【犬が下痢をした。原因は?:犬コロナウイルス感染症】獣医師が解説します。

犬コロナウイルス(CCV)は、若齢犬に、軽度から重度の伝染性の胃腸炎を引き起こすことがあります。感染は、ウイルスを含む便を口から取り込んで起こり、感染した犬のほとんどに症状はみられませんが、仔犬は急性の胃腸炎を起こすことがあり、特に重症の場合には、食欲不振、嘔吐、下痢などの症状がみられることがあります。多くの犬は治療しなくても急速に回復します。仔犬は、感染した犬との接触を避けるようにし、適切な衛生管理と消毒で感染拡大を防ぐようにします。

犬コロナウイルス(Canine corona virus)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは異なるウイルスです。

犬コロナウイルス(CCV)は、特に高密度で群飼されている仔犬に急性胃腸炎を引き越しますが、多くは治療を必要とせず回復に向かいます。もし治療が必要になっても、支持療法を行うことで回復が期待できます。支持療法とは、原因である犬コロナウイルスを排除するのではなく、犬の生活の質を維持して、症状の緩和を目的とした治療です。

感染をしても症状がみられなかったり、健康な犬の便からも犬コロナウイルスが検出されたりと、犬コロナウイルスが、どの程度問題視さるべきかの議論には、まだ結論が出ていません。

獣医師
獣医師

犬コロナウイルスには、予防のためのワクチンがありますが、国際的なガイドラインでは、接種が推奨されていません。定期的に接種する犬の混合ワクチンでは、犬コロナウイルス感染症予防は必要ありません。

さよ
さよ

ワクチンは推奨されていませんが、感染拡大予防は大切です。排泄物の始末やその他、衛生管理・消毒を適切に行うことが勧められます。犬コロナウイルスには、ざまざまな消毒薬が有効です。身近なものでは、アルコールや次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)があります。

犬コロナウイルス単独では、大きな問題にならないことが多いのですが、犬コロナウイルス感染症は、犬パルボウイルスや他のウイルスなどの感染性腸疾患の罹患率と死亡率に関係する可能性があります。

罹患率とは、ウイルスに暴露された場合に感染する割合のことです。犬パルボウイルスは、そもそも罹患率が高い感染症ですが、犬コロナウイルスと共に感染した場合には、死亡率が高くなることが予想されます。

犬コロナウイルス感染症の主な特徴は、下のようなものです。

  • 複数で飼われている仔犬
  • 水様性から粘液性の下痢
  • 嘔吐
  • 元気がなくなる
  • 熱は高くはないし、白血球減少症がない

目次

犬コロナウイルスはどのようなウイルス?

<感染の経路>

犬コロナウイルスは、伝染性が高く、ウイルスを含む糞便を口から取り込むことで感染します。犬は自らも、そして他の物も、よく舐める動物です。糞便そのものを口にすることは少ないかも知れませんが、手足やお尻に付着したものを舐めてしまうことがあります。犬コロナウイルスは、感染した犬に問題となる症状を引き起こすことはほぼありません。どの年齢の犬にも感染し、臨床症状がみられるとしても通常は仔犬だけです。

<犬コロナウイルスの消毒>

犬コロナウイルス感染症予防において、糞便の片付けは、犬の生活環境を清潔に保つためにも重要です。そして、さまざまな消毒薬で犬コロナウイルスを不活化できます。不活化とは、感染できない状態にすると言うことです。身近な消毒薬はアルコールや次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)です。

どのような症状がみられるの?

犬コロナウイルスに感染した犬のほとんどが無症状です。

成犬

軽度の消化器症状である、下痢や嘔吐がみられる可能性があります。

仔犬

生まれて間もない仔犬や1歳未満の仔犬に、軽度から重度の、突発的な下痢が見られることがあります。これらの下痢には、通常、血液は含まれません。その他に、元気がなくなったり、食欲が落ちたり、嘔吐がみられることがあります。

どのように診断するの?→病気の決定方法

犬コロナウイルス感染症の確定診断は、症状病歴、そして臨床所見で行います。

多くの所見は、非特異的で、白血球減少症は認められません。非特異的とは、例えば下痢のように、犬コロナウイルス感染症だけでなく、さまざまな病気でみられるという意味で、犬コロナウイルス感染症を決定づけるような症状はありません。

<ペア血清での確定診断>

ウイルスの存在を確定することは稀です。ほとんど場合、その必要はありません。もしも、ウイルス存在を確認するのであれば、ペア血清を用いて、免疫グロブリンGの抗体価を測定します。ペア血清とは、ウイルス感染の初期に血液中に含まれる犬コロナウイルスに対する免疫グロブリンGと呼ばれる抗体の量が、感染が確定的であれば、おおよそ2週間後には、4倍以上に増えていることを使った診断方法です。

初めは低かった免疫グロブリンの抗体価が、2週間後に4倍以上に増えていれば、犬コロナウイルス感染症だと確定できますが、ほとんどの犬では、感染後2週間では回復しています。

その他には、便検体や組織から直接検査する方法があります。しかし、これらの方法で犬コロナウイルス感染症の確定診断を行うことは稀です。

・電子顕微鏡 ・ELISA ・腸組織を用いた蛍光抗体法

電子顕微鏡では、直接ウイルスを見ることができますが、通常使われる光学顕微鏡とは異なり、ウイルスを電子顕微鏡で観察するには、かなり手間のかかる処理が必要です。電子顕微鏡を持つ施設でのみ検査が可能と言うこともあり、使われる機会はほぼないだろうと思われます。

ELISAとは、エライザとかイライザとか呼ばれます。資料中にある抗体や抗原を酵素反応によって調べる方法です。今回の場合は、便検体中の犬コロナウイルスを酵素標識と言う処理を行なった抗体を使って検出します。

蛍光抗体法とは、目的となる抗原に対する抗体に蛍光処理を行なってから反応させ、蛍光顕微鏡という特殊な顕微鏡で、光っているかどうかで、ウイルスの存在を調べる方法です。

似たような病気には、どのようなものがあるの?

ウイルス性下痢を起こすものには、下のようなものがあります。

・犬パルボウイルス感染症→詳細ページへ

・犬ジステンパーウイルス感染症→詳細ページへ

・犬ヘルペスウイルス感染症→詳細ページへ

その他の下痢の原因

・寄生虫症、細菌性腸炎→犬のクロストリジウム性腸炎

・中毒、腸内異物、腸重積症、代謝制疾患

治療

補助治療を行うことがありますが、多くの犬には治療の必要がありません。

経過観察と予防方法

仔犬は、犬コロナウイルスに汚染された環境を避けるようにしましょう。

感染犬からは、感染後6か月以上にわたってウイルスの排泄がみられることがあります。

定期的な犬コロナウイルスに対するワクチン接種は推奨されません。

犬コロナウイルスは、さまざまな消毒薬で不活化できます。