犬のてんかん発作の治療薬として、日本国内では、よく使われている薬があります(新しい薬)。それまで治療の中心だった薬(従来の薬)が、長期的な仕様で副作用があるということで、この新しい薬の使用が増えました。
新しい薬と、従来の薬があります。
しかし、この新しい薬単独での使用に満足されている犬のご家族はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。
先に知っておいて欲しいことは、抗てんかん薬による治療では、てんかん発作を全くゼロにすることを目指してはいません。薬を与える前よりも、てんかん発作の回数が減れば良いという考えです。そうは言いながら、多くはほとんどてんかん発作がない状態を作ることができていますし、私が診察している犬の中には、この新しい薬だけで発作が見られず、かと言って、これをやめてしまうとたちまちてんかん発作がみられる犬もいますので、ある程度は効果的だというアメリカとヨーロッパ見解には、全く同意見です。
結論から言いますと、この新しい薬単独でてんかん発作に数が減らない場合には、やはり従来の薬を使うべきだということです。これは、アメリカでもヨーロッパでもそのような結論になっています。もし、従来の薬で肝臓への悪影響が見られる場合には、新しい薬も検討しても良いかも知れませんが、まだそのような使い方も推奨されているわけではありません。
アメリカの獣医内科学会の見解(2015年)
2015 ACVIM Small Animal Consensus Statement on Seizure Management in Dogs より
単独しようとして最も推奨されるのは、従来の薬による治療です。ここでは、新しい薬について、50%くらいの有効性との見解があります。新しい薬を他の薬、一般的には従来の薬の追加薬として使うことに対しては、効果がありそうだという見方になっています。
ヨーロッパの獣医発作学会の見解(2015年)
International Veterinary Epilepsy Task Force consensus proposal: medical treatment of canine epilepsy in Europe より
単独使用では、従来の薬が第一選択薬です。そして、新しい薬は、単独使用であっても、他の薬の追加薬としても、効果が十分ではないという見方です。
アメリカの獣医内科学会の従来の薬と新しい薬についての見解です。
従来の薬について
従来の薬として、獣医学におけるすべての抗てんかん療法の長期使用で最も長い歴史を持つのがフェニルバルビツール酸塩です。この従来薬は生物学的利用能が高く、2時間以内に急速に吸収され、経口投与の後4~8時間以内に最大血漿濃度に達します。従来の薬の大部分は肝臓で代謝され、約3分の1が尿中に薬物として変化しないまま排泄されます。従来の薬は比較的安価で、1日2回投与できます。開始用量は、経口投与で犬の体重あたり2.5 mgを12時間ごとに与えます。
発作を減らすためのさまざまな単剤療法の有効性は、合計311匹の犬に対して8件の研究で評価されました。それによりますと、発作の回数が治療前よりも50%以上減った犬が、全体の82%あり、そのうち全く発作がみられなかったのが31%、そして効果がみられなかった犬は15%でした。
新しい薬について
新しい薬については、研究発表が少なく、3件の研究での結果を示します。アタrしい薬単独の治療を行った10匹の犬の場合、てんかん発作が50%以上減ったのが6匹(60%)、4匹は発作の回数が減らなかったか、逆に増えてしまいました。
ヨーロッパの獣医発作学会の従来の薬と新しい薬についての見解
従来の薬は安全な薬物で、その有効性は、てんかん発作がみられる犬の60から93%でみられます。治療中の血中濃度は、25から35mg/l(単位に注意)ですと有効に薬が働いていると考えられます。
新しい薬についてん有効性を示せる報告はありません。ただ、開始容量は、体重1kgあたり3-7mgで、有効血中濃度は、10-40mg/l(単位注意)です。
以上が、アメリカとヨーロッパのそれぞれの権威ある団体によるガイドラインです。
従来の薬を使用しながら、定期的に血液検査で、薬物濃度を測定することで、できるだけ少なく、そしてちゃんと効果的な薬の量を選ぶことができれば、安全に使えるものだと考えています。
もし新しい薬単独で犬のてんかんが多くみられるようでしたら、かかりつけの獣医さんに相談されても良いかも知れませんね。