犬の前十字靭帯の断裂で行われるTPLOという手術
犬が前十字靭帯の断裂で歩けない。そのような時に歩けるようにする手術がTPLOというものです。前十字靭帯の断裂を治療するときに用いられる手術手技には、下のようなものがあります。
- 関節外法
- TTA
- TPLO
この中で、最も多く行われておるのは関節外法です。前十字靭帯の断裂の治療として、ほとんどがこの方法で治療されていると言っても過言ではありません。それほど難しい技術が必要ないために、多くの獣医師に好まれています。
とはいえ、どうぶつの整形外科ですので、そもそもこの手術をやっていない獣医師が多いとも思います。整形外科をやっている獣医師に好まれているということです。
関節外法が、他のTTAやTPLOという手術よりも好まれる理由として、技術的な問題の他に、特別な器具を使わなくても良いということもあります。(特別な器具を使う関節外法もありますが…)
ちなみに、特別なものを使う関節外法とは、Arthrex社というところの器具を使う方法です。器具以外には、特別な糸も出している会社です。私も関節外法を行うときには、このArthrex社の糸を使うことがあります。
TPLOが選ばれる理由
TPLOという手術手技を行う獣医師は多くはありません。その理由は、とても難しいからです。ハードルが高いものです。それでも選ばれるのには理由があります。
術後成績がとても良いのです。前十字靭帯の断裂を起こした犬は、患肢を使って歩くことができません。痛いのです。
スミマセンちょっと余談ですが…
そして、手術が終わってからどれくらいの期間で歩けるようになるのかが大切です。TTAやTPLOですと、だいたい1週間くらいもあればある程度歩けるようになります。歩けるまでが早いのです。
運動を制限しなければならない期間はそれなりにあります。歩けるからと言って、普通に歩かせて良い訳ではありません。
関節外法は糸を使うわけです。そして、その糸はピンと張って、弛まないようにする手術です。その糸の張り具合をどうするかというところもポイントなのですが、その糸が緩んだり切れたりするのです。これを見越した手術であることは確かなのですが、それによってまた歩きづらくなる犬もいます。
TPLOは難しい
TPLOは難しい手術です。その難しいポイントです。
- 犬の整形外科を行っていること
- ロッキングプレートいう器具を使っていて、そのプレートを使うために必要な器具が揃っていること
- TPLOを使うためのトレーニングを受けていること
- TPLOを使うための特別な動力装置が揃っていること
- TPLOに必要なTPLOプレートはじめとするインプラントが揃っていること
多分、TPLOを行うために必要な上のことを揃えるとすることがまずは難しく、そして手術の方法を習得するということになりますので、それなりの高いハードルだと思います。
TPLOの手術費用は、かなり高額になります。その手術を行うに必要な準備は相当なものです。その価値はあると思います。
具体的な手術手技
まず、見た目の仕上がりはこんな感じです。
左の図が手術前です。犬のスネの骨(脛骨)のここは、脛骨高平部と言います。これがTibial Plateauです。そこが、後ろ側に斜めに傾いていて、太ももの骨(大腿骨)が、後ろに滑ろう滑ろうとしています。これは歩くたびに後ろ側に力がかかるようになっています。
前十字靭帯が、この後ろ向きの力を支えていて、滑らないようにしているのですが、断裂すると不安定になって大腿骨が後ろ側に滑ろうとします。脛骨が前方に動くとも言います。
この骨切りを、どれくらいのカーブで切るか、そして、どれくらい動かせば良いかというのが決まっていて、それに従って骨切りをしたりずらしたりします。そして、そのままの状態で固定しなければなりませんから、ここでロッキングプレートというやや特殊なプレートを使って固定をします。TPLOプレートというものです。
この手術では、ときにかなりの出血をします。出血箇所は、膝の裏側にある膝窩動脈だったり、脛骨の中にある脛骨動脈だったりします。膝窩動脈は誤って切断しないように手術手技の中でコツがありますが、脛骨動脈は骨切りをするので、どうしても切断されてしまうことがあり、脛骨動脈を目視しながら、すなわち、目で見ながら骨切りのときに避けることは不可能です。
私は大型犬のTPLOを行うときに、脛骨動脈を切断したことがあり、これはまるで運が良いかどうかの話になるのですが、そのときは切断してしまいました。それで、かなりの出血があったのですが、目視できない血管が切断されているわけですから、当然のようにこれを止血することはできないわけです。
止血に選択をせずに、そのまま手術を続けて最終的には無事に手術が終わり、その頃には出血は完全に止まっていました。
このTPLOをされる獣医師は少ないのですが、その中でも日頃よくされている獣医師に話を聞くと、出血はどうすることもなくすることがあるけど、そのまま手術を続ければ最終的には問題なく終わるし、どうぶつにも問題が起こったことはないということでした。
やっぱり獣医外科医は、こうでなければなりませんね。先輩獣医師の心強い回答でした。