今回は犬の胆汁うっ滞について詳細をご紹介します。
犬のALP(アルカリフォスファターゼ)が高いとき、犬がとっても元気で病気に見えないことがあります。健康診断でも、ALP(アルカリフォスファターゼ)が高いですよと言われると心配になってしまうことがありますよね。これについては、別記事をご覧ください。
【犬のALPが高い!!】アルカリフォスファターゼが高いとき。獣医師が解説します。
【犬のALPが高い!!】元気なのにアルカリフォスファターゼが高いときには、どうしたらいいの?獣医師が解説します。
ALPが高くて、犬の元気がない場合には、いくつかの病気が考えられます。この記事では、胆汁うっ滞が起こっている場合について特に多い病気をご紹介します。胆汁うっ滞を含め、他にはこんな原因が考えられます。
一覧でご紹介しますと、犬のALPが高い原因は、いろいろと考えられます。
胆汁うっ滞(肝臓内、肝臓外)
膵炎
薬物
骨アイソザイム
副甲状腺機能亢進症
腎疾患
内分泌疾患
腸炎
低酸素症、低血圧
腫瘍
急性肝炎、慢性肝炎
いろいろなことでALP(アルカリフォスファターゼ)が高くなることがあるために、わかりにくくなっています。今回は、この中の胆汁うっ滞を掘り下げます。
胆汁がうっ滞するのは、肝臓の中で起こることもありますし、肝臓の外で起こることもあります。肝臓内では、結節性過形成、胆管炎や胆管肝炎があり、肝臓外では、胆管炎、胆嚢炎、胆石症、胆管腫瘍があります。
多くの場合、胆汁のうっ滞は、肝臓外に起こります。そして、それが波及して肝臓の中にまで達することがあります。
犬のALP(アルカリフォスファターゼ)が高い場合には、何かしらの異常がある訳ですが、治療が必要な場合と、経過観察は必要ながら治療が必要ではない場合があります。
犬のALP(アルカリフォスファターゼ)が高いときに行うべき検査があります。これは、なぜALPが高いのか?それは何という病気なのか、いわゆる診断名にたどり着くために必要な検査があります。
ALP(アルカリフォスファターゼ)が高いということがわかっているということは、全血球計算(CBC)と血液生化学検査は既に結果が出ているはずです。ALP(アルカリフォスファターゼ)だけを単項目で検査をすることは一般的ではありません。次に必要なことは、腹部X線検査(レントゲン)、腹部超音波検査(エコー)です。そしてALPアイソザイムを調べるための血液検査です。それと合わせて必要なのは、治療中の病気はないか、そして飲んでいる薬はないかも調べます。これは問診ですね。
胆管炎、胆嚢炎
小腸の中の細菌が、胆嚢に入って炎症を起こすのが胆嚢炎という病気です。そして、さらに肝臓内に入り込んで、胆管炎や胆管肝炎を引き起こします。
ちなみに、胆管炎と胆管肝炎の違いは、下の図で示しています。
胆管やその周囲だけなら胆管炎、そして、限界版という境界線を超えて炎症が及ぶと胆管肝炎と区別されています。
肝外胆汁うっ滞のほとんどが、これだと考えられます。図のように、胆嚢を中心にして、肝臓側には肝管、小葉内胆管、毛細胆管があり、まさに網の目状に広がっています。そして、小腸(十二指腸)の方には、総胆管が伸びています。
肝臓で作られる胆汁を一時的に貯めておいたり、濃縮したりするのが胆嚢です。そして食べ物が小腸(十二指腸)を通過するときに、胆嚢が縮み、大十二指腸乳頭と呼ばれるところの筋肉が緩んで、胆汁が小腸(十二指腸)に流れ出ます。そもそも、胆汁はアルカリ性の液体です。消化液ではありません。強い酸である胃酸を胆汁のアルカリが中和します。
小腸の中には、通常細菌がいるのですが、これが胆汁の流れに逆らって、総胆管、胆嚢へと進んで行きます。そこで化膿を起こします。さらには、肝臓まで進んで、胆管炎や胆管肝炎を起こすという仕組みです。
犬にはどのような症状がみられるのでしょか?
食欲低下、活動性の低下(元気がなくなる)、腹部痛(お腹が痛い)、嘔吐(何回も回数多く吐くことがある)、そして黄疸です。
診断は、いくつかの検査を行います。黄疸が見られる場合には、身体検査で、眼結膜(いわゆる白目のところ)が黄色っぽくなります。これはわかりにくいこともありますので、獣医師の診察を受けてください。黄疸が見られる場合、他には、尿の色がかなり濃い黄色になります。ときには、オレンジ色に見えることもあります。これも、普段でも黄色味がかっているはずですから、慎重に評価する必要があります。
ちょっと脱線しますが、犬が無症状で、血液検査でもあまり問題が見られずに、それでも胆石や胆泥が見られることがあります。このような場合には、少なくとも手術の対象ではなく、あっても内科治療、すなわちお薬による治療に反応することがよくあります。胆泥症だけで、検査上も異常が見られず、犬に何も症状がない場合には、治療をするかどうかは議論が分かれるところです。すなわち、何もしなくても良いことがほとんどだとも言えます。もし、治療すべきだというときには、行っている治療に反応すべきであって、薬を長期間飲ませているけど、改善が見られないのであれば、少なくとも同じ治療を続けることには慎重になるべきかも知れません。胆泥症があるからと言って、漫然とウルソデオキシコール酸を飲ませ続けることは、意味がないことかも知れません。もちろん、意味があるかも知れません。これについてははっきりとわかっていないのが現状です。飲ませたらよかったとも、飲ませなかったから悪かったともわかってはいないのです。
胆管炎、胆管肝炎、胆嚢炎の治療はどうするの?
細菌が関係する病気ですから、適切な抗菌薬を中心に薬で治療する方法があります。これを内科治療と呼びますが、これに反応がない場合や、反応を待てないほど犬の状態が悪化に向かっていれば、できるだけ早くに外科手術が必要です。
胆管系の手術の成功率は、37%から72%と幅があります。中には、死亡率が20%という報告もあります。いずれにしても、必ずしも成功する手術とは言えないのが現状です。しかし、内科治療で反応がないままですと、犬の体力の消耗ばかり進み、いずれ手術をするべきと判断しても、その体力的なところで断念しなければならないこともあります。
私は、犬の体力と相談しながらですが、できるだけ犬に余力があるうちに、内科治療に反応があるかないかを判断し、必要であれば手術をするようにしています。
犬の胆嚢炎は報告が少なく、まれな病気だと言われています。しかし当院では、あまりまれば病気という認識はありません。すなわち、報告が少ないだけで、ある程度の数で見られる病気ではないかという印象です。
犬が元気がなく、食べなくて、吐く、そして血液検査で肝酵素やALP(アルカリフォスファターゼ)の値が高く、さらに黄疸があれば、多くの場合、治療に入る前に外科手術の話だけはしてから内科治療を始めることになると思います。そして、内科治療に反応がない場合には、速やかに外科手術に切り替える必要があると思います。
手術をして胆嚢を取り除いた直近の2件は、1件が15歳で、もう1件は12歳で体重が1.4kgしかないとっても小さい患者さんでした。いずれも、2か月もすると血液検査上も全く異常がなく、とても元気に過ごしています。病理検査では、2匹とも胆嚢炎という診断でした。そして、1か月のうちに2件も遭遇しましたので、まれな病気という印象は持っておりません。
ALP(アルカリフォスファターゼ)が高くて元気がない場合、怖い病気ということもありますよ。