【犬の肺水腫】医学用語は、ほぼ半数が理解していない。

獣医師も、できるだけ医学用語を使わずに病気の説明をすることが多くなっています。動物の飼い主さんには、ご説明をするわけですから、理解していただきたいという思いがあります。

そうなりますと、自ずからお互いに分かり合える言葉でお話しすべきです。そこでは、獣医師が普段使う医学用語を封印して、平易な言葉に置き換える必要があります。

興味深い統計があります。国立国語研究所というところが行なった調査結果です。医学用語について、一般の方が知っていると思っている割合と、それが正しい理解である割合、そして、その差です。

例えば、医学用語でいう「ショック」という言葉を知っていると答えた一般の方は、94.4%です。しかし、正しく「ショック」を理解されていたのは、43.4%に過ぎません。その差は51.0%です。

知っていると思われているけれども、実は違う理解をされていたことになります。

ちなみに、医学用語での「ショック」とは、血液の流れが悪くなって、体の細胞や臓器が機能しにくくなることで死亡する危険のある状態をいます。命に関わる状態ですから、生きるか死ぬかどっちになるとも知れない状態です。

これを、一般の方がときに使われる、例えば、「天気予報が外れたよー、ショックー」のような使い方とは、全く異なります。

そこで、このように、認知率が高のに、理解率が低いものに、肺水腫があります。ちなみに、肺水腫を知っていると答えた方は、74.4%です。この方々は、それなりに肺水腫をイメージされているわけですが、本当の意味を理解されていたのは、27.9%だけです。実は、知っていると答えた方の半分以上は、違う意味をイメージしていただけで、知らなかったわけです。

肺水腫も、生命の危機です。肺水腫を例えを使いながら説明します。肺は空気を吸って吐いてを繰り返すと膨らんだり縮んだりするところで、その中身はまるでスポンジのようなものです。肺水腫とは、このスポンジが水をたくさん含んだ状態です。スポンジの細かな穴も、スポンジの繊維も、いずれも水をたくさん含んだ状態です。

こうなると、十分な呼吸ができなくなります。呼吸は体の働きを維持するためには欠かせない活動ですので、これができないとなりますと、それは死を意味します。

犬や猫の肺水腫の治療は、利尿薬を静脈から注射したり、安定している場合には、飲み薬として飲んだりします。おそらくヒトも同じように治療するはずです。

スポンジが水をたくさん吸っているので、注射器で吸っても効果はありません。利尿薬は、言わば水を吸ったスポンジを絞るのに似ているかも知れません。

私が体験したエピソードを一つ。

腎臓を悪くした犬の飼い主さんに、わかりやすいようにと思って、検査結果を使える第一声を検討して、「腎臓に問題があります。」と、私なりにシンプルで、ストレートに使えられると思って選んだ言葉でした。

飼い主さんの返答は、「腎臓ですか。」で、あったり「これからどうなりますか?」で、あったりと、腎臓が悪い場合には、どのような治療があったり、治るのか治らないのかを聞かれるのかと予想したのですが、飼い主さんからの返答は、「腎臓って何するところですか?」でした。

これは、目から鱗が落ちるもので、そこからの説明が必要な場合もあるのだと気づかされました。

専門用語、医学用語を使わないだけではなく、一般的な言葉だと思っていても、そうではない言葉もあることを意識するようになりました。

どうぶつの飼い主さんは、獣医師の説明にわかりにくいところがあれば、是非とも質問して、どうぞご理解ください。大切な家族の大切な情報ですから。