【犬の出産の分娩ステージと難産!!】獣医師が解説します。

犬の妊娠期間は平均63日です。

犬の難産は、特別な犬種を除くと、その発生率は5%前後です。

また、頭の大きな犬種では、ほぼ100%が難産ということもあります。

交尾日から分娩日までとなりますと、56日から72日とかなり幅があり、排卵日から分娩日までの日数で言いますと、62日から64日の間になります。

妊娠している犬を家族にもつ方々は、難産にならないだろうかと心配されることが多いと思います。この記事では、犬の難産基準と、また、通常分娩の3つのステージについてご紹介します。

難産基準

まず、難産とは、難しい出産や人間の介助なしには成し遂げられない出産と定義されます。

・犬の直腸温(肛門で測る体温)が、大きく低下して、その後通常の体温に戻っても分娩徴候がみられない

・陰部から緑色の液体が出てきても、胎子が出てこない(普通は透明)

・破水(透明の液体)して、2-3時間経つが、分娩徴候がみられない

・徴候があってから2時間以上生まれないか、2-4時間以内に微弱で不規則な陣痛がある

・20分から30分以上強くて持続的な陣痛があるが生まれない

・明らかな難産の原因があったり、産道で胎子が詰まっている

・母犬に、分娩中に中毒の症状がある

このような場合には、獣医師に相談するのが良いでしょう。

多くの場合、出産近くになりますと、動物病院で子供数を知らされています。そして体温測定をするようにお話がありますので、ご家庭での体温測定が行われているところでしょう。

直腸温とは、肛門に体温計を入れて測定する体温で、犬の場合には38.0℃から39.0℃かもう少しあるのが普通です。

この理由は、妊娠の最終週に、つまりは生まれる1週間前くらいから、プロスタグランジンというホルモンが体内で放出されることで、体温調節をするプロジェステロンというホルモンの濃度を低下させるからです。

どれくらい体温が下がるのか(出産1週間前からの体温の変化)

例えば、普段の直腸温が38.5℃の犬がいたとしますと、37.5℃ほどに下がったり、また38.5℃に戻ったりを繰り返すことがあります。その後で体温が37.0℃を下回り、36.0℃台まで下がってきますと、そのご12時間以内には分娩が始まることになります。

もしも、直腸温ではなく、そのほかで体温を測定されている場合、例えば耳などの場合、上記の数値は参考にしかなりませんが、体温がどの程度下がるかについてはおおよその目安にはなるはずです。

直腸温はどれくらいまで下がるの?

直腸温の低下は個体差がが大きいのですが、小型犬では35℃まで、中型犬では36℃、大型犬では37℃以下に下がることは滅多にありません。

分娩数日前の犬の様子

犬は落ち着きがなくなったり、寝場所を探したり、過度に注意深くなったり、食べ物を全く受け付けなくなったりします。また、分娩前24時間を切ると、巣作り行動をするようになります。また、下がった体温を上げるために、震えるようになることもあります。

分娩の3つのステージ

第1ステージ 生まれる前 通常は6から12時間続きます。直腸温は低いままです。

第2ステージ 生まれます 通常は3から12時間続きます。直腸温が上がってくる。

第3ステージ 生まれた後 出産後15分ほどすると始まり、子宮の回復は12から15週間ほどで終わる

それぞれのステージの詳細をお話する前に、娩出の間隔について

通常は、初めの子供は生まれるのにかかる時間が最も長くなります。正常分娩の場合の娩出間隔は、5から120分です。80%ほどの場合、左右の子宮から交互に生まれてきます。また、犬によっては、分娩間隔を2時間以上とることもあります。この分娩間隔の間に、食事をしたり、激しく走り回ったりと、いつものように行動する犬も珍しくはありません。そして、次の分娩が始まります。

分娩の第1ステージ

第1ステージが続くのは、通常は6から12時間です。時に36時間も続く場合もあります。この間、直腸温は低いままです。母犬の子宮は断続的に収縮します。母犬は、この子宮の動きを気にするようになり、落ち着きがなくなることがあります。パンティング(ハアハアする)、毛をかきむしる、寝床を掘ったり、震えたり、時には吐いたりします。

第1ステージが終わりに近づきますと、子宮の収縮は頻度も強さも増していきます。

妊娠中、子宮内での子供の位置は、50%がいわゆる逆子で、50%が頭を下にしています。第1ステージ中に、子宮の収縮により、子供は60%くらいが頭を下にした向きになります。残りの40%は、いわゆる逆子です。このことは、難産とはあまり関係ありません。

分娩の第2ステージ

いよいよ出産です。第2ステージは、通常は3から12時間ほど続きますが、時に24時間続くこともあります。第2ステージが始まりますと、直腸温が上昇して通常温に戻るか、わずかにしか戻らくて正常な体温まで届かないこともあります。

第2ステージに入ったことをどうやって知るのか?

