犬の胃拡張捻転症候群とは?
胃が拡張して捻転する(ねじれる)病気です。原因は解明されていませんが、胃の中に大量の内容物がある状態で、運動をするなどして胃が動くようなことがあると、胃拡張捻転症候群が起こる可能性がある。
胃がねじれるので、胃の入り口も出口も閉じてしまいます。イメージとしては、キャンデーの包みのようです。
胃拡張捻転症候群になると犬はどうなるの?
そうなると、犬はヨダレを垂らしたり、吐き気を見せますが、吐くことができず、腹痛があり、お腹が膨満し、呼吸困難が起こったり、口の中の粘膜が蒼白になったり、虚脱して動けなくなったりします。お腹を触ると、石のように固くなっています。そして、ショック(循環障害)が起こり、ときに致死的になります。もっとも特徴的なのは、吐きそうにして吐くことができないことと、恐らくはこれまで見たこともないような苦しそうな状態になります。
胃拡張捻転症候群が起こると、犬はとても苦しそうにして、もがき苦しみます。そして、治療をして胃にかかった圧を解除するまでこの苦しみは続き、もしも治療に時間がかかると、生命の維持が極めて困難になります。
そして、この胃捻転拡張症候群は、多くの場合、食後すぐに起こります。
治療は動物病院でないとできません。とにかく急いで動物病院に行くべきです。そして、獣医師が読むこの病気の治療には、胃の減圧処置を急ぐべきだと書かれていて、その方法は、太いチューブを口から胃の中に挿入して、胃の中のガスを溜まっている水や食べ物を取り除くとなっています。
私から見ると、ナンセンスです。これで本当に解決するのでしょうか。
もっとも確実に減圧処置ができるのは、全身麻酔を行ってからの胃切開です。これで、ガスも水も食べ物も確実に取り除くことができて、しかも早い処置が可能です。
以前に聞いた話ですが、若い獣医さんが夜勤をしている夜間救急で、胃捻転の犬が運ばれてきたそうです。獣医さんは胃拡張捻転症候群とすぐに診断ができましたが、本のとおりにチューブを口から胃まで挿入しようとしたところ、これがなかなかできずに、結果として犬が死んでしまったということです。獣医さんとしては、手順どおりにやったのでしょうが、書かれているようにはできないこともあります。
エピソード
また別の話ですが、私がまだ獣医師になって1-2年くらいのころ、胃拡張捻転症候群を思わせる犬の往診に行くことがありました。往診先で胃捻転と判断できたので、急いで動物病院に連れ帰りました。車で犬を運ぶ間、皮膚から胃に向けて太めの針をさして胃の中の空気を抜いて状況の好転をはたっかことがあります。やらないと死んでいたでしょうが、動物病院に着く頃はある程度落ち着いていて、結局手術も何もしないままお家に帰るところまで回復したのを記憶しています。
食後まもない時間に、犬が吐きたそうにして吐くことができずにいるとき、そしてとても苦しそうにしているとには、この胃拡張捻転症候群が疑われます。とにかく動物病院に急ぎましょう。
胃拡張捻転症候群になりやすい犬種が報告されています。
グレート・デン、ワイマラナー、セント・バーナード、ジャーマン・シェパード・ドッグ、アイリッシュ・セター、ドーベルマン・ピンシャーなどです。
胃拡張捻転症候群には、2つの型があります。
・胃拡張(胃が大きくなった)だけのもの
・胃捻転をともなう胃拡張
です。発生率は、捻転をともなう胃拡張が圧倒的に多いですね。そして、捻転を伴わない胃拡張は、異物を飲み込んで胃の出口(幽門部)に詰まったものなどを見ることがあります。
秋に急患で診察をした胃拡張の犬は、夏に誤って食べてしまった桃の種が詰まっていました。そのときには、拡張のみで捻転はありませんでしたが、開腹手術が必要でした。このような胃拡張のみよりは、捻転をともなう場合の方が多く見られます。
胃拡張捻転症候群では、胃がお腹の中で大きくなることで、大きめの血管(門脈や後大静脈)が圧迫されて、後ろ足から心臓に戻る血管の主要なものが塞がれてしまいます。すると、お腹にある臓器に血液がたまり、特に脾臓は大きく腫れ上がることがあります。
このような脾臓は、拡張して捻転した胃が元に戻っても、脾臓への血流が戻らなかったり、すでに変色しているようなら脾臓摘出をしなければなりません。これが、胃拡張捻転症候群と、病名に症候群がつくところであって、胃にとどまらない問題がみられます。
治療の基本は、胃の減圧です。相当に高まった胃の中からの圧力を、早くに解除することです。その方法として、本には口から胃にチューブを挿入して、チューブを通して胃の中のガスや液体などの胃内容物を取り除くという方法が書かれているのが常です。私が獣医師になったときからずっとそうです。
なぜだかわかりませんが、すぐに胃切開をした方が確実なのに、そうは書かれていません。しかし、私と同様に胃切開をする獣医師は多いようです。でも、頑張ってチューブ挿入をする獣医師もいるでしょうね。でも、とても難しいでしょうね。キャンディーのように、ねじれていれ、簡単にはチューブなど入っていきませんから。
予防があるのかな?
予防は、完全なものはありませんが、ある程度有効なものはあります。
一つ目は、食事と運動の検討です。お腹いっぱいに食べ物を詰め込んだ後で、運動をすると、胃拡張捻転症候群が起こりやすくなるとされます。特に上記のような起こりやすい犬種では、1日に1食しか与えない飼い主さんもいます。つまりは、1日分を1回で与えてしまうという訳です。それを辞めて、数回に分けることで、リスクを減らすことができます。それと、食後の運動です。お腹いっぱいになった胃で運動をすると、捻転の危険があります。食後はしばらく運動をさせないことも大切です。
二つ目は、予防的胃固定術です。これは、予防的に胃の一部をお腹の壁に縫い付けて、ねじれないようにする手術です。開腹手術として行うことがほとんどですが、最近では腹腔鏡を使って行うこともあります。腹腔鏡下予防的胃固定術と呼ばれます。または、腹腔鏡補助下予防的胃固定術というものです。
この病気になったら助かるのでしょうか?
術後3日間生存できて、再発しなければその後も良い状態を維持できるとされます。しかし再発も多いですし、予防的胃固定術を行っても完全な予防ではありません。あわせて、食事量、食事回数、食後の運動に気をつけなければなりません。
そして死亡率も高く、ある統計では、30%の犬が死亡するというものもありますが、私の印象は、ちゃんと早くに気づいてもらって早くに手術ができれば、かなり多くの命が助かるというものです。
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