【犬の無菌性結節性脂肪織炎】生涯にわたって治療が必要。獣医師が解説します。

犬の無菌性結節性脂肪織炎 (化膿性肉芽腫性炎)

この診断を言われると、犬も飼い主さんも大変です。薬を使うと一時的に良くなりますが、結果治りませんし、治療は生涯にわたって続きます。どこかに魔法のように一撃で治してくれる獣医さんはいないものか、探しまくる飼い主さんもありますが、残念ながら現実を受け入れなければなりません。

どんな病気?

皮膚の下、皮下組織というところに、コブができる病気で皮膚病に分類されます。このコブは、ほとんどが柔らかくて、時に水が溜まっていることがあります。大きさは、500円玉大だったり、卵くらいだったりしますが、犬の種類によっては、もっと大きなものができることがあります。

数は1個から数個になることがあり、多くは2個以上できますが、複数個が一度にできることもあれば、1個治ったと思ったら、別のところにまた1個というようなでき方をすることもあります。

ぶよぶよして、柔らかく、脂肪のようで、ときには水が溜まっています。

コブの表面は、少しだけ破けて出血したり、水のような漿液が出ることがあります。ただ、だらだらと血液や漿液が止まらないということはありません。

はじめはコブのようなものですが、進行すると、あるいは時間が経つと、表面に小さな穴が空いて膿汁や漿液などが出てくるようになります。これにも細菌は見られません。ときに、元気がなくなることもあります。下のような症状が見られることがあります。

発熱、食欲不振、無気力、痛み、関節痛、腹痛、嘔吐、肝臓や脾臓の腫大

そして、この病気の原因はわかっていません。

病気の原因はわかってはいませんが、免疫抑制療法に反応して、コブが小さくなったり消えたりしますから、免疫介在性疾患と考えられています。つまりは、免疫系に何かしらの異常が起こっているということです。この免疫に関係するということは、まだ証明されてはいません。

また、下記のものは、無菌性結節性脂肪織炎を引き起こす可能性があるとされますが、大部分では明らかな原因を特定することはできません。

膵臓疾患、全身性エリトマトーデス、関節リウマチ、リンパ球形質細胞炎、α1アンチトリプシンの欠乏、遺伝、薬剤、外科手術

どのように診断するの?

まずは臨床所見(見た目の判断をします)

皮膚の下、皮下組織のやや深いところにできるコブが特徴です。そして、多くは1個だけにとどまらず、複数個できますが、私がみるのは1個から2-3個のことが多く、複数個だからと言って4-5個もある犬はまだ見たことがありません。

もし1個しかなくて、この病気が疑われる場合には、手術で完全に取り切ってから、病理組織学的検査を行なって確定診断を行います。そうすることで、他の病気ではないことを確認します。

この病理検査のための手術で、私が気にするのが、手術をしたところにまた同じ炎症、無菌性結節性脂肪織炎が起こらないかどうかです。この無菌性結節性脂肪織炎自体が、手術刺激で起こる可能性もあるわけですから、そこを治療と検査のために手術することで、同じことにはならないかという心配です。もちろん、やる意味はあります。病理組織学的診断ができますから、やらないよりは良いわけですが、また同じものができてしまう可能性はあります。

病理組織学的検査での診断は、化膿性肉芽腫性炎というものになり、菌体その他はみられません。病変部からの材料で細菌培養をしても陰性です。

どんな治療をするの?

免疫抑制療法を行います。これらの治療法は、はじめはしっかりと効かせるために、ある程度多めの量で初めて、効果を確認しながら薬の量を減らしていきます。コブが1個しかない場合には、手術で取り除くことも治療になることがあります。

薬の効果は、しっかりとみられることがほとんどですが、残念なことに、治療を中止するとすぐに再発します。薬を止めたり、減らしたり、また始めたりと、生涯にわたって治療が必要です。

この病気と診断された犬の飼い主さんは、できるだけかかりつけの先生と二人三脚で病気に向きあうことをお勧めします。どこかに治してくれる獣医師がいないかを探し歩いても、きっと同じ治療を提案されるだけでしょう。信頼できる先生とともに病気に向きあうことの方が頑張れると思います。