【犬の前庭疾患】全ての原因を網羅。獣医師が解説します。

犬の前庭疾患

症状は、捻転斜頸、眼振、転倒、運動失調などです。

立とうとしては、バタンと倒れたり、同じ方向にグルグル回ろうとしたりします。

前庭疾患の中で、老齢犬によくみられる特発性前庭疾患の場合、多くが10日以内に正常に回復しますが、重症な場合には、1か月ほどかかって回復することもあります。いくつかの症状だけが残ることもあり、おおよそ半数の犬で、捻転斜頸が2か月も残るという報告もあります。

捻転斜頸とは、首を捻った状態で、傾げているような、そんな状態です。

眼振とは、目がカチッ、カチッというような感じで(音は出ませんが)左右に振動したり、時に上下に振動したりします。

運動失調は、正常に歩くことができなくなります。

これらすべてが起こることもあります。そして、この中のどれかだけということもあります。

これらの変化は、ほとんどの場合には突然起こります。

前庭疾患て何?

前庭系とは、脳幹、小脳、内耳とそれらの伝導路である前庭神経のことです。前庭神経とは、脳に12対ある脳神経のうち、第8脳神経(第VIII脳神経)に含まれるものです。そして、前庭系の障害によって起こる疾患です。

ですから、前庭に病気があるということを示すものであって、一つの病気の名前ではない訳です。

前庭疾患はまた、障害が生じている領域によって、末梢性前庭疾患と中枢性前庭疾患とに分類されます。

末梢性前庭疾患とは、内耳に障害が起こるものです。

中枢性前庭疾患とは、脳幹、小脳に障害が起こるものです。

末梢性前庭疾患の原因

中耳炎、内耳炎、特発性前庭疾患、鼻咽頭ポリープ、先天性前庭疾患、甲状腺機能低下症、耳垢腺癌、皮脂腺癌、扁平上皮癌、骨腫瘍、神経原性腫瘍、中毒を起こす薬剤や化学物質、中耳や内耳の損傷など

末梢性前庭疾患の原因で最も多いのは、中耳炎や内耳炎です。

そして、これらは細菌感染によるものが多く、ブドウ球菌、レンサ球菌、緑膿菌、大腸菌、プロテウス菌などです。中耳炎や内耳炎があっても、外耳炎が見られないこともよくあります。つまり、耳の穴から感染が起こるのではなく、鼻から耳に向かう耳管から感染することがあるということです。

末梢性前庭疾患で、中耳炎や内耳炎についで多いのは、特発性前庭疾患で、これは、特に高齢犬に起こることが多く、老齢性前庭疾患とよばれることがあります。そして、このと特発性というのは、原因不明ということです。ですから、他の原因ではない場合にこの診断名が使われます。

中枢性前庭疾患の原因

髄膜脳炎(原因不明)、感染性髄膜脳炎、小脳梗塞、腫瘍(転移性腫瘍、髄膜腫、髄芽腫、神経膠腫、脈絡叢腫瘍、類表皮嚢胞)、ライソゾーム病、ニューロパチー、神経軸索ジストロフィー、アビオトロフィー、キアリ様奇形、くも膜嚢胞、甲状腺機能低下症、低血糖、チアミン欠乏、犬ジステンパーウイスルス感染症、細菌、真菌、寄生虫、壊死性脳炎、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎、中毒(メトロニダゾール、イベルメクチン、鉛など)、頭部の外傷、脳梗塞

前庭疾患の治療

前庭疾患の治療は、その原因によって異なります。

末梢性前庭疾患で最も多いとされる中耳炎や内耳炎の場合には、細菌感染が多いので、抗生物質や抗真菌薬が必要です。そして、末梢性前庭疾患で、中耳炎や内耳炎についで多いとされる特発性前庭疾患の場合には、捻転斜頸、眼振、運動失調と嘔吐や食欲不振がみられることが多く、これらに対する支持療法や対症療法が必要になります。つまりは、食べないことで不足する水分やミネラルやビタミンを点滴で補正したり、嘔吐に対して吐き気どめを使ったりするということです。

中枢性前庭疾患(脳幹障害)の中には、治療に反応せずに亡くなるものもあります。

しかし前庭疾患は、多くが高齢犬に起こるものであり、そのほとんどは末梢性前庭疾患で、予後が良いことが多いものです。そして、ほとんどが10日以内に何かしらの症状の改善が見られ、長いものでも2か月ほどでほぼ正常に戻ることが多いことを経験しています。

犬の特発性前庭疾患は、高齢で見ることが多く、ときに、他の疾患と重なったり、似たように見えることもあります。例えば、柴犬や日本犬の雑種では、認知機能不全症候群があります。はじめは眼振や捻転斜頸を特徴とする特発性前庭疾患が起こり、その眼振や捻転斜頸が治ってもなお、規律不能や夜泣き、徘徊があるようであれば、それは特発性前庭疾患後に起こる認知機能不全症候群かも知れません。認知機能症候群は、高齢の柴犬や日本犬の雑種に非常に多く見られます。

また、中枢性前庭疾患の場合には、悪化しながら治ることがないことが多く、原因追求が難しいこともあります。

1 COMMENT

現在コメントは受け付けておりません。