【犬の肛門腺に起こる病気】破裂、炎症、腫瘍を獣医師が解説します。

犬の肛門腺、肛門嚢に起こる病気として、その結果として、最も多いのが肛門腺、肛門嚢が破裂することです。破裂と言われていますが、これは自潰(じかい)と呼ばれるもので、パーンと破裂したものではなく、炎症を起こした肛門腺周囲の皮膚が、弱くなって穴が開いた状態のことです。治療期間はおおよそ7日間から10日ほどです。結構大きく穴が開いても、治るのにはそれ以上の時間は必要ないことがほとんどです。稀に、10日間を超えて治療期間が必要なことがありますが、多くはありません。

犬の肛門腺に起こる病気には、肛門嚢嵌頓(かんとん)、肛門嚢炎、肛門嚢膿瘍、肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)があります。

この中で、最も多いのは、肛門嚢嵌頓です。これは、肛門嚢に肛門嚢分泌物が溜まった状態をいいます。その時の肛門嚢分泌液は、しばしばパテのような、粘土のような硬さがあり、通常の外部圧迫と呼ばれる方法では十分に分泌物を取り除くことは困難です。では、どのように肛門嚢分泌物を圧搾、絞り取るのかと言いますと、肛門に指を入れて内部圧迫という方法を行います。肛門から直腸に直接指を入れて、肛門嚢を絞ります。時に定期的に行う必要があります。

肛門嚢炎は、肛門嚢に痛みがあるために、肛門嚢分泌液を圧搾、絞り取るのは犬の痛みを考慮する必要があります。ときには、犬に鎮静をかけたり、全身麻酔を行うことがありますが、鎮痛剤を使うことで痛みをコントロールしてから圧搾することもあります。

肛門嚢膿瘍は、肛門嚢が化膿したもので、肛門嚢を切開して膿を出します。そこを洗浄して、抗生物質を使って治療します。繰り返すことも多い疾患ですので、完治を目指す治療として肛門嚢摘出を行うこともあります。

そして、犬の肛門嚢の病気では、肛門嚢嵌頓や肛門嚢炎がほとんどであるために、慎重に鑑別するべき疾患は、肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)です。

肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)の怖いところは、できるだけ早くに外科的治療、すなわち手術をするべきですが、初めは肛門嚢嵌頓や肛門嚢炎のように見えることです。獣医師もまた、肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)を診察する機会よりも、肛門嚢嵌頓や肛門嚢炎を診察することの方が圧倒的に多いために、肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)のことは常に考えながらも、初めての診察で常に肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)だと確定できる訳ではありません。

しかし、なかなか治らない肛門嚢炎も、肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)も、外科的に手術をして摘出することは、水晶としてありますので、早い段階で外科手術をすることは結果として有効です。

一つ問題があります。肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)は、悪性腫瘍ですので、できるだけ広く大きく取り除くことが良いのですが、つまりは取り残しなく取り除くことが良いのですが、肛門の周りには、広く取り除くための余裕はありません。腺癌が大きければ大きいほど、よくリンパ節への転移を含め、取り残しによる再発も見られます。

そのために、手術を行った後に抗がん剤を使った治療を行うことがありますが、これがどれくらいの効果があるのか、つまりは、抗がん剤を使った場合と使わなかった場合との比較についての情報はまだ多くはありません。印象としては、だんだんと抗がん剤の効果を伝えるデータが増えてくると考えていますので、副作用や費用的な問題が解決できるのであれば、肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)の手術後の抗がん治療は行った方が良いと思っています。

そして、肛門嚢腺癌(肛門嚢アポクリン腺癌)の犬の30%ほどに見られる症状としては、多飲多尿と呼ばれる、水をたくさん飲んで、トイレが近いというものがあります。これは、腫瘍によるホルモンに対する影響からで、腫瘍随伴性症候群と言い、血液中のカルシウム濃度が高くなっていることによります。