【犬と猫の歯周病】全身にはどのような影響があるかを獣医師が解説します。

歯周病は、犬や猫に見られる一般的な感染症です。犬と猫のおそよ80% が歯周病をもっているとされています。そのような歯周病が全身的な他の病気に関連があるとされています。

しかし、ここには難しい検証過程があり、まだ明確には証明できていません。歯周病とその他の疾患との関連性はわかっていますが、直接的に関わっているという立証が困難です。

感染症には、コッホの原則というものがあります。これは、感染症の原因である病原体を特定する方法です。

すべての感染症にかかっている動物に、ある特定の微生物が多量に認められないといけない。そして、その微生物は、健康な動物では認められないはずである。

その微生物は、感染した動物から分離培養することができて、その培養は継代培養ができなければならない。

培養された微生物を健康な動物に接種すると、病気になるはずである。

その微生物は、その病気になった動物から再び分離されて、元の微生物と同じであることが確認されなければならない。

これが、コッホの原則です。

しかし、歯周病を作る微生物の候補は700種類を超えています。つまりは、口の中には700種類を超える細菌が常にいるということで、これが歯周炎を引き起こします。そして、歯周炎は感染性の病気でありながら、コッホの原則には当てはまりません。

心血管疾患への影響

ヒトでは、歯周病と心血管疾患との関連性を示す研究が数多くあり、そのほとんどで、関連性だけではなく、直接相関しているとの見解がある。しかし、獣医学的な研究では、歯周病と心血管疾患との関連性は証明されていますが、直接的な因果関係はまだ証明されていません。ヒトでも獣医学的にも、歯周病と心血管疾患の関連性は認められていますが、直接的な因果関係はヒト医学では一致した見解がある中で、獣医学的には決定的な根拠がまだ得られていません。

糖尿病

ある研究では、糖尿病の犬の歯周病を治療することで、インスリンで血糖値をコントロールできるようになったというものがあります。これは、歯周病によって血液中に増加する炎症関連性物質が、インスリンの効き目を抑えていて、それによって血糖値をインスリンで下げることが難しくなるということです。そこで、歯周病を治療して、このインスリンの効き目を下げている炎症関連性物質を減らすことで、インスリンの効果を正常化して、血糖値を下げることができたということです。

ちょっと余談ですが、犬や猫の糖尿病を治療していると、インスリンがなかなか効かないどうぶつに遭遇することがあります。インスリン抵抗性と呼ばれる、インスリンが効きにくい原因があるはずです。歯周病も、ときには、インスリン抵抗性を持つことがあります。

肝臓病

肝臓の変性、脂肪肝、そして肝膿瘍は、歯周炎と関連することが犬では報告されています。ここでも、関連は確認されていますが、直接的な原因という研究結果はまだありません。

このように、口腔疾患と全身性疾患との関連は、いろいろな研究で報告されていますが、直接的に原因であると断定できる結果はまだありません。

歯周病の診察が始まるのは、どうぶつのご家族が、その口臭に気づき、治療を必要とするかどうかを獣医師に相談に来た時からです。しかし、獣医師もどうぶつの口に中を見ただけでは正確な診断はできません。正確な診断のためには、全身麻酔を実施して、プローブと呼ばれる器具を使って歯周検査を行って、口腔内のX線(レントゲン)検査を行うことが不可欠です。

もしあなたの犬や猫の歯周病をしっかりと治療したければ、歯科専用、あるいは口腔内のレントゲン検査をしっかりとできる動物病院を選択しましょう。

一般的なレントゲンだけでは、十分な歯科疾患の評価は困難ですし、ましてや無麻酔で歯石だけを取るところでは、歯周病治療で重要になる後臼歯の評価をすることは難しいでしょう。