【犬には超音波音が聞こえるのか?】犬の音の世界を獣医師が解説します。

犬の世界。音と匂いから迫ります。

ヒトが聞くことのできる音の限界は、20,000ヘルツだとされていますが、これは10代の若者の話で、それを超えて年齢が高くなると1万6000ヘルツが限界になります。しかし、犬には、6万5000ヘルツまで聞くことができるということが実証されました。

超音波とは、20,000ヘルツ以上の音とされていて、ヒトには聞こえないとされています。ヒトであっても、高い周波数の音は年齢と共に聞こえ難くなることが研究でわかっていて、年齢によっては、1万6000ヘルツの音が聞こえる限界ということもあります。

犬がこのような、超音波を聞くことができるのは、小型のげっ歯類が出す超音波領域の音を聞き分けるためだと推測されています。

超音波、すなわち、特別な音というよりも、ヒトに聞こえない「音」のことで、これを聞き分けることができる動物がいます。身近な動物では犬や猫です。超音波を発する動物は、クジラ、ネズミ、コウモリ、昆虫、鳥などが知られています。

超音波とは、私たちが聞いている音の延長にあるもので、ヒトに聞こえないものを超音波としているわけです。

犬や猫は、ヒトには聞こえない音を聞いています。ときに、何かヒトには見えないものを見ているのではないかとお話しされる方がありますが、どちらかと言えば、ヒトには聞こえない音を聞いているのは事実なのです。

犬はヒトには聞こえない音を聞き分けて、どちらから聞こえてくるのかという音源の方向を特定することも正確に行います。馬、牛、そして山羊は、音が聞こえる方向がおおよそ30度ほど違わないと、判定ができにくいとされます。犬は10度以下の違いでも判別が可能です。ヒトは1度の違いでもわかります。

また、犬の視覚はヒトよりも弱いですので、ヒトのように多くの色を見たり、輪郭のはっきりとした画像を捉えることは困難です。その代わりに、匂いを中心とした世界で生きています。

匂いの通った道筋、時間的な経過、空間的な配置を嗅ぎ分けます。犬は、ヒトがわずかに触れただけのグラスを屋外では2週間、屋内であれば1か月放置しておいても、ヒトの匂いであることがわかるとされています。

犬は、まず匂い、次に音、そして、最後に視覚でものを捉えているのです。

匂いが、ヒトと比べてどれくらい犬の方が優れているかについては、いろいろな数字が出ています。以前に、癌探知犬の話を書きました。犬は、全ての物の匂いについて、ヒトよりも敏感に匂いを嗅ぎ分けますが、どれくらいヒトよりも敏感かについては、嗅ぎ分ける匂いによって異なります。あるものでは、ヒトの100倍ほどの感度で匂いを嗅ぎ分け、あるものでは、ヒトの100万倍かそれ以上の感度で匂いを嗅ぎ分けます。

犬の匂いについての鋭敏さは、訓練で高めることができます。

訓練次第ではありますが、犬は匂いを嗅ぎ分けることで、自転車がどちらに向かって走ったかを判定し、足跡の匂いの強さから、どちらが古い匂いか、どちらに歩いて行ったかを判定します。

ヒトは視覚に頼り、犬は嗅覚に頼る、同じ空間にも、それぞれ異なる世界が広がっています。