【犬と猫の口の中にできる腫瘍】口腔内悪性腫瘍を獣医師が解説します。

犬の口の中にできる悪性腫瘍で最も多いのは、黒色腫扁平上皮癌線維肉腫で、猫では、扁平上皮癌線維肉腫です。犬や猫の口の中には、悪性ではない良性腫瘍もできますが、今回のテーマは悪性腫瘍です。

治るのか、治らないのか。これは、腫瘍が何であるかと、どこにできたかにもよりますが、大前提は、大胆な外科手術が必要と言うことです。悪性腫瘍に対しての治療は、外科手術が最も成績が良いのですが、それでも家族とどうぶつが一緒にいられる時間には限界があり、長くはないのだという研究結果があります。

犬の下顎にできた悪性腫瘍を外科手術で下顎の骨ごと取り除いた研究結果では、その手術後の中央生存期間が報告されています。犬が手術後にどれくらいの期間生存したのかを表すものです。下顎を顎の関節から前の方に3等分し、どこにできた腫瘍を下顎の骨ごと取り除いたかのというデータです。一番先端に近いところですと、中央生存期間は60月、中央ですと10か月、顎の関節に近いところですと20か月というものです。ちなみに、猫の場合ですと、扁平上皮癌に限った研究ではありますが、下顎切除後の中央生存期間は、3か月から6か月です。猫の方が成績が悪いのがわかります。

顎を骨ごと取り除くというのは、一般には、なかなか馴染みのない話ですが、犬は下顎の動くところを半分以上切除しても、食べたり飲んだりということができます。しかし、猫はなかなか難しいのが現状です。猫は犬よりもグルーミングをしますが、これができなくなりますし、口臭も目立ってきます。

ちなみに、扁平上皮癌の犬と猫を比較した場合、犬の場合は、腫瘍を下顎をごと取り除いた場合の1年生存率は80%なのに対して、同じことをした猫の場合は25%です。扁平上皮癌以外の癌を下顎切除で取り除いた場合はどうでしょうか。線維肉腫の下顎切除後の1年生存率は50%、悪性黒色腫は20%という研究結果があります。

口の中の腫瘍は、犬でも猫でも、発見されやすい悪性腫瘍です。猫の口の中の悪性腫瘍は、猫にできる腫瘍全体のおおよそ10%を占め、犬では、腫瘍全体の中の4番目に多いのが口腔内腫瘍とされています。

どのようにして見つかるかと言いますと、次のようなものです。

ヨダレ、口臭、飲み込み辛そうにする、だんだんと体重が減る、食事を上手に食べられなくなる、リンパ節が腫れる、噛んで遊ぶおもちゃに興味を示さなくなる、水を入れた食器に血液が混ざることがある、ヨダレに血液が混ざる、犬や猫のベッドに血液が付いている、顔が腫れてくる、顔が左右で不対象になる、くしゃみが増える、鼻水が増える、口の中に違和感があるように掻く。

そして、しっかりと診断をするためには、見た目だけでは不十分です。病理組織学的検査を行います。悪性腫瘍か、どうか、そして、悪性腫瘍であれば、何という腫瘍かを調べます。

病理組織学的検査は、鎮静か全身麻酔を行う必要があります。私は、安全が約束できる場合に限っては、鎮静や全身麻酔を行う可能性をお話しした上で、無麻酔で生検材料を犬の口の中から取ることがありますが、かなり限られたどうぶつにだけしかできません。多くの場合、病理組織学的検査を行うには、鎮静、または全身麻酔が必要です。そして、特に口の奥の方であれば、基本的には全身麻酔が必要です。

口の中に起こる悪性腫瘍が、発見されたときに、すでに転移をしていることは少ないく、おおよそ15%未満とされています。しかし、病理組織学的検査のために全身麻酔を行う場合には、胸のX線検査は欠かせません。その他に、血液検査や尿検査などを行ってから全身麻酔をかけて検査材料を取ります。ときには、口腔処置として、歯周病治療のために全身麻酔をかけて歯石の除去や歯周のケアなどの治療を行っているときに、偶発的に見つかることもありますし、反対に、ヨダレや口臭を少しで軽減できないかということで、口の中の腫瘍の病理組織学的検査を行うと同時に、歯周病治療を行うこともあります。このときは、当然ながら全身麻酔で行います。

ちょっと余談ですが、悪性腫瘍と思われるデキモノがあるところに、抜けそうな歯があったらどうするか。ちょっとこれは慎重にするべきです。腫瘍と抜歯には関係がないとする報告もありますし、腫瘍の中の歯を抜くと、悪性腫瘍が大きくなりやすいという意見もあります。私の考えとしては、悪性腫瘍は抜歯をしなくても、外科手術で取り除かない限りは確実に大きくなるのですから、抜歯をするべきではない他の状況がなければ、抜いても良いのではないかと思っています。動揺している歯は、感染の原因にもなりますし、何より犬や猫は不快ではないでしょうか。

元の話題に戻ります。

病理組織学的検査を行う場合に、全身麻酔を施すならば、必ず口腔内X線検査を行います。多くの悪性腫瘍は、顎の骨を溶かしているからです。顎の骨を溶かしているのは、顎にできる悪性腫瘍の70%程度です。

治療方法

先に述べた外科手術で完全に取り切ることができれば、それ以上の方法はありません。外科手術ができる場合には、選択すべきだと考えています。しかし、外科手術を行ったにも関わらず、完全切除ができなかった場合や、小さな腫瘍の場合には、放射線療法も選択されます。それでも、口の中にできる悪性腫瘍に対する放射線療法はよい成績は期待できません。

また、外科手術、放射線療法とならで、化学療法が悪性腫瘍の治療では選択されますが、口の中の悪性腫瘍で少なからず効果があったという報告はあるものの、完治することは極めて難しく、まず外科手術も放射線療法も行わない、化学療法単独では、犬も猫も、その口の中の癌を治療することは期待することができません。