主に心臓の病気を持っている犬が急変をして、呼吸が早くなっている場合には、肺水腫が起こっている可能性があります。これは、救急疾患で、様子を見てはいけません。とにかくできるだけ早くに動物病院に向かってください。
この記事を読まれるのは、動物病院で肺水腫の診断を受けられた後が多いと思います。命の危険があるというお話を聞かれ、肺水腫とはどれくらいに怖いのか、あるいは治る見込みがどれくらいあるのかを知りたい方が多いと思います。
もし、犬が心臓の病気をもっていて、まだ肺水腫になったことがない場合には、事前にできることも書いていますので、参考にしてみてください。
もし犬が肺水腫で酸素室に入院管理をされている場合には、状態が安定するまでの間は、多かれ少なかれの急変リスクがあります。
要約します。
・命に関わる緊急疾患です。
・多くの場合には、入院管理、そして酸素室が必要です。
・もし入院している犬の容態が安定してきたら、在宅の治療になりますが、慢性心不全の治療を続けることになります。
・安定していても、また突然に肺水腫が起こることがあります。
犬の心原性肺水腫とは?
犬の肺水腫、ここでは心源性肺水腫のことですが、これは心臓のポンプ機能に異常が起こることで生じる致死性の高い病態です。
下図のように、僧帽弁閉鎖不全症が起こりますと、心臓(左心房や肺動脈)に普段はかからない力がかかります。ここの圧力が高まるわけです。これによって、組織液が肺の方へ流れて行きます。これで肺での酸素の取り込みができなくなって呼吸数が増えたり、呼吸が難しくなったりします。
治療は、この状態を改善させることですが、必ずしも改善する、治るとは限りません。命に関わる病気ですから、治らない場合には命をつなぎとめておくことはできません。
治療方法を獣医師が参考にする専門書に沿ってみてみます。
まず急性肺水腫を分類してから治療方針を決定します。心原性肺水腫が起こっているときに心臓の病態は、うっ血であったりうっ血に加えて抹消循環不全があったりします。これには、利尿薬、血管拡張薬、強心薬を使うことになります。通常これらの治療は、酸素室で安静にして行います。そして、興奮して安静にできない場合には、鎮静剤を使いながら治療を進めることも推奨されています。
どのような検査をするの?
獣医師は、まず身体検査を行います。犬の心原性肺水腫でみられる症状は、呼吸数の増加、心拍数の増加です。そして、咳をすることも多いのですが、咳がみられない場合もあります。そして、咳をする犬では、ときに血液色であったり、ピンクの泡を吐くこともあり、これは大変危険な状態であることを意味します。
この時点で、獣医師は心原性肺水腫であると仮の診断を立てます。そして、可能であれば、胸部X線検査を行います。いわゆるレントゲン検査です。しかしこれは、ある程度犬が安定した状態でないと、危険を伴う検査です。仮に安定していても、X線検査を行うことで、つまりは、犬を横向きに寝かせることで、状態が一気に悪化することも予想されます。
ある程度、X線検査に耐えられるか、すなわち、横向きに寝かせても問題がないかを判断してからの検査になります。実際に結果を先に知ることはできませんので、大丈夫だと判断してX線検査を行なったが、その最中に状態が悪化することは絶対にないとは言い切れないものです。
私は、できるだけX線検査を行いますが、これは治療を開始してから安定を見て行うときと、治療の前に行うことあり、これは犬の状態で判断するようにしています。それでもご家族の方には、いかなる場合でも、急変や急死のリスクが伴うことを先にお話しするようにしています。このリスクは、X線検査に限らず、治療中にはいつでも意識すべきリスクです。
次に行う検査は、心臓超音波検査ですが、これは必須ではありません。検査の有用性が高く、犬が安定しているときに行うことが多い検査です。
心臓超音波検査、いわゆるエコー検査は、心臓の病気が発見されたときや定期検査で行っているはずです。肺水腫が起こっているときに、迅速にこの検査をする意味はあまりないと考えています。急性の症状から安定した状態に戻った場合に、検査を検討しても良いものです。
どのような治療をするの?
治療の目的は肺水腫の改善、血圧の安定化、そして主な臓器への血流の確保です。
血圧を下げる薬を使います。具体的には、まずニトログリセリンを投与します。舌下錠と言って、舌の下に薬を置くことで血管拡張作用を示します。血管が広がると血圧が下がります。ニトログリセリンは不思議なことに、これを飲み込んでも、つまりは舌の下に置かずに、飲み込んでしまったら代謝されてしまって効果を発揮しません。ただ、舌の下に置くことが難しいことも多いので、代わりに男の子でも、女の子でも、生殖器粘膜に置く方法もよく使われます。
ニトログリセリンは、急患で動物病院に行った場合にも使われますし、自宅で治療をするようになった場合でも、処方される薬です。
次には、利尿薬を使います。これが最も大切な薬です。即効性があります。利尿をかけると、つまりは尿の量を増やすことで、心臓に入り込む血液量が少なくなり、心臓への負荷が軽減されます。それによって、肺水腫の改善を図るのが目的です。
最もよく使われるフロセミドと呼ばれる利尿薬を犬に注射すると、5分から30分以内には排尿が見られることがあります。これをある程度繰り返すことで、心臓にかかる負荷を軽減して、肺へかかる血圧を下げることで、肺水腫の改善を目指します。
そして、これでも解決できない場合には、強心療法を行います。これは静脈点滴で行う治療です。
さらには、酸素、そして、興奮がなかなか治らずに、その興奮が状態を悪化させるような場合には、鎮静剤を使います。
これが、肺水腫の犬が緊急で動物病院に行った場合に行われる治療の概要です。
その他、細かな調整がいろいろとあります。一つは、利尿薬の使い方です。犬の体重に応じた量がある程度決まっていますが、症状に応じた量の調整も必要です。この量の調整は、実際に犬を目の前にして治療を行っている、それぞれの獣医師の判断によります。
そして、肺水腫の兆候を知る方法があります。
これは、呼吸数の増加です。呼吸数は、時間によって多くなったり、少なくなったりしますので、よく使われるのは、安静時の呼吸数です。安静時とは、基本的には眠っているときの呼吸数です。1分間に何回の呼吸をするかを記録しておくのも一つの方法です。記録は1日に1回くらいで良いと思いますが、このこともかかりつけの獣医師の指示に従ってください。
もし、呼吸数の数え方が不明な場合には、かかりつけの動物病院の獣医師に相談してみてくださいね。
そして、毎日記録している呼吸数がだんだんと増えてきた場合には、利尿薬を使うタイミングが迫っているということかも知れません。利尿薬は心原性肺水腫の治療には欠くことのできない薬ですが、肺水腫を起こしていない犬に予防的に使うことは推奨されていません。しかし、私の場合は、遅いか早いかとなりますと、始めるタイミングが遅いよりは、速い方がメリットが大きいと考えています。