食べ物のアレルギー
診察をしていると、特に新規の犬の飼い主さんが、うちの子は食べ物のアレルギーがあるから、食べられる物が少なくて。と言われることがあります。
ここには、大きな問題が潜んでいます。それは、犬の食物アレルギーをしっかりと診断するには、ある程度の時間が必要です。それを安易に血液検査だけで判断しようとすると、問題が起こります。
犬の食物アレルギーをしっかりと理解したり、診断することは獣医師にとっても難しいことです。
先ずは結論から
犬の食物アレルギーを血液検査だけで判断して、食べ物の選択の根拠にすることは、ときに正しく、ときに誤りです。
では、なぜ?
血液検査の検査精度や方法に問題があるかも知れない。そして、非常に信頼度の高い検査センターがあります。国際的に、論文などを書くときに使われる検査データというものは、このような信頼度の高い検査センターでの検査結果が使われます。
血液検査結果ではダメとなっている食べ物を与えても全く問題がないこともあります。
本当の食物アレルギーは、1歳未満から起こります。もしそれまで何ともなかったのに、3歳くらいから痒みが見られて、そこで血液検査をしたところ例えば小麦がダメですよなどと言われた場合、本当かな?と考えてもいい訳です。
ヒトの信頼傾向
話を戻します。一つは、検査の精度です。犬の食物アレルギーに関わらず、アトピーについてもそうですが、検査センターがいくつかあります。そこでは、抗原特異的IgE抗体と言うものを調べてくれます。これは、犬が暴露を受けた、つまりは触れたり食べたりした物の中から、抗体ができたものが反応します。そうすると、もしあなたの犬が何かしらのアレルギーの原因を調べるための血液検査をしているなら、検査結果に陽性であるとか、ダメですよとなっている項目をよく見てみてください。それは、あなたの犬がこれまでに暴露を受けたアレルギーの原因物質のはずです。
犬が食べたり触れたりしたものがアレルゲンになる可能性があります。そうではないものがアレルゲンになることはありません。
一例ですが、シラカバに陽性反応が出た場合、食べ物ではありませんが、検査精度の評価としてです、その犬はある程度シラカバがある環境にいたかも知れないとなります。もちろん、ヒトのスギ花粉症のように、シラカバ抗原が結構な遠くから運ばれてくることもないとは言えませんが、日本でシラカバが分布しているのは、福井県、あるいは静岡県から北海道です。
そして、オリーブに陽性が出たとします。オリーブは日本にもありますが、これは自然に存在すると言うよりも栽培されている植物です。そして、花粉が飛散するのは初夏です。周りにオリーブはないし、秋頃に痒い原因がオリーブってことはまずないはずです。ヒトが真冬にスギ花粉症だと言うようなものかも知れません。
鹿肉に反応があるとか、ニンジンに反応があると言うのも同様で、これまである程度の鹿肉やニンジンに触れてきたか食べてきたかが問題になります。全く触れたことがない食べたことがないのに、陽性が出ることはあまり考えられません。
そして、もっと大切なこととして、犬の食物アレルギーを抗原特異的IgE抗体だけで判断することは困難です。アレルギーを大別すると、I型からIV型までに分けることができます。犬のアトピー性皮膚炎は、I型アレルギーであり、抗原特異的IgE抗体が関与します。しかし、犬の食物アレルギーはIV型アレルギーで、リンパ球(T細胞)が関与します。
アトピー性皮膚炎の検査で、食べ物項目にも陽性があった場合、食べないことも良いかも知れませんが、食べて問題が起こるかと言いますと、必ずしもそうではありません。まずは与えてみてどうなのかを試すことも必要です。
そう書きますと、犬の飼い主さんの中には、食べさせて死んでしまったりはしないのか?などど、ヒトのピーナッツなど起こるアナフィラキシーと同様なことを心配される方があります。普通は起こりませんが、試すことがイヤでしたら、検査結果のみで食べ物を選べば良いでしょう。しかし、本当か?に検証まで行いたけど、何かしら心配であれば、獣医師の指導のもとで食物負荷試験なり、除去試験なりを行うことをお勧めします。
ちなみに、私は食物アレルギーについて詳しい人が少ないのではないかと考えています。そうなると、血液検査結果だけで食べても良いとかいけないとかの判断をしてします。そうすると、本当は食べても良いのに食べない生活を続けることになります。
もちろん、それが悪いとは言いませんけど。必要のない努力はしたくない方もあります。