【犬の唾液粘液嚢胞、唾液腺嚢胞】そしてガマ腫について獣医師が解説します。

犬の唾液粘液嚢胞、唾液腺嚢胞

唾液を作るところを唾液腺と言います。その唾液は、唾液腺から導管という管を通って口の中に運ばれます。唾液粘液嚢胞、唾液腺嚢胞とは、この唾液腺や導管に何かしらの原因で傷が付き、唾液が周囲に漏れ出して溜まったものです。

水道管から水が漏れだしたようなものです。そして、地中に水たまりができているような印象です。

唾液粘液嚢胞、唾液腺嚢胞とは言われますが、一般に嚢胞と言われるものは、いわゆる袋状になっているものですが、上の水道管の例のように、ただ漏れ出しただけで、特別に袋状のものがあるわけではありません。

犬の唾液粘液嚢胞、唾液腺嚢胞の分類

  • 首のお腹側、下顎のあたりにできるもの:頚部粘液嚢胞
  • 口の中、舌の裏にできるもの:舌下部粘液嚢胞(ガマ腫)
  • 喉にできるもの:咽頭部粘液嚢胞
  • 眼の周囲にできるもの:頬部粘液嚢胞

原因は?

はっきりとはわかっていません。唾液腺や導管が傷ついて起こることはわかっています。その原因としては、外傷、異物、唾石と呼ばれる唾液からできる小さな石が導管を傷つけるなどして起こることがありますが、不明な点が多いものです。

唾液粘液嚢胞、唾液腺嚢胞の治療

原因となっている唾液腺を外科手術で取り除く必要があります。これ以外には方法がありません。取り除く場合、下顎腺と舌下腺(単孔舌下腺、多孔舌下腺)は一つのつながりとして摘出します。頬部粘液嚢胞の原因となる頬骨腺は、また別で、頬骨弓(きょうこつきゅう)という骨の裏側にあるので、この骨を除去してから摘出します。唾液腺は左右にありますが、下顎が腫れている場合、左右どちらの唾液腺や導管の損傷に由来するものかを判断できないことがあります。その場合には、左右の下顎腺、舌下腺を同時に摘出します。唾液腺を左右で摘出しても、唾液分泌にには影響しません。

溜まっている膨らみに針を刺して、一時的に粘液を吸い取ることもありますが、基本的にこれだけでは最終的な解決にはなりません。診断のために唾液成分が回収できるかを調べるためと、呼吸困難が見られたときに緊急的に行うくらいです。

唾液粘液嚢胞、唾液腺嚢胞の症状

口からの出血、食欲不振、嚥下困難、咽頭周囲が腫れると呼吸困難がみられることがあります、眼の周囲(頬のあたり)が腫れることがあります、ときに眼球突出、外斜視

犬の唾液腺に起こる病気に、フェノバルビタール反応性唾液腺症というものがあります。ヒトと犬にみられるという報告がありますが、この病気のはっきりとしたことはわかっていません。抗てんかん薬であるフェノバルビタールに反応するので、一種のてんかんではないかと疑われています。

犬のフェノバルビタール反応性唾液腺症は稀な病気ですが、過剰な唾液が続くようなら、この病気も鑑別診断リストに入れても良いと考えています。この病気では、唾液腺が腫れることもありますし、腫れないものも報告されています。

この病気は、舌下部粘液嚢腫を除いては、顔やあごの外観からその異常を見つけることができますが、時に長毛の犬や肥満な犬などでは、初期にこの腫れを見つけづらいことがあります。この場合でも、食欲不振、唾液の過剰分泌、ときに嘔吐や嚥下困難が見られます。注意深く触診することで、唾液腺の異常を知ることができます。

最終的には外科手術をしない限りは治りませんので、診断が正しければ唾液の吸引でその場しのぎをするべきではなく、早めの手術を決断しましょう。