大切な家族が、病気や老衰などで、この先あまり長くはないとわかった時に、犬や猫は幸せなのだろうかと残るご家族が心配されることがあります。
そして、どうしてあげるのが良いのだろうかという思いも答えがないものとして、残るご家族を悩ませることになるかも知れません。
言葉を話さない家族が、実際に何を求めているかは、誰にもわかりませんし答えのない疑問になりますが、ここにある程度の評価基準があり、それを使って幸福度を測定する方法をご紹介します。
先にお伝えするべきこととして、このスコアを用いたとしても、どうぶつが何を望んでいるか、そして幸福かという疑問に対して、確実に正しい解答にはならないと思います。できるだけどうぶつのご家族の皆様の主観的な価値観を最優先し、ご家族の方が、こうしてあげるのが良いだろうと思うことをやることが良いと考えています。
HHHHHMMというスコアリングがあります。
5つのHと、2つのMを使った、どうぶつの幸福度を測る評価方法です。
5つのHとは、痛み・苦痛、飢え、水分補給、衛生、幸福であり、2つのMとは、どうぶつの活動・動き、そして状態が悪い日よりも、良い日の方が多いというものです。
それぞれを0から10までの評価をします。
0が許容できない、悪いということで、10が優れている、良いということです。
うえの5つのHと、2つのMのそれぞれに対して、0から10で評価し、合計が35以上であれば、どうぶつは今の環境を受け入れているということになります。
どうぶつの在宅でのケアを行う場合、獣医師の協力は何かしら必要になります。
私が特に大切にしたいと思っていることは、ご家族の方が、これまで一緒に過ごしてきたどうぶつとのお別れに際し、できるけ後悔されないように、そして十分な時間をかけてお別れができるようにすることです。
その時に、獣医師として、落ち度がないように、そしてどうぶつのご家族からの信頼に真摯に答えられるように心がけています。もし、私に落ち度があったり、どうぶつのご家族からの信頼に疑問を持たれるようなことがあれば、それは直接、どうぶつの終末医療に対し、十分だったのだろうかという疑問にも繋がると考えるからです。
大切にされてきたどうぶつの最後ですから、とても貴重な時間でもあり、そこを言わば他人である獣医師の姿勢によって、傷がついてはいけないと考えます。そして、また、獣医師が懸命に終末医療に取り組むことによって、どうぶつのご家族の心の支えとして、僅かでも貢献できれば、それは獣医療でどうぶつの命を救うことができなかった獣医師のせめてもの役割だとも考えています。
ますは、5つのHからご紹介します。
Hurt(スコア0から10で評価):痛み・苦痛
まず評価をする中で、最も優先されるべきは、痛みの緩和です。これには、どうぶつが適切に呼吸ができているかどうかも含まれます。呼吸ができないことは、痛み尺度のトップランクに位置付けられるため、どうぶつに適切な呼吸をする能力があるかを注意深く評価する必要があります。胸水がある場合には、必要に応じて獣医師を相談しながら胸腔穿刺を行うことになるかも知れません。
ご家族の皆様は、どうぶつが苦労して呼吸をしてはいないかを注視し、必要に応じて、在宅酸素設備を用意することも検討すべきかも知れません。医療用酸素設備は、獣医師による処方が必要ですので、かかりつけの獣医師と相談をしてみてください。
そして、痛みの緩和には、飲ませる薬や、皮膚に貼るもの、そして、注射などがあります。治療的であったり、予防的にも使われ、痛みのない状態を維持できるようにします。
Hunger(スコア0から10で評価):飢え
十分に食べられていますか?自ら喜んで食事ができているでしょうか?あるいは、ご家族の手から食事をすることもあるでしょう。ときには、栄養チューブを使って栄養摂取が必要かも知れません。特に病気のどうぶつでは、体重を維持するために、1日にどれだけ食べる必要があるかを知っておく必要がありますし、その量を与えるためにはどうするべきかの指導を受けることも大切です。それができない場合には、どうぶつは急速に栄養失調に向かいます。健康的で風味豊かな食品を提供すれば、多くのどうぶつははるかに長生きできます。ご家族は、どうぶつに流動食や、ブレンダーを使って細かくした食事を与えることができます。
私は、食欲が低下したどうぶつのご家族には、まず食べられる(アレルギー反応のない)お肉を与えてみることを勧めています。特に茹でた鶏ササミが好きな動物は多く、よく食べてくれることがお多いという印象ですが、日頃から味付きの食べ物を食べている場合には、鶏ササミでも食べてくれないこともあります。そのような嗜好性の高い食べ物であっても病気のために嗜好だけではない原因で食べないこともあります。