・胎水の流出(破水)

・目に見える腹部の緊張

・直腸温が通常温に戻る

これらのうち、どれか一つでも観察されれば、第2ステージに入ったと言えます。

はじめの子供が骨盤の入り口まで達すると、強力な子宮の収縮が起こります。胎子が産道に入ると尿膜絨毛膜と呼ばれる膜が破れます。これによって透明の液体が排出されます。この第2ステージの開始から子供が生まれるまでの時間は、犬では4時間以内です。4時間以内に、羊膜という膜に包まれた子供が生まれます。

通常は、母犬は、羊膜を破り、子供を強く舐めて、臍の緒を噛み切ります。

ここで、1cmの臍帯を残して、臍の緒を縛って切るようにと指示されることがあるかも知れませんが、この1cmという長さを必ずしも守る必要はありません。もう少し長めでも、後で調節できます。できるだけ臍の緒を引っ張りすぎないようにしてください。長さよりも、この引っ張りすぎない、できれば引っ張らないことの方が大切です。

第2ステージ中に注意するべきこと

・緑色の排液が陰部から見られるか、または透明の液体が出ても、その後2-4時間経っても生まれないとき

・2-3時間前から胎水(透明の液体)が出ているが、それ以上何も起こらないとき

・母犬が2-4時間以上に渡って、弱くて不規則な陣痛を繰り返しているとき

・母犬が20分から30分以上、強くて規則正しい陣痛を示しているが生まれないとき

・母犬が12時間以上第2ステージにいるとき

このような場合には、獣医師に相談するのが良いでしょう。

分娩の第3ステージ

第3ステージでは、母犬から胎盤が出てきたり、子宮がさらに収縮したりします。これは、子犬が生まれてから15分ほどすると始まります。子犬が複数頭いる場合には、1匹目の子犬の胎盤が出てくる前に、2匹目が生まれることもあります。

母犬は、出てきた胎盤を食べようとします。これは食べさせても問題はありませんが、できれば2匹分以下にした方が良さそうです。それ以上食べると、下痢をしたり、嘔吐をしたりといった消化器症状が見られることがあるからです。

母犬は、その後に行う授乳中には、使える治療薬に制限がある場合があり、下痢や嘔吐に対して十分な治療をすぐに行うことが難しい場合もあります。

そして、分娩後の胎水(液体)や胎盤の残留物の排出は、3週間からそれ以上かけて見られますが、最も目立って排出されるのははじめの1週間です。

第3ステージ中に注意するべきこと

・4-6時間以内に、ほとんどの胎盤が排出されないとき

・悪露(分娩後の胎水と胎盤の残留物)が腐敗していたり、悪臭がする場合

・子宮からの出血が続いている場合

・直腸温が39.5℃以上ある場合

・母親の一般状態が正常ではない場合(元気がない、ぐったりしている、呼びかけに反応しない)

・子犬の一般状態が正常ではない場合

このような場合には、獣医師に相談するのが良いでしょう。

難産に対処する

・ヒトに手や指を使って介助する

・薬を使う(グルコン酸カルシウム、ブドウ糖、オキシトシン)

・帝王切開

まずはかかりつけの獣医師との連携が大切ですので、事前にお話を聞いておいてください。

24時間体制ではない動物病院がほとんどです。夜間でも順調に生まれれば、獣医師への連絡は翌朝、動物病院が開いてからで構いませんが、難産だったり、帝王切開が必要になる可能性もあります。その場合の連絡先や、救急対応の動物病院の案内を示してもらうもとも必要です。

母子ともに順調に経過することを期待しながらではありますが、やはり危険もとのなうのがお産です。人間の手が全ての困難に対して及ぶわけではありませんが、できるだけ見守り、必要な時に手を差し伸べるのが良いと考えています。