【犬の認知機能不全症候群(痴呆症)】対処の方法を獣医師が解説します。

犬の認知機能不全症候群(痴呆症)

犬が認知機能不全症候群(痴呆症)になると、これまでできていなかったことができなくなったり、これまでとは違うことを始めたりして、ご家族の方々は大変な思いをすることも多くなります。

犬の認知機能不全症候群(痴呆症)に、早い段階で行動療法や食事療法を取り入れることによって、犬の心身の健康をできるだけ維持することができたり、症状の進行を先送りにできたりします。そのためには、犬の認知機能不全症候群(痴呆症)に早めに気づいてあげることが必要で、これには、まずご家族の方々が、犬の認知機能不全症候群(痴呆症)と言う加齢性変化があることを知り、かかりつけの獣医師とこのことについて向き合うことから始まります。

認知機能不全症候群(痴呆症)の犬のご家族が抱えるできごとには、夜泣き、粗相、徘徊などです。犬は、あてもなく歩きます。そして、これまで失敗したことがなかった犬でも粗相をします。また、最もご家族を悩ませるのが夜泣きです。

私が以前に診察をしていた柴犬の飼い主さんは、とってもとってもその柴犬を大切にしていましたが、その子が認知機能不全症候群(痴呆症)になって、毎日夜泣きをするようになると、冗談っぽく「昨日の夜は、首をしめてしまおうかと思ったわよ」と、言われたことがありました。

大切にしていた柴犬だから、どんなことがあっても向きお会いとされていました。私が一晩だけでも動物病院でお預かりしましょうかと提案しても、結局泣くのには変わらないのだから、最後まで一緒にいますと、一度も預かることはありませんでした。

そのように、飼い主さんの心の中に、ときに鬼が現れることもあります。誰にでも起こることがあるのかも知れません。

犬の認知症の特異的で根治的な治療はまだありません。

ヒトの認知症においてもそうであるように、犬の認知機能不全症候群(痴呆症)に対する治療もまだありません。では、何をするのか?それは、認知機能不全症候群(痴呆症)の症状の進行をできるだけ遅くすることです。さらには、犬とそのご家族の生活の質をできるだけ良い状態で保つことです。そして、高齢犬には、加齢に伴う疾患もみられることがあるので、それらの治療を行うことも大切です。

対処の方法には、行動療法、食事療法、薬剤療法がありま。今回は、対処法として、行動療法と食事療法を掘り下げます。

行動療法

犬の認知機能不全症候群(痴呆症)の行動療法は、心身の健康を維持するために、犬にストレスを与えないようにすることが大切です。そして、適度な刺激を与えることです。

ストレスを与えないように、そしてストレスになりそうなものを生活環境から省いて行きます。

認知機能不全症候群(痴呆症)の犬にストレスを与えないためには、飼い主が認知機能不全症候群(痴呆症)のことを知る必要があります。ときに、これまで失敗したことがなかったトイレでの排泄ができなかったからと言って、叱りつけてしまうなど、誤った対処をすることになります。そのことが、犬の認知機能不全症候群(痴呆症)の症状がどのようなものかがわかり、またあなたの犬が認知機能不全症候群(痴呆症)だとわかると、対処やあなたの気持ちも変わるかも知れません。

もし、あなたの犬が認知機能不全症候群(痴呆症)だとわかり、トイレでの排泄を失敗することがあれば、まずは子犬のときのようにトイレトレーニングを行います。やり方は、あなたの犬が排泄をするそぶりを見せたり、そろそろかな?というタイミングになったら、犬をトイレまで連れて行き、トイレでの排泄に成功したらトリーツを与えたり、褒めてあげることで、毎回のトイレの失敗を減らすことができるでしょう。できるだけ成功体験を増やすという意識が必要で、逆に1回も失敗させないくらいのトレーニングも必要ですが、飼い主さんの生活の中では限界もあるはずです。大切なのは、犬にもご家族にもできるだけストレスにならないようにすることですので、無理は禁物です。

とはいえ、ストレスが全くない状況にはなりませんから、そこは受け入れないといけないこともあるでしょう。

また、ヒトではバリアフリー環境を整えたりするように、犬でも同様に、動きやすい環境づくりも必要です。少し矛盾するかも知れませんが、認知機能不全症候群(痴呆症)の犬がいる環境をあまり変化させ過ぎても、犬のストレスになります。トイレに位置が変わったり、ベッドの位置が変わったり、ご自宅の家具の配置が変わったり、お引越しをされたりいうことも犬のストレスになります。

そして、また子犬のときのように、犬が覚えているコマンドで犬を動かす復習をすることも犬を適度に刺激できます。例えば、お座りを復習して、できたら褒めてトリーツを与えたり、ときには新しいコマンドで犬に初めてのことをさせてみるのも良いでしょう。

さらには、子犬の時によく使うコングを使った遊びながらのおやつも良い刺激になります。

食事療法

認知機能不全症候群(痴呆症)の犬に推奨される栄養素は下のとおりです。

ビタミンE、ビタミンC、セレニウム、L-カルニチン、ω3不飽和脂肪酸、フラボノイド、ポリフェノール

これらの栄養素を食事にあわせてサプリメントを与えるのもようでしょう。