犬の元気がなくなったり、食欲にムラがあったり、吐き気、すぐに疲れてしまう、水をたくさん飲む、ときに黄疸が見られるなどの症状があって、動物病院での血液検査では、肝臓に何かしらの問題があると指摘されながら、そこから先に進まないことがあります。
先に進まないというのは、肝臓にどのような病気が起こっているかがわかっていないということです。肝臓に問題があることはわかる。しかし、その原因や病名が特定できないのには、理由があります。
肝臓の病気の中には、先に書いたように、食べムラがあったり、水を飲む量が増えたり、疲れやすくなったりという、他の病気でもよくみられる症状しかないこともありますし、血液検査でも肝臓に異常があることまでしかわからないことも多々あります。
ほとんどの場合、それは動物病院の獣医師の知識不足や経験不足ではありません。
さらに踏み込んだ検査がないと、確定できない病気があります。肝臓には、このような病気がいくつかありますが、その中の一つ、銅関連性慢性肝炎のお話をします。
踏み込んだ検査とは、病理組織検査です。開腹手術で肝臓を少しだけ取って、その肝臓を顕微鏡で観察するというものです。これを行うことで、肝臓の病気にはかなり迫ることができます。そして、この病理検査をしないことで、はっきりとした病名がわからずに、いろいろな病名については可能性までしか言えないことになります。
銅関連性慢性肝炎の確定診断には、必ず病理組織検査が必要で、さらに、特別に肝臓の細胞に銅が蓄積していることを証明しなければなりません。これには、肝臓組織にある銅に反応するローダニンとかロダニンなどと呼ばれる特別な薬品で銅を染め出す必要があります。
犬の銅関連性慢性肝炎の診断には、肝臓組織の病理組織学的検査が必要で、それを特別染色という方法を使って、銅が蓄積しているかを調べなければなりません。そうなると、肝臓の組織検査をしなければ、銅関連性慢性肝炎なのかどうかを肯定も否定もできないということです。
先にお伝えしておかなければならないのは、原因が特定されていない犬の肝臓の病気が全て銅関連性慢性肝炎ということではありません。そして、犬に銅関連性慢性肝炎がどれくらいの割合で起こっているかという研究結果は少なくとも私は見つけることができませんでしたので、多いのか少ないのかは不明です。しかし、診断のためにどのような検査が必要かを知れば、銅関連性慢性肝炎だとわかっていないだけで、実はある程度いるのかも知れないと思うこともあります。
病名まで特定できていない肝臓の病気をもつ犬を抱えながら、通院される方が多い中で、獣医師の中にも、銅関連性慢性肝炎について聞いたことはあるし病気の名前はよく知っている、けれども診断はしたことがないよ、という方も少なくないと推察します。
これはなぜでしょか?
このなぜ肝臓に病気があることまでしかわからずに、その病名を知る、すなわち確定診断に至らないかを掘り下げる前に、銅関連性慢性肝炎について書いてみます。
かなり簡単にご説明すると、そもそも体の中でとても大切な役割を果たす銅は、食べ物から得られます。そして、必要な銅は体中に運ばれ、余った銅は肝臓を経由して胆嚢から腸へと排出されます。その、銅の排出過程に障害があると、排出されない銅は肝臓に留まり、銅が肝臓に残ることで、肝臓に有害な物質が増えることになります。それが慢性的な炎症の原因になります。
・銅は食べ物から得られる。
・銅は体に取って重要な役割を果たす。
・使われずに余った銅は本来は肝臓から胆汁とともに排出される。
・排出がうまくできないと、銅が肝臓に残り、肝臓に有害な物質が増える原因になる。
そして慢性的な肝炎が起こる。
つまりは、余った銅の排出がうまくできないことで起こる病気です。このようなことが起こる原因は、はっきりとはわかっていません。犬の中には、遺伝子の異常で起こることがわかっている犬種もあります。しかし、それ以外の犬種では、遺伝子の異常が原因かどうかわかっていないことも多く、銅の蓄積が慢性肝炎の原因なのか、慢性肝炎の結果として銅が蓄積したのかも明らかにされていません。
治療は、肝臓に溜まった銅を排出することです。また、銅の体内への取り込みを少なくするために、銅が少ない食事を与えることも必要になります。
話を少し戻します。なぜ、この病気の診断が難しいか。それは、銅関連性慢性肝炎の診断には、肝臓の生検が必要だからです。生検とは、肝臓そのものを顕微鏡で検査をするということです。そのためには手術が必要なことがあります。
肝臓が悪いと獣医さんに言われ、ではなぜ悪いのかを質問すると、いろいろな肝臓の病気の可能性の話にはなるけれども、これだ!というような確定診断は言及されない、そんなこともあると思います。そこには、原因や確定診断を求める場合には、検査を目的とした手術をしなければならないという壁があります。そこまでするかどうかが難しいところです。私は、ある程度楽観視できる場合でも、原因を知りたいというご家族に対して、肝臓の生検の話をすることがあります。しかし、実際に依頼を受けることは少ないことです。
しかし、肝臓の生検無くして、診断はできません。
肝臓の生検には、3つのやり方があります。
一つ目は、針吸引です。皮膚から肝臓に針を刺して、針吸引というやり方で細胞を取る方法。
二つ目は、開腹手術をして、肝臓の組織を一部切り取る方法です。
三つ目は、腹腔鏡を使って、肝臓の一部を切り取る方法です。
この中で、もっとも効果的な検査方法は、2つ目に記しました、開腹手術での生検方法です。
そして、この方法は、3つの検査方法の中では、最も犬の負担が大きなものかも知れません。
一つ目の針生検では、わかる病気が限られます。細かな肝臓の血管に起こる異常を針生検で確定診断することは困難でしょう。それにも関わらず、この検査が他よりは受け入れられやすいのは、犬の負担がもっとも少ないからです。負担は少ないが、わかることが限られ、検査を行なったけれども、有益な情報が得られなかったという結果が想像できます。
針生検は、肝臓にできた限られた種類の腫瘍を特定するとか、針生検でほぼ確実に診断ができるという場合には行うべきだと考えます。しかし、そうではない場合、もしかしたら何かわかるかも知れないとか、何の病気かよくわからないから針生検をするという場合には、必要な診断結果が得られないことも多いと思います。
そして、腹腔鏡による生検は、犬の負担は針生検よりはありますが、開腹手術ほどではありません。腹腔鏡で取れる組織の量が少ないために、やはりこれで確定診断ができる病気は限られているかも知れません。そして、何より、腹腔鏡の設備がある動物病院はかなり限られています。
そのような理由から、昔ながらといえばそうなのですが、やはり開腹手術での生検がもっとも効果的です。
もし、血液検査やその他の検査で、犬に肝臓ぼ病気があることまではわかっているけど、それが何の病気かわからないことがあるかも知れません。そして、治療のために、その病名を知る必要がある場合には、かかりつけの動物病院の獣医師に相談してみてくださいね。きっと良い方法を提案していただけると思います。