【犬の僧帽弁閉鎖不全症】ステージ分類を獣医師が解説します。

いくつかの分類方法があります。

犬猫の診療を行う獣医師が、国際的な心臓病審議会(ISACHC)が1999年に公表した分類と、アメリカの獣医内科学会が2009年に公表した分類です。ここで、誤解のないようにしなければならいのは、ISACHCの分類は、あくまで心臓病全体についてで、僧帽弁閉鎖不全症だけを分類しているのではないということです。

ISACHCによる分類

  • 1. 心不全の兆候なし
  • 1a. 心疾患の所見あり、心拡大なし
  • 1b. 心疾患の所見あり、心拡大あり
  • 2. 軽度から中程度の心不全
  • 激しい運動や興奮で心不全の兆候がみられる
  • 3. 重度の心不全
  • 3a. 安静時でも心不全の兆候がみらる。通院治療が可能。
  • 3b. 肺水腫や循環不全がみられる。入院しての管理が必須。

ACVIMによる分類

  • ステージA:心疾患のリスク犬種で、現在は心臓に異常を認めないもの
  • ステージB:心雑音が認められるが、肺水腫のようなうっ血性心不全を起こしたことがない
  • ステージB1:うっ血性心不全兆候なし、左心拡大なし/li>
  • ステージB2:うっ血性心不全兆候なし、左心拡大あり
  • ステージC:現在やこれまでにうっ血性心不全兆候あり
  • ステージD:標準的な治療に反応しない末期の心不全

それぞれの分類は、国際的にも権威ある獣医師達が議論を重ねて練り上げたにも関わらず、これだけで犬の心臓病の十分な評価は難しいとう意見もあります。

このような分類を使って、治療の内容を決めようとした場合に、これだけでは十分ではないというわけです。例えば、ステージCだから、この治療をしようとしても、犬の僧帽弁閉鎖不全症でステージCというだけでは、その中でも軽いものから重いものまでありますので範囲が広すぎて治療内容も多様になります。

このように、病気を分類する場合には、できればそれに伴って治療内容もある程度絞り込めると助かります。そのような意味では、上の分類だけでは十分ではないという声があります。

犬の僧帽弁閉鎖不全症には、その重症度によってみられる症状が増えてきます。

まずは咳、運動不耐性、食欲低下、息切れ、失神などと、初めは一つだった症状も、症状の悪化に伴って他の症状が追加されていきます。そして、わずかだった心雑音の程度も次第に目立っていきます。

ISACHCの分類とACVIMの分類を重ねてみます。

  • ISACHCのクラス1aは、ACVIMのステージB1
  • ISACHCのクラス1bは、ACVIMのステージB2
  • ISACHCのクラス2から3aは、ACVIMのステージC
  • ISACHCのクラス3aから3bは、ACVIMのステージD

そこで、ISACHCの分類に基づいて、それぞれのクラスをご紹介します。

ISACHC クラス1

心不全の兆候なしとは、何を意味するのでしょうか。心不全兆候は、運動不耐性、咳そして肺水腫ですが、運動不耐性とは、運動の量が減ることを言います。しかし、この運動不耐性は、ゆっくりと進行するものですので、飼い主さんは、年齢的に活動的ではなくなったと思われることが多いようです。

次に、心拡大の有無ですが、これはX線検査と心臓超音波検査で評価をします。椎骨心臓スケール(VHS)というX線検査で使う評価方法があり、これで心拡大があるかどうかをみています。

クラス1は、無症状ということですが、咳は飼い主さんがよく教えてくださいますし、心拡大はX線検査で容易にわかります。そして、運動不耐性が最も評価があ難しく、飼い主さんからの問診で全てがわかるわけではありません。

運動不耐性の具体例は、散歩や運動での疲れやすさです。飼い主さんは、犬が依然と比べて、運動量や時間の面で同じように散歩や運動ができているかを気をつけて置かれて、獣医師からの質問に答えていただけると、この運動不耐性があるかどうかの評価がしやすくなります。

身体検査では、心雑音が認められます。これは聴診器で評価可能です。

ISACHC クラス2

ISACHCクラス2の軽度から中程度の心不全の評価は、まずは獣医師が行う聴診での心雑音評価です。獣医師は犬の心臓の雑音を6段階で評価することが多いのですが、クラス2ですと、3段階目以上の雑音が聞かれることになります。

X線検査でも、中程度に拡大した心臓がみられます。また、飼い主さんが犬の咳を気にすることも多くなります。

ISACHC クラス3

ISACHCクラス3では、肺水腫がみられます。これは、最終クラスです。肺水腫が改善しない場合には、犬が助かる見込みがなくなります。ヒトの場合には、肺水腫患者さんは、集中治療室で治療を行うようです。24時間体制で治療に当たるということです。

犬の場合も、基本的には入院管理になりますが、私は朝の早い段階で治療ができて午後にはある程度落ち着く場合には、肺水腫でも通院に切り替えることがあります。

しかし肺水腫の犬のほとんどを入院管理するようにしています。それでも、急な悪化や、薬に対する反応が乏しい場合には、回復が不可能になることもあります。

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、決して治ることのない心臓の病気です。

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