【犬の進行性網膜萎縮】白内障、失明が起こる治らない病気。獣医師が解説します。

犬の進行性網膜萎縮(PRA)

結論から書きますね。

  • 治療方法も予防方法もありません。
  • 初期には夜盲(暗いところでの視覚低下)が見られます。
  • 失明する。
  • 犬の進行性網膜萎縮(PRA)→白内障→前部ぶどう膜炎→緑内障と続くことがあります。

犬の進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)は、遺伝性の病気です。そして、進行します。進行するとは、悪化を続けるということです。治ったり、悪化が止まったりはしないのです。これは、初めは片目に起こることもありますが、最終的には両目に現れます。そして、失明します。

私が診察をするPRAの犬は、ほとんどがミニチュア・ダックスフンドですが、米国での統計では、いろいろな犬種に見られるという報告があります。この病気は遺伝性ですので、進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)の犬は繁殖には向きません。つまりは、子供にもこの病気が遺伝するということです。しかし、この病気がわかるのは、ある程度成長が進んでからが多いので、もしかすると病気がわかる頃には、すでに出産経験があるかも知れません

視細胞には、杵体細胞(かんたいさいぼう)錐体細胞という細胞があります。そして、進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)では、はじめに杵体細胞が障害を受けます

杵体細胞は、光覚と言って明るい暗いの強弱を見分ける細胞です。ヒトでも暗がりで目が慣れてきて、物を見ることができますが、その時に働いているのは杵体細胞です。そこが障害を受けますので、まずは暗がりでものを認識し辛くなります。夜盲と言われるものです。

お家でできる夜盲かどうかの簡易テスト

テストをすることができます。

室内で犬を壁側に置き、あなたは反対側の壁側にいて犬を呼んでみてください。あなたの方に歩いてくることができますか?もしできたら、今度は、犬とあなたの間に、椅子やコミ箱など、適当に障害物を置いてみて、その間を偶然ではなくくぐり抜けてあなたのところまでくることができればまずは視覚はあるとみて良いですよね。

そして、ここからですが、同じ障害物を置いたまま、部屋を暗くしてみてください。真っ暗にする必要はありません。あなたが犬を認識できるくらいで、薄暗い程度で構いません。犬を呼んで、薄暗い中でも障害物を避けて来ることができたら杵体細胞が働いているということです。

薄暗ければ、ヒトだって障害物にぶつかるだろうと考える方もあると思いますが、犬の場合、明るいところでものを認識する細胞と、暗いところでものを認識する細胞の数は同じくらいあります。本来は暗がりでも、ヒトよりもちゃんと物を見ることができています。

進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)の検査

進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)の検査は、検眼鏡検査網膜電図(ERG)検査、そして遺伝子検査を行って診断をします。

一般的な動物病院ですぐにできることは、検眼鏡を使った検査です。眼底を観察して、網膜の変化を調べます。つまりは、これを行わないとわからないということです。全く失明していたらわかるかも知れませんが、早めに気づいてあげることが大切で、そのためには眼底検査は欠かせません。

そして、特別なところ、例えば動物眼科の専門病院などにある網膜電位を調べる装置を使ってどれくらい見えているかを調べることもできます。そして、この網膜電図(ERG)検査は、検眼鏡を使った眼底検査よりも早期に進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)を見つけることができます。

ただ網膜電図(ERG)検査は、専門病院に行かないとないので普通は一時診療施設(かかりつけの動物病院)での眼底検査で異常を認めたら、その動物病院の紹介で動物眼科の専門病院に行って調べることになります。

進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)に続いてみられる怖い病気があります。

目にあるレンズを水晶体と呼びますが、進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)ではこの水晶体の栄養供給に障害が起こります。すると、水晶体は濁り始めます。これが白内障です。つまりは、白内障も進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)によって起こることもあるということです。

そして、白内障が進行すると、水晶体起因性ぶどう膜炎というものが起こり、さらには水晶体脱臼が起こったり、緑内障が起こることがあります。

何かできることはありますか?

白内障自体は、手術をしても進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)の犬では視覚が戻りませんので、あまり適応ではありませんが、かと言って何もしないと上記のような続発性の疾患が次々に起こることがありますので、進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)から白内障がみられたら、ぶどう膜炎の予防措置を講じることも大切です。

その措置とは、基本的には1日2回の点眼です。私はよくジクロフェナックという目薬を使って、ぶどう膜炎の予防をするようにしています。

そして、進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)から続発性に起こる白内障で、水晶体脱臼が起こってしまったら、外科的に、つまりは手術をしてその水晶体を目から摘出しなければならないことがあります。

そして、緑内障が起こると、初めは目薬などで管理できますが、そのうちに目薬ではどうにもならなくなることが多いので、そこまでくると眼球摘出も考えなければならなくなります。

すべての進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)の犬が、白内障→水晶体起因性ぶどう膜炎→緑内障と進むとは限りませんが、白内障まではほぼすべての進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)の犬の経過と考えても良いと思います。

ミニチュア・ダックスフンドに白内障がみられ、視覚異常があるとすると、もしかして進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)が起こっているかも知れません。一応、犬種によって起こりやすさはないとはされますが、やはり日本ではミニチュア・ダックスフンドに多い印象です。

もしかしたら、ミニチュア・ダックスフンドが流行した時に、進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)の親犬がたくさんの子犬を生み、その子孫が多くなっているということも否定できません。なにせ繁殖制限をすべき遺伝性疾患ですから。

失明は免れませんが、生活の質の低下は限定的です。

私が診察をしている進行性網膜萎縮(progressive retinal atrophy:PRA)の犬は、上記の目薬でぶどう膜炎を予防できることが多いですので、水晶体摘出や眼球摘出などの手術まで行うことはほとんどありません。

あなたの犬が視覚異常、すなわち、見えていないかも知れないなと思ったら、かかりつけの先生に、眼底検査を依頼することをお忘れなく。