【猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア : PPDH】先天性の病気を獣医師が解説します。

先天性の病気ですので、生まれながらにすでに病気なのですが、無症状のこともあり、あらゆる年齢で発見されることがあります。また、無症状のままで生涯過ごす猫もいます。

腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)では、どのようなことが起こっているの?

これは、文字で解説するよりも、絵を見ながらお話をした方が何倍もわかりやすので、拙くて申し訳ありませんが、参考にしてみてください。

左:正常、右:腹膜心膜横隔膜ヘルニア

胸と腹を分ける横隔膜と心臓を包む心膜がつながっていて、そこに、本来は腹側にあるべき臓器が心臓の周りに入り込むものです。

入り込む臓器は、肝臓、胆嚢、肝鎌状間膜、体網、脾臓、小腸、そして稀には胃が挙げられます。そして、これらの臓器が心膜の中に留まることになります。

猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の症状

もし無症状ではない場合に、どのような症状が見られるのでしょうか?

最も一般的なのは、心臓や肺に起こる異常です。呼吸困難、咳、脈が速い、あまり活発ではない。そして、嘔吐や下痢といった消化器症状も見られることがあります。

猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の診断

どうやったら発見できるの?

猫に負担が少なく、明確に診断ができるのは、胸部X線検査です。

そして、X線検査で猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)と誤りやすいのは、心臓そのものの病気です。猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)では拡大した心臓が異常な所見として見られますが、ときに、猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)ではない心臓の病気でも、同じように見えることがあります。しかし、猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)で見られるほど、猫の心臓が拡大することはほぼないか、極めて稀なことでしょう。

もし、胃や腸がヘルニアを起こしているならば、バリウムを使ったX線検査で消化管が心臓と重なって見えます。

そして、最も詳細に病気の状態を評価できるのはCT検査です。メリットは、猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の評価だけではなく、それに付随する他の病気がないかも同時に評価できることです。猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)に付随する他の病気の中には、CT検査を行わなくても診断ができるものもありますが、CT検査が有用なものもあります。また、CT検査ではないと判明しづらい病気もあります。

CT検査のデメリットは、費用がかかることと、全身麻酔を必要をすることでしょうか。最近は、全身麻酔を使わなくても、CT検査ができる場合もあります。しかし、わずかな時間であっても、動物を麻酔なしで動かないようにすることは、全身麻酔よりもむしろストレスを与えることになるかも知れません。

手術は全身麻酔で行います。その前に、CT検査で全身麻酔をすることを心配されるご家族は少なくないかも知れません。しかし、それほど危険なことではなく、むしろ手術時間を短縮できたり、手術前にできるだけ多くの情報を得ておくためには重要だと考えています。

猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)に付随する異常

胸骨の異常:胸骨分節数の異常、胸骨そのものの異常、胸骨分節の融合および胸骨の癒合不全

腹壁ヘルニア

臍ヘルニア

心臓内の奇形

肺血管の異常

門脈体循環シャント

私が手術を行った猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)では、尿管が後大静脈の内側を回り込むように走行する尿管奇形(RCU : Rutro Caval Ureter)が見られました。

猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の治療

外科手術を行います。猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)は先天性の病気ですが、後天性の外傷性横隔膜ヘルニアの場合と同様の手術方法です。私は、腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の方が、外傷性のものよりも安全性が高いという印象を持っています。その理由は、猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の場合には、外傷性横隔膜ヘルニアとは異なり、心膜腔と腹膜腔が連続しているので術中に胸膜腔内が外気にさらされることがありません。このために、外傷性横隔膜ヘルニアの整復手術中に必要な、肺の働きを補助する陽圧喚気が必要ないからです。

しかし、猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の手術中に、心膜を傷つけてしまうことがあれば、術中に陽圧換気を行ったり、術後に胸膜腔内にある空気を取り除くためのチェストチューブを装着したりと、手術工程が増えることになります。これらの手術工程は、外傷性横隔膜ヘルニアでは、ほぼ必ず必要になるものです。猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)で心膜腔内に空気が入り込む原因には、失技によって不用意に起こることもありますが、必要なこととして、心膜切開を行わなければならないこともあります。

猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)整復手術の合併症

一般的には、猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)は合併症を起こすことはありません。しかし、外傷性横隔膜ヘルニアと同様に、胸膜腔内に空気が入り込めば、気胸が起こることがありますし、縫合して閉じた横隔膜が再度裂開して、ヘルニアが再発することがあります。

猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の予後

合併症のない猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)の予後は良好です。心臓の奇形や病気の程度によっては、予後が悪いこともあります。