膵炎は獣医師泣かせ?
膵炎は、簡単な血液検査でわかるものと、膵炎だろうと予測して検査を行ったにも関わらず、陰性の反応が出てしまって診断やその後の治療に影響することがある困った側面を持つ病気です。
膵炎になるとどんな症状がみられるの?
食欲不振、下痢、嘔吐、元気消失、腹痛、発熱のいずれか、あるいはいくつかがみられます。犬の膵炎では、ほとんどに嘔吐が見られますし、腹痛は半数以上に見られますから、膵炎であれば嘔吐と腹痛が見られることが多いことになります。ここで大切なことは、嘔吐と腹痛があれば膵炎とはならないことです。逆は必ずしも真ならずです。
膵炎とはどんな状態?
膵臓の中には、たんぱく質分解酵素であるトリプシノーゲンと呼ばれるものが、不活性な前駆体として貯蔵されています。(膵臓には、この他様々な蛋白質分解酵素が作られています。)
まあ、わかりませよね、こんなこと言われても。解説します。膵臓からは、とリプシノーゲンと呼ばれる蛋白質分解酵素が出るのですが、出るところは消化管、つまりは小腸の中です。膵臓から小腸につながる膵管を通して、トリプシノーゲンが出される訳ですが、この酵素は、たんぱく質を分解します。
動物の体は多くのたんぱく質でできていますので、この酵素は小腸内に出される分には、犬が食べたたんぱく質、すなわちお肉類を消化してくれます。しかしこんなたんぱく質分解酵素は膵臓そのものを分解することもできます。そこで、膵臓ではトリプシノーゲンは、そのたんぱく質を分解するという働きができない状態で蓄えられているのです。それを、不活性な前駆体と呼びます。
不活性な前駆体の状態で蓄えられているトリプシノーゲンが、通常は小腸に出るときに活性化する、すなわちたんぱく質を分解する力を持つわけですが、膵炎ではトリプシノーゲンが、膵臓の中で活性化してしまいます。
例えるならば、手榴弾(たんぱく質分解酵素)は安全装置がついてるから手(膵臓)で持って入られますし、逆に使用するときは、安全装置を外さないと効果がありません。膵臓で作られた手榴弾は、安全装置が付いたまま保存されているわけですが、必要なときには安全装置を外して投下されます。しかし、膵炎では、その安全装置がまだ膵臓の中なのに外されてしまう訳です。
そして、膵臓が、自身が作ったたんぱく質分解酵素で消化されてしまいます。手榴弾が手の中で安全装置を外して暴発してしまう訳です。そして、トリプシノーゲンは、他のたんぱく質分解酵素も活性化してしまいます。つまりは、武器庫(膵臓)でいろいろな武器(たんぱく質分解酵素)が暴発(活性化)を始める訳です。
この安全装置が外される、すなわちトリプシノーゲンが膵臓内で活性化する理由はまだ不明な点が多いのですが、膵臓に流れる血流が減ることも原因の一つではないかという報告もあります。
膵炎には、急性膵炎と慢性膵炎があります。急性膵炎は、前の記事をご覧ください。慢性膵炎は、膵臓が萎縮したり、繊維化という変化をしたりする、もう元には戻らない変化を起こします。そして、慢性膵炎の場合には、消化酵素を小腸内に分泌する力がなくなって膵外分泌不全になることもあります。
膵炎の危険因子
膵炎の危険因子はいくつかのことが考えられます。
危険因子とは、トリプシノーゲンが膵臓内で活性化されてしまう理由はわかっていないことが多い中で、その原因と考えられている事柄のことです。
- 中高齢、不妊手術済みのメスが多いとされ、犬種ではミニチュア・ダックスフンド、シー・ズーに多いという統計があります。
- ミニチュア・シュナウザーは、遺伝子的に膵炎発症リスクがあります。
- 肥満や、かつ高脂血症の(中性脂肪値が高い)犬に多い。犬においては高脂肪食は膵炎の危険因子と言われています。
- 外科手術により血圧が低下し、その結果膵臓への血流が減少するとトリプシノーゲンが活性化すると考えられています。
- 糖尿病や甲状腺機能低下症などのホルモン異常を起こす病気の犬に起こりやすいとされています。
- いろいろな薬剤で膵炎が起こる可能性があります。一応、膵炎を起こしやすいという薬剤がありますが、必ずしもこれらを使うと膵炎が起こるわけではありませんし、不必要な心配を避けるためにも記載は避けますが、どのような薬剤であっても膵炎を引き起こすリスクはあります。