もし茹でたお肉を食べてくれていたどうぶつが、それを拒むようになった場合には、焼いて与えてみることもお勧めしています。同じお肉でも、調理の方法によっては受け入れてくれることがあります。
Hydration(スコア0から10で評価):水分補給
どうぶつは脱水してはいませんか?獣医師から、あなたのどうぶつが脱水していないかどうかを評価するための方法を聞いておいてください。ご家族に、どうぶつがどれくらいの水分を必要としているかをお伝えするようにしています。犬の場合には、1日あたり、体重1kgにつき50ml
ほどですので、体重5kgの犬ですと、250mlは飲むことがあります。食事からも水分を摂取できますので、飲み水だけですと、250mlよりも少なくなることが多いですね。
そして皮下点滴は、どうぶつの健康維持にはとても重要です。特にご家庭で水分摂取量を補う必要がある場合には、皮下点滴を行うのが良いでしょう。しかしながら、ご家庭でどうぶつに針を刺さなければなりませんから、一見とても難しそうで、無理ではないかと心配されるご家族がほとんどですが、私の動物病院では、今のところご家庭での皮下点滴をご提案したご家族で、辞退された方はありません。皮下点滴で、水分補給を補うことができますと、どうぶつの生活の質に明らかな違いが生じることがあります。
Hygiene(スコア0から10で評価):衛生
どうぶつは、特に排泄の後には、清潔に保つ必要があります。それに限らず、良好な衛生状態は必須です。ブラッシングをしてあげることはできますか?トイレの配置によっては、排泄後にどうぶつが自らの排泄物の上に横たわってしまうことがあります。そのような場合には、汚れた部分を洗ってあげてください。もし、毛が長くて、頻繁に洗うことが困難な場合には、毛を短く保つことも良いでしょう。
壊死を伴う口腔内の腫瘍がある場合には、臭いが強く、どうぶつだけではなく一緒に生活されるご家族も不快になることがあります。口の周りや、手足に付いた臭いのある汚れを取り除くには、ときにレモン汁とオキシドールでスポンジを湿らせて、顔や手足を優しく撫でてください。犬も猫も、このグルーミングが大好きです。
Happiness(スコア0から10で評価):幸福
幸福は、どうぶつにも、そのご家族にも重要です。どうぶつが何を望んでいるかを自問してください。このときに、あなたが考えた答えは、正解なはずです。どうぶつの望みは、あなたの中にあるはずなので、直感的に答えた内容は、熟慮して出した答えと同じはずなのです。
病気や老いて体を自由に動かすことのできないどうぶつは、大好きな家族の明るい挨拶とふれあいを楽しむことができていますか?ベッドを、家族の活動の中に移動させて、ひとりぼっちにはしないでください。孤独、不安、退屈、恐怖から解放されていますか?楽しみにしている日常の時間はありますか?
Mobility(スコア0から10で評価):モビリティー
立ち上がって、ごく普通の欲求を満たすのに十分に動き回ることができていますか?散歩に出かけるのを楽しみしていますか?そして、散歩はできていますか?中枢神経疾患の何かしらの兆候や発作はありませんか?ハーネス、スリング、またはカートで出かけることはできますか?それらは役に立っていますか?薬を使うと、動きは良くなりますか?自ら自由に動くことができないどうぶつに対して、2時間ごとに体を回転させて床ずれを予防することができますか?寝具の素材は柔らかいものですか?
More Good days then Bad(スコア0から10で評価):良い日の方が、悪い日よりも多い
もし、逆に悪い日が良い日よりも多い場合、どうぶつの苦しみはかなりのものになるでしょう。そして、生活の質が損なわれすぎている可能性があります。どうぶつの家族の心身が健康ではなくなった場合、人とどうぶつの絆が破綻しそうになるとき、介護生活に終わりが近づいていることを認識しなければなりません。
悪い日とは、嘔吐、吐き気、下痢、転倒、発作などの望ましくない経験に満ちている日です。さらに悪い日とは、悪液質や貧血による重度の衰弱、または腫瘍による段階的な圧迫または閉塞、または大きな腹部の腫瘍などによる不快感が続く日です。
獣医師は、どうぶつの最後の数日や数時間に、最も強力な鎮痛薬を使用することで、痛みなくお別れができることを保証できるはずです。
クオリティー オブ ライフ プログラムの一環として、生活の質を「HHHHHMM」スケールを使用して測定することで、ご家族を生涯にわたって悩ませる、愛するどうぶつの死に対する不安と後悔を和らげることを願っています。