません。机の上の勉強です。
  4. 国内のセミナーで実習を行います。模型の骨で練習したり、食肉を使って練習をすることもあります。
  5. 海外のセミナーで座学、実習を行います。実践的です。とことんまで学べます。
  6. 人間の大学病院で、手術実習をさせてもらうことがあります。

はじめにお話ししなければならないことは、獣医師は手術の練習をする機会がほとんどありません。

大学では、授業で本当に少しだけ手術実習をしますが、学生が行う手術は獣医師になってから行う手術とは全く違います。大学で行う手術は、緊張感もそれほどなく、教授や講師陣に言われるとおりに進めるだけです。その実習の後でも、その手術を自分自身が仕切ったり、麻酔や手術準備、術前管理、術後管理などをどれ一つも全うすることはできませんでした。

では、獣医師は実際に動物病院で行われている手術をどこで習得するのでしょうか。

できる手術を増やすためには、海外にも行きますね。
手術を得意とする多くの獣医師は海外で学んだ経験があります。

まずは、国家試験に合格して獣医師免許を取得した後、動物病院での仕事を希望する獣医師のほとんどが、いわゆる街の動物病院(一次診療、二次診療)に就職します。

初めての実務としての手術は、そこで始まります。当然、いきなり手術を任されることはありません。

よく、失敗を恐れるな! とか、まずはやってみなさい! などと、いろいろな挑戦を煽る言葉が存在しますが、獣医師が行う手術において、それは通用しません。むしろあってはいけないことです。失敗をガチガチに恐れながら、絶対に失敗してはいけない状況で手術は行われます。

初めに行う手術は、雄ネコの去勢手術が一般的かも知れません。多くの獣医師が初めに行う手術だと思います。危険が少ない中で、学びが多いものです。

それから次第に手術件数が伸びたり、できる手術の種類が増えて行きます。

しかし、就職先の動物病院で獣医師に必要な手術を全て学ぶことはできません。動物病院では、毎日、毎週のように行う手術もあれば、1-2年に1度くらいしか行わない手術もあります。専門病院のように、行う手術を限定してあれば、毎日のようにほぼ同じような手術を行うことになりますが、一般的な動物病院では、行うべき手術は多岐に渡ります。

例えば、専門病院であれば、眼科手術だけを毎日のように行ったり、整形外科手術を毎日のように行ったりします。しかし、一般の動物病院では、避妊手術や去勢手術から、腫瘍の摘出、眼科の手術、整形外科、などなど多くの手術を行うこになりますので、どうしても数に偏りが出てきます。

私の場合には、整形外科のTPLOという手術は、前十字靭帯の損傷や断裂があれば行いますが、当然毎日のように行う訳ではありませんし、胆嚢摘出は、胆嚢粘液嚢腫があれば行いますが、1年間に数回のことです。

手術件数が少ない特殊な手術を二次診療施設に紹介する動物病院もありますが、自分で行おうとすると、技術の習得から、必要設備を整えるところまで必要ですので、費用対効果などということを考えるとできるものではありません。

ちなみに、TPLOという特殊な手術を行うために必要な設備投資費用は、国産高級車の価格を軽く超えてきます。あの「L」の車くらいします。当然ですが、失敗の許されない手術ですから、設備が整えばすぐにでも始められる訳でもありません。技術の習得が必要ですが、私はアメリカで勉強しました。

国内でのセミナーでは、模型を使うか食肉を使うかですので、実践的ではありません。例えば、TPLOの場合、皮膚のどこを切開するかとか、どうやって筋肉から骨まで到達するかとか、どこの血管が重要で、傷つけてしまうと大変なことになるとかが大切ですが、これらは模型では学べません。

それを海外では、何度も何度も皮膚切開からの実習ができますので、修了証を受け取るときには、すぐにでも手術ができる状態になっています。あと必要なのは、手術設備を整えることと、手術を実践するための「勇気」です。

こうして手術実績を1つ1つ積み重ねて、自信を高めつつ、難易度の高い手術へと挑戦することになります。