猫の腸管腫瘍は多くはありません。とは、言っても、猫にできる腫瘍の10%くらいにはなります。その内訳は、リンパ腫が50%ほど、癌腫が30%ほどで、この2種類の悪性腫瘍がほとんどを占めます。そして、これらは小腸に起こるのが一般的です。
猫の腸管リンパ腫にもいくつかの種類があり、その種類によって、その後の腫瘍の動きに違いが出てきます。基本的に、リンパ腫は悪性腫瘍で、完治を目指すことは極めて困難です。最終的に生命に関わることがほとんどですが、その後どうなるかを判断するためにも、病理組織学的検査は重要です。
猫のリンパ腫
最も一般的なものは、粘膜関連リンパ腫で、リンパ球にもさらに種類があり、T細胞と呼ばれるリンパ球に由来する腫瘍です。通常、小型の細胞で、小腸に起こり、低グレードですが、ゆっくりと進行して、小腸から全身へと広がります。この段階で高グレードとなります。
このT細胞性腸管リンパ腫は、炎症性腸疾患(IBD)に似た症状を示すので、これと区別をしなければなりませんが、T細胞性腸管リンパ腫は、炎症性腸疾患(IBD)とともに存在することがあったり、炎症性腸疾患(IBD)が進行、悪化して、T細胞性リンパ腫が起こる可能性もあります。
小腸から大腸へ移行するところでは、B細胞性腸管リンパ腫の発生が多く、これらは腸にあるリンパ濾胞であるパイエル板に由来するものです。初めは低グレードですが、次第に全身に広がるようになります。
大型顆粒リンパ球性リンパ腫は、猫のリンパ腫の10%を占めます。猫にできる腫瘍のうち、10%が腸管に起こり、さらにその中の10%がこの大型顆粒リンパ球性リンパ種ということです。腫瘍細胞は、初めは小腸や腸間膜リンパ節と呼ばれる腸の周りにある膜リンパ節に入り込み、その後には胃、大腸、肝臓、脾臓、骨髄、そして腎臓にも及びます。そして、広がる速さが早いのも特徴です。
癌腫
癌腫は、猫の腸管に起こる腫瘍では2番目に多いものです。癌腫は小腸に起こりますが、大腸にも起こります。癌腫の中でも、一般的なのは腺癌で、その中には、多くみられる順番では、腺胞腺癌、乳頭腺癌、粘膜腺癌、印環細胞癌、未分化癌、そして腺扁平上皮癌となっています。
これらの腸管腫瘍は、発見時には、ある程度進行していることがほとんどです。ある研究では、癌腫の30%ほどは、癌細胞が腸管を超えて、腹膜に転移を起こしています。その他には、リンパ節や肝臓への転移がみられることがあります。
猫の腸管型リンパ腫のステージ分類
T: 原発腫瘍(腸管の状態)、腸管のどの深さまでリンパ腫が入り込んでいるかで評価をします。腸管の表面側から、裏面側までには、いくつかの層があります。そん順番は、一番表面側から、粘膜→粘膜固有層→粘膜下織→筋層→漿膜という順番です。
- T0 : 腫瘍を認めない
- Tis : 粘膜、上皮内腫瘍、または粘膜固有層に浸潤
- T1 : 粘膜および粘膜下層に浸潤する腫瘍
- T2 : 筋層および漿膜に浸潤しているが、隣接組織には浸潤していない腫瘍
- T3 : 臓側腹膜あるいは隣接組織に浸潤している腫瘍
N: 所属リンパ節(LN) : 肝リンパ節、膵リンパ節、十二指腸リンパ節、空腸リンパ節、腸間膜リンパ節、盲腸リンパ節、結腸リンパ節、直腸リンパ節
- N0 : 所属リンパ節転移を認めない
- N1 : 所属リンパ節転移がみられる
- N2 : 遠隔リンパ節転移がみられる
M: 遠隔転移
- M0 : 遠隔転移なし
- M1 : 遠隔転移あり
上のことを踏まえてのステージ分類
- ステージI : T1,N0,M0
- ステージII : T2-3,N0,M0
- ステージIII : Tに関係なく,N1,M0
- ステージIV : Tに関係なく,Nに関係なく,M1
予後:腸管腫瘍のその後
良性の腫瘍の話は、今回はしていませんが、良性の腸管腫瘍の予後はよく、完全に切除できれば完治できることがほとんどです。
悪性腫瘍の場合、外科手術をして長期に生存した場合には、局所再発が最終形となります。猫の小腸腺癌は、手術をした場合、その後に回復するまでの間がリスクが高いものですが、それを乗り切った場合には、長期の予後が期待できます。
高グレードリンパ腫の予後は不良ですが、外科手術は適応ではなく、化学療法が第一選択です。そして、治ることはないので、腫瘍が進行せずに、静かにしている状態を寛解と言いますが、この寛解が得られるかどうかが重要です。そして、寛解が得られるのは、18% です。化学療法のプロトコルを効果的なものに変えると、寛解率が40%から80%は寛解するという研究があります。
低グレードリンパ腫は、生存率が長く、寛解率も高く、50%から90%と報告されています。しかし、大型顆粒リンパ球性リンパ腫は、生存期間が短く、寛解率は5%未満とされています。