【犬の骨折をどのように治療するのか?】AOの原則を獣医師が解説します。

骨折治療のスタンダードは、AOの原則に従って行われます。

AOとは、そして、AOの原則とは?

AOとは、1958年に13人の(ヒトの)外科医によってスイスに起こった協会です。AO(Arbeitsgemeinschaft fur Osteosynthesefragen)

そして、AOの獣医師部門として、1969年に、AO VET(獣医師にるAO)が設立されました。

骨折治療を行う獣医師は、何かしらこのAO VETの原則を考えながら、治療に当たっているはずです。AO VETは、世界中で骨折治療の技術的な講習を行なっています。そこには、基礎編(Principles)、応用編(Advanced)、発展編(Masters)という3つのコースがあります。

日本では、2008年に初めてのPrinciplesコースが横浜で開催され、それまで海外に行かないと受けることができなかったAOコースを初めて日本で受けることができるようになりました。

次いで、2010年には、初めてのAdvancesdコースが同じく横浜で、そして2017年に初めてのMastersコースが札幌で開催されました。

AOの原則とは、次のようなものです。

1.解剖学的関係を構築するための骨折整復と固定

2.骨折の特徴と傷害要求に応じた固定あるいは副子による安定化

3.注意深い取り扱いと丁寧な整復手技による軟部組織および骨に対する血行の温存

4.患部と患者の早期かつ安全な運動

つまりは、しっかりと固定して、早くに運動を開始するということです。

私の場合には、5kg以下の小型犬の場合には、1週間ほどするとゆっくりと運動を初めてもらうようにしています。

どのような骨折があるの?

犬の骨折は、前足に起こりやすく、特に5kg以下の犬では、肘から手首にかけての骨である橈骨と尺骨に起こりやすくなっています。

5kg以下の小型犬に橈骨と尺骨の骨折が多い原因としては、骨そのものの特徴、すなわち橈骨と尺骨の手首側は大きな力に対して弱いというデータがあります。

そして、これは私の印象ですが、骨折で来院される犬の原因の多くは、落下です。飼い主さんに抱っこされていて、飛び降りたとか、椅子、テーブル、そしてソファーから飛び降りたとか、高さのある運動によるものがほとんどです。

いきなり、ちょっとだけ横道にそれますが、非常に多く見られるのは、ソファーから飛び降りてから、前の手をあげている。手を床に着かず痛そうにしているという急患さんです。もし、飛び降りて、手を上げ始めてからの時間がまだ短いのであれば、30分くらいは様子を見ても良いかも知れません。と、言いますのは、ほとんどの場合、骨折ではなく、一次的な痛みだけであることが多く、動物病院に到着する頃には、普通に歩けることが多いからです。もちろん、骨折を完全否定するわけではありませんが、このようなことはとても多いという現場からの声もお伝えしたかったので、書いて見ました。

もし、本当に骨折してたら、動物病院ではまずX線検査を行います。レントゲンで、骨折の詳細を調べます。

小型犬の骨折は、遠位1/3に起きやすいという統計があります。遠位1/3というのは、肘から手首までの骨を3等分した場合、手首側の1/3のところに起こりやすいということです。

骨折治療には、主に骨プレートと呼ばれる金属が使われます。その他の治療方法としては、ギブスや添え木を巻くだけとか、創外固定、髄内ピンとか、また、これらのいくつかを組み合わせたりして治療することがあります。しかし、最も一般的なのは、骨プレートを使う方法です。

しかし、特に小型犬の場合、創外固定と呼ばれる方法で治療をした場合、骨折が治らなかったり、また治るのに一般的な場合と比べて、非常に時間がかかったりといった合併症の発生が75%もあるという報告があります。

小型犬では、創外固定は、骨プレートを使えない場合に限った方がよく、それでもかなり慎重に計画を立てて、合併症についてのインフォームドコンセントを行ってから進めるべきだというのが私の考えです。

動物病院によっては、骨折治療を行なっていないところもあります。骨折治療を行なってはいるけれども、5kg未満の小型犬は行なっていないというところもあるかも知れません。

特に小さな犬の骨折治療は、難しい場合があります。トイ犬種と言われる小型犬の骨折治療は、プレート固定を行なった場合でも、合併症が12%以上に見られるという報告もあります。つまりは、10匹中1匹以上は、何かしら治らなかったり、治りが遅くなることがあるということです。

しかし、この合併症の報告では、その合併症の多くが、獣医師側に問題があることが多いと指摘しています。

獣医師にとって、小型犬の骨折治療は、技術の習得だけではなく、設備を整えたり、新しい情報を常に取り入れるなど、超えなければならないハードルがいくつかあります。

そして、骨折治療は、AOの原則に従って行われるのが正攻法です。

現在の骨折治療は、主に骨プレートが使われており、さらには、ロッキングプレートを使うことが主流です。ロッキングプレートとは、プレートの仕組みのことで、いろいろなメーカーからそれぞれのロッキングプレートが販売されています。

骨折治療を行う獣医師の好みによって、どのメーカーのロッキングプレートを導入し、使用するかが決まるのですが、いくつかのロッキングプレートを使い分けることも多いので、いくつかのロッキングプレートを用意している動物病院が多いと思います。

犬の骨折整復手術

犬の前足の骨は、このようになっています。これは、肘から手首までの骨で、上が肘側、下が手首側です。手首に近いところが骨折することがほとんどです。

そして、ここには筋肉がたくさんありますが、この部位の手術をするときには、橈側手根伸筋と、総指伸筋の間を分けて骨にアプローチします。そこで、長第一指外転筋が横断しているので、これを牽引して手術に影響しないところまで避けます。

しかし、この長第一指外転筋を切ってもいいと書かれている専門書がありますので、どうしてもうまく避けきれないときには、切っても良いわけですが、何と無く、切ってしまうと、負けた気がしますので、できるだけ温存して手術をするようにしています。でも、長第一指外転筋を切ると、非常に手術がやり易くなりますから、正直迷うこともあります。もちろん、切っても、何かその後に犬の生活で困ることもありませんが、手術では、できるだけ傷つけることを最小限にすることも大切だと考えています。

プレートは、当然ですが、オレンジ色ではありません。これは、ロッキングプレートと呼ばれるものです。何がロッキングかと言いますと、プレートとスクリューがロックされて、一体化します。プレートに、スクリューが入るネジ山が切ってありまして、スクリューはネジのようにプレートに固定されます。骨にぴったりと圧着する必要はなく、骨とスクリューの間には、少しの隙間があった方が、骨の表面の血行も温存できて、骨折の治りにも良い影響を与えるとされています。

そして、ロッキングプレートではないプレートは、スクリューとプレートが固定されませんので、骨にぴったりと圧着する必要があります。

ロッキングプレート

このロッキングプレートを使うことで、固定がより強固になり、早期の運動再開で、より早く治るようになります。しかし、使い方によっては、骨を脆くすることもありますので、ロッキングプレートを使うことは、良いことばかりではありません。ロッキングプレートを使用する獣医師は、そのような合併症もよく理解していますので、心配ないかと思います。

骨折治療では、しっかりとした固定、そして、早期の運動再開が大切です。