【犬のパンティング】犬がハアハアするとき。獣医師が解説します。

犬が突然にハアハア始めたと心配されるご家族は多いですね。

もし、特別な病気がわかっていないし、また何かの治療中でなければ、あまり心配することはありません。通常は、ハアハアの原因は無害で、健康な犬でもよくみられます。そしてときに、病気や薬で起こることはありますが、多いことではありません。

この突然のハアハアに対しては、特別な治療はありません。気温や体温が高いのであれば、低くしなければなりませんし、何か不安があるようでしたら、それを取り除いてあげるようにしなければなりません。そして、何かしらの病気であれば、ハアハアの治療というよりも、その病気に対する治療を行うべきです。

ここで、一つ問題なのは、もしハアハアの原因が気温や体温が高いのであれば、下げる必要がありますが、犬のご家族の中には、決して気温や体温が高くはないにも関わらず、ハアハアを見ると、逆に、気温や体温が高いのだろうと考える方があるということです。

正:気温や体温が高い→ハアハアすることがある

誤:ハアハアしている→気温や体温が高いに違いない

少なくとも、犬がハアハアするほど気温が高いと、ご家族が感じるかどうかも大切です。ヒトにとって、それほど気温は高くはないのに、犬がハアハアするから暑いのだろうと考えるのは誤りであることがほとんどです。

一応、犬と猫のハアハアの原因になる病気や治療など

・気温上昇

・発熱、体温上昇、運動

・不安、神経質

・痛み

・副腎皮質機能亢進症

・グルココルチコイド治療

・クロム親和性細胞腫

・甲状腺機能亢進症

・低カルシウム血症

・(治療薬としての)麻薬の投与

・心疾患、頻脈性不整脈

・脳疾患

上の項目の中で、緊急性があるとすれば、心疾患くらいではないでしょうか。

それ以外のものは、治療が必要でも、緊急性がそれほど高いものはありません。

私が診察をする中で、よく聞く声は、犬が突然ハアハア始めるというものです。そして、病院に着いたらハアハアしなくなったとか、外に出たら治ったというお話も聞かせてもらうことがあります。そして、犬のハアハアを心配されるご家族の方が、ほぼ確実にされることは、室温を下げることです。エアコンの設定温度を低くすることは、特に多く見かけられます。

そして中には、犬のハアハアはなかなか治らないから、室温を可能な限り下げて、ご自身は厚着になって様子を見てみたという方もあります。これは、犬のハアハアの原因が、気温や体温の上昇によるもの以外にはないと信じている方に多くみられる傾向があります。室温がヒトにとって適温であれば、何もする必要はありません。犬が病気でなければという前提でが、病気だとしても、明らかに高体温でなければ、犬を冷やす必要はありません。

そして本来このようなハアハアは、病気ではないはずです。

ちなみに、このハアハアのことをパンティングと呼んでいます。

パンティングとは、1分間あたり200回から400回、1秒間に3回から6回くらいのペースで見られる浅くて速い呼吸です。

そして、このパンティングは、犬や猫、そしてそのほか多くの動物に見られる正常な体温調節機構でもあります。体温調節機構ではありますが、気温が高いというだけが原因ではありません。パンティングは、健康な犬や猫だけではなく、病気のどうぶつにも見られますし、パンティングが見られたらこの病気というように、1つの病気が決まるわけではありません。

パンティングは脳によって調節されます。血液の温度が上がると脳の視床下部というところが、体温を下げるようにと体に信号を送ります。その結果として、血管拡張とパンティングが起こります。血管が拡張すると、血管の表面積が大きくなり、血液中の熱を外に逃しやすくなります。そして、パンティングをすることで、鼻や口の表面にたまっていた湿った空気が外気にある新鮮である程度乾燥した空気に置き換わることで、鼻や口の粘膜から水分の蒸発によって熱が体外に放出されます。

これは自然に行われますから、室温が適温であれば、ご家族が行うべきことは何もないわけです。ちなみに、適温の目安は、ヒトが快適であれば十分です。

熱を感知するのは、脳だけではなく、皮膚、脊髄、腹腔内の臓器、頭部や胸部の血管の近くにも存在している温度受容器とよばれるものですが、これらの役割はあまり大きなものではありません。

基本的には、脳にある橋(きょう)と呼ばれるところにある呼吸調節中枢に関連するパンティング中枢によって調節されます。

とても大切なこととして、パンティングと呼吸困難は別物であるということです。呼吸困難は、何かしらの病気の症状ですし、様子を見るべきではありません。この区別が難しい場合には、できるだけ早くに獣医師による診察を受けてください。

私がよく使う方法として、生理的なパンティングと呼吸困難を区別するには、何かしらのおやつや食べ物を与えてみることをお勧めしています。いつものように食べてくれたら、きっと病的なものではないでしょう。

心疾患や肺水腫による呼吸困難であれば、舌の色が悪くなり、おやつどころではないはずです。

結論

突然に始まる犬のハアハアは、何かしらの病気がわかっていない(何かの治療中ではない)場合、あまり問題にはなりません。ときに、急いで治療を必要とすることがありますが、多いことではありません。