【犬の椎間板ヘルニア】手術をしたら、本当に治るの?獣医師が解説します。

まずは結論から

術後成績に関係することは、犬の椎間板ヘルニアが起こった椎体、その重症度手術までの時間、そして、手術の方法、手術が行われた年代、またいろいろな統計や報告がありますので、一様ではないのですが、下は胸腰椎に起こった犬の椎間板ヘルニアに対して、片側椎弓切除術という方法を選択した場合の術後成績です。胸腰椎の椎間板ヘルニアは、犬の椎間板ヘルニアの中でも最も多いもので、片側椎弓切除術は、最も多く選択される術式です。

下の表は、7つほどの文献から数値を計算したものです。7つの文献は、それぞれ異なる動物診療施設で、オーストラリア、英国、アメリカ、などのもので、日本のデータは含みません。ただ、私が聞いている日本のデータは、これよりも良いと予想されます。

  • グレード 1 :8匹の術後回復率は100%
  • グレード 2:55匹の術後回復率は96%
  • グレード 3:68匹の術後回復率は95%
  • グレード 4:56匹の術後回復率95%
  • グレード 5:21匹の術後回復率は85%
犬の椎間板ヘルニアの重症度分類は↑をご覧くださいね。

上の表は、複数の動物診療施設、主には大学の動物病院の術後成績です。合計していますので、中にはグレード1から5の手術でも全て100%という回復率を報告しているところもあります。

いずれにしても、結果を見ると良い術後成績が期待できます。

ただし、脊髄神経疾患ですので、結果は結果ですが、もちろん手術をしても回復に時間がかかることもありますし、回復しない可能性を飼い主さんにお話をしてから手術をお受けすることになります。ときに、悪化することも全くないとは言えません。

それでも結果としては、かなり高い術後回復率だと言えます。

犬の椎間板ヘルニアの治療には、手術を行わない内科治療と、手術による外科治療があります。

内科治療

犬の椎間板ヘルニアの内科治療は、主に痛みの緩和を行います。他には、運動制限です。痛み止めの薬は、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDS)という種類のものを使うのが一般的です。そして、ステロイドは使うべきではないという意見もあります。

これは、獣医学領域でよく言われる「根拠に基づいた治療」によるものです。いろいろな論文で紹介されているものは、根拠のある治療ということになりますし、よく効く治療でも論文になっていないと根拠のない治療という扱いになります。そして、大学の先生や、セミナーの講師をするような方々は、特にこの根拠に基づいた治療を紹介することに力を入れる傾向があります。

しかし私は、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDS)もグルココルチコイド(ステロイド)もどちらもそれなりに使うのですが、しっかりと効果がみられるのは、ステロイドだと考えています。痛みについては、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDS)が良いのかもしれませんが、おそらく犬の椎間板ヘルニアでみられる症状は、全てが痛みだけではなく、他にも犬を苦しめている原因があって、それに対しては非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDS)よりもステロイドの方が効果的なのかも知れません。←私の意見であり、まさに根拠のない治療です。

犬の椎間板ヘルニアの疫学

疫学調査とは、犬の椎間板ヘルニアを起こしやすいのは、どのような犬かの調査結果です。

最も椎間板ヘルニアになりやすいのは、ミニチュア・ダックスフンドです。全体の30%を超えるという報告もあります。

犬の椎間板ヘルニアには、Hansen 1 型とHansen 2型があります。ミニチュア・ダックスフンドがなりやすいのはHansen 1型です。Hansen 1型は、Hansen 2型と比較して、外科手術の反応が良いので治療に反応しやすいと言えます。

そして、椎間板がある脊椎は、首、胸、腰とあります。すなわち、頸椎、胸椎、腰椎ですが、ミニチュア・ダックスフンドは、胸椎の最後と腰椎の始まりの前後で椎間板ヘルニアを起こしやすく、3歳から7歳で多くみられます。一般的に、犬の椎間板ヘルニアが多いとされる年齢は、2歳から6歳です。

皆さんが思っていたよりも、若いのではないでしょうか。もちろん、高齢でも起こります。

外科治療

犬の椎間板ヘルニアの外科治療は、骨を削り、飛び出した椎間板を取り除いたり、飛び出した椎間板によって圧迫される脊髄神経から圧迫を取り除くことが目的です。

手術の方法は、首、胸、腰のそれぞれの椎体のどこに、椎間板ヘルニアが起こったかによって異なりますが、主には首にはベントラルスロット、胸、腰には片側椎弓切除術を行います。

ベントラルスロット

ベントラルスロットは、犬の椎間板ヘルニアが首、すなわち頚椎に起こった場合に用いられる手術方法です。ヒトで言うところの、ノドの方から手術を行います。ノドの皮膚を切開して、器官や食道を分けて、首の骨まで露出して、そこをラウンドバーというドリルで削るのが一般的です。他には、超音波乳化吸引装置を使って、首の骨の一部を乳化しながら吸引して穴を開けることもあります。

この頸部椎間板ヘルニアを内科治療した場合の再発率は50%以上と言われています。そして、頸部椎間板ヘルニアは、胸腰部椎間板ヘルニアと比較して痛みが強いといされています。

片側椎弓切除術

胸や腰の椎体に椎間板ヘルニアが起こった場合には、ほとんどがこの片側椎弓切除術で治療をします。背中の皮膚を切開して、背骨を露出して行う手術です。これも露出した背骨にラウンドバーや丸ノミ(ロンジュール)を使って穴を開けます。その開けた穴から飛び出した椎間板や椎間板物質を取り除きます。

私は難しい手術ではないと思っていますが、実際に行なっている動物病院は少なく、その理由は、かなり慎重な手術が要求されるということだと思います。

脊髄神経に優しく触れながら椎間板物質を取り除いたり、脊髄神経のギリギリ近くを高速で回転するラウンドバーで背骨の切削をしなければなりませんから、ちょっとでも操作を誤りますと、取り返しのつかない事態になります。

しかし、私もある程度の数の手術を行なっていますが、慎重にやれば事故は起こりようもなく、安全策もいろいろとありますから、挑戦すべき手術だと考えています。

話は手術を行う獣医師から聞くことをお勧めします。

犬の椎間板ヘルニアは、ある程度多い病気にも関わらず、外科治療ができる獣医師は多くはありません。(少ないとも言えませんけど。)

そこで、病気の説明や治療のこと、そして手術についての説明をされることがありますが、これはできれば手術を行う獣医師から聞くことをお勧めします。

犬の椎間板ヘルニアの手術ができないだけで、手術に対する知識は十分にあるという獣医師はいないからです。

肉じゃがは一度も作ったことがないけど、プロ並みの知識がありますよ。という料理人のようなものです。残念ながら、ある程度のところまでの知識に止まりますし、手術を行う獣医師の方が具体的な話ができることは自明です。