【犬の膝蓋骨脱臼】手術が必要と言われても…。獣医師が解説します。

犬の膝蓋骨脱臼

よくパテラと呼ばれるのですが、パテラとは病名ではなく、膝蓋骨のことです。膝蓋骨とは、いわゆる膝のお皿のことです。膝蓋骨脱臼をpatellar Luxationと言います。

この膝のお皿(膝蓋骨)が、正常な位置からずれてしまっているのを脱臼と呼びます。そして、この脱臼にはいくつかの程度を評価する段階があります。グレード分と言うものです。下はそのそれぞれのグレードです。色々なサイトで見ることのできるものです。

  • グレードI 膝蓋骨は手で動かすと脱臼するけれども、手を離せば正しい位置に戻る
  • グレードII 膝蓋骨は膝を曲げるか、手で動かせば脱臼するが、膝を伸ばしたり手で動かすと正しい位置に戻る
  • グレードIII 膝蓋骨は常に脱臼したままで、手で元の正しい位置に動かすことができるが、手を離せばまだ脱臼する
  • グレードIV 膝蓋骨は常に脱臼したままで、手で元の正しい位置に動かすことができない

では、どのグレードで手術をするのが良いか。これは簡単には答えられない質問です。

例えば、生後半年の犬がグレードII であれば、膝を曲げるという自然な動作でも脱臼する訳ですので、成長の過程でおそらく悪化すること、すなわちグレードIII に移行することが予想されます。

また、グレードIII では、膝蓋骨は常に脱臼したままで、この状態が続くと膝の軟骨(大腿骨の滑車溝や滑車稜)がすり減り、関節炎や滑膜炎などが起こるようになります。

上の二つの例では、おそらくどちらのグレードでも、犬は見た目には普通に歩いていることが多いものです。

飼い主さんは、時々後ろ足をあげるということで動物病院で受診されることが多く、歩けないからという理由ではないことが多いものです。

そこで、獣医師から手術の話があると、理解可能なこともあるでしょうけれども、理解し辛いかも知れないこととして、今は歩けないわけではなく歩けている。でも手術?ということではないでしょうか。

ここで、飼い主さんが見ているのは、現状であり、獣医師が見通しているのは今後です。ときに、先生、今は歩けているから様子をみてもいいですか?と言われることがあります。このことは、もっと悪化してから(ほぼ確実に悪化しますが、)治療を考えます。ということになります。

膝の関節を作っているものに、膝関節滑膜というものがあります。ここが炎症を起こすと、炎症に伴い、炎症に関連する物質が膝関節に増えてきます。この中には、前十字靭帯の強度を弱めてしまうと考えられるものもあります。

前十字靭帯の断裂の犬では、よく膝蓋骨の脱臼を伴っているものをみます。外科治療を行う時には、同時に治すわけですが、もしかしたら、早い段階で膝蓋骨脱臼の整復手術を行なっていたら、前十字靭帯は保護できたかも知れません。これには肯定する根拠はまだありませんが、否定する根拠もありません。

犬の膝蓋骨脱臼の手術

この手術は難しいです。事故や病気ではなく、自然に脱臼したわけですから、それに対抗する力を作り出す必要があります。歯科矯正に似ているかも知れません。自然に起こった脱臼を矯正するかのごとく、正しい配列に戻す手術です。

手術方法は、別記事にします。

では、どのタイミングで手術を受けるのがいいのか?

1歳未満であれば、グレードIIであれば手術を検討すべきだと思います。問題なく歩けていると思いますが、今後悪化することはほぼ必至です。微妙なタイミングもありますから、かかりつけの獣医師と相談してみてください。

1歳以上であれば、グレードIIでは検討、そしてグレードIIIでは手術を受けるべきです。この段階でも、普通に歩けている犬が多いかも知れません。それ故に、飼い主さんは手術をためらうでしょう。しかし、確実に関節環境は悪化します。もっと悪くなってからでも手術は可能ですが、治りが良くないですね。

最後に大切なこと。

手術のタイミングなどは、実際に手術ができる獣医師に相談すべきです。膝蓋骨脱臼の手術はしないけど、よくわかっていますよという獣医師もいるかも知れませんが、残念ながら、手術をする獣医師ほどはわかっていません。当然ですよね。膝蓋骨脱臼の手術をやったことがないわけですから、やっている獣医師の方が詳しいのは当然です。