犬や猫の整形外科を診察、治療、手術ができるところはそれほど多くはありません。
私の周りの獣医師も、「整形外科はやらないよ。」そう言っている先生方も多くいます。
都内では、整形外科で有名な動物病院も数件ありますし、有名ではないけれども、丁寧に整形外科手術を行っている動物病院もあります。
動物病院の事情があります。
まず獣医師は、大学を卒業して動物病院に勤務することがあります。
はじめに書いておかなければならないのは、大学で獣医学を学んだ者が、全員動物病院で仕事をするかというと、そういうことはありません。
私の卒業した大学(地方の国立)で言いますと、1学年34名の卒業生のうち、動物病院で仕事をしている同級生は1ケタです。他は、公務員や大学の教職、企業での研究職など、動物病院以外で仕事をしており、どちらかと言いますと、動物病院で仕事をするのは少数派です。
私立大学ですと、動物病院で仕事をする獣医師は多数派だと思います。人数もかなり多いです。
この話をするのは、大学の獣医学は、決して動物病院の獣医師を育てるためだけの学問ではないということです。牛、馬、豚、そして鳥のことも、魚のことも、ミツバチのことも学びます。
その中で、犬のことを学ぶ時間はその中の一部となります。
さらには、そこでいろいろな分野、例えば、内科、外科、寄生虫学、公衆衛生、病理、などなど10教科以上を学びます。
そして大学を卒業するときに、しっかりとできる手術には、何があるかと言いますと、おそらくは一つもありません。
動物病院で手術を数多く行なっている獣医師でも、大学卒業段階では、多分何の手術も十分にはできていないのです。
ではどこで手術を習得するかと言いますと、卒業後に動物病院勤務をする者が、勤務先の動物病院で学ぶことになります。
勤務先の動物病院が、あまり積極的に手術をしないところだと、そこで働く獣医師も手術ができるようにはならないかも知れません。
そして、教わる手術についても、難易度が異なり、当然のことながら難易度の低い手術から習得することになります。例えば、猫の去勢手術からが多いと思いますね。
だいたい勤務して3年も経ちますと、ある程度いろいろな手術を行うようになりますが、それでも軟部外科と呼ばれる、体の表面にあるデキモノを取る手術くらいまでが多いように思います。
では、整形外科はいつ学ぶか。
特別に整形外科に力を入れている動物病院であっても、3年目くらいまでの獣医師には、執刀まではさせてくれないかも知れません。
助手は早くからやらせてくれるとは思います。もしかしたら1年目でも。
そのような動物病院でも、整形外科を執刀するとしても3年目以降でしょうから、それ以外の獣医師の多くは、開業してから自分で学ぶことになります。
自ら開業後などに学んだか、学ばなかったかが、整形外科をやる動物病院とやらない動物病院の違いでもあります。
そして開業したばかりの動物病院で、整形外科の手術設備を整えることは、容易ではありません。小さな器具でも結構高価ですし、一揃えしようとすると、すぐに100万円を超える出費になります。まともにしっかりと揃えると、当然そして、機器を揃えるだけではなく、手術手技も習得していかなければなりません。
そこまでして、どれくらいの整形外科の患者さんがあるかと言いますと、一般の動物病院では、月に1件あれば多いほうかも知れません。
整形外科手術は難易度が高いので、難しい手術、高価な手術設備、少ない手術件数となると、取り扱う数が少ないし、もし整形外科の患者さんが来たら、大学病院や専門の動物病院にお願いしよう。そう考える動物病院が多くなるのは、ある意味自然かも知れません。
そうなると、一般の動物病院に来院する整形外科疾患の動物が、整形外科手術のできる動物病院に紹介され、その紹介先の専門病院には毎日のように整形外科手術を受ける動物が来院するという流れができ上がります。
そして整形外科手術は、そもそも使用する材料費も技術料も高額ですが、その特殊性から技術料がさらに高額になることも多く、かかりつけの動物病院から紹介され、整形外科手術ができる動物病院に行ってみたはいいけれども手術費用に対して想定外の高額の見積もりを提示されて驚かれる飼い主さんも多いはずです。
このような動物病院は、動物に必要な手術が他の動物病院ではできなか、できる動物病院が極端に少ないために、希少性に任せて費用設定として足元を見られているようなものになっている気もします。
その中で、東京都中央区にある整形外科手術ができる動物病院は、専門病院ではありませんが、非常に特殊な前十字靭帯の損傷の治療で行われるTPLOといった手術や、骨折の整復手術、膝蓋骨脱臼の手術を多く手がけていて、専門病院で提示された見積もりに驚かれた飼い主さんが、逆の驚き方をされることも多いようです。(安い)
それでも、他の手術に比べると高額ではありますが、専門病院ほどではないことで、最終的に手術依頼を受けることが多くなっています。
かかりつけから紹介を受けて行った動物病院で、驚くような高額な見積もりがあった場合、もう1-2件の選択もあるといいのかも知れません。