犬の目の傷が治らないことはありませんか?通常は数日から1週間もあれば治るはずですが、長引いてなかなか治らない傷もあります。
犬の目には、小さな傷が日常的にできます。そのほとんどが無症状です。
目の表面には、角膜上皮という細胞の層があります。この角膜上皮が傷つくことで剥がれてしまいます。その下には、角膜神経があり、角膜上皮が剥がれると、角膜神経が露出します。これが露出すると痛いために、犬は目をショボショボするようになります。
目の表面に傷がつくと、これが治ろうとする働き、すなわち上皮化がはじまります。この上皮化が始まるのは、通常は傷がついてから10分くらいです。これは上皮化が始まるのであって、上皮化が終わるまでの時間ではありません。
常に傷がつき、それが上皮化されて治るということを繰り返しているのですが、上皮化が起こらないので、傷がついていることに気づくことになります。ですから、傷がついているというよりは、むしろ、傷が治っていないとか、傷の治りが遅いというのが正しい見方です。
この中に、本当に治らないものがあります。それが難治性角膜潰瘍です。
前にご紹介したように、目の一番表面は角膜上皮細胞です。その下には角膜実質があります。そして、角膜上皮と角膜実質の間に角膜神経があります。ちょっと例えてみますと、ハムをパンで挟んだだけのハムサンドをイメージしてください。表面のパンが角膜上皮細胞、もう一つのパンが角膜実質、そしてハムが角膜神経です。
その角膜上皮細胞が一部剥がれるのが角膜潰瘍で、それは自然にも、治療に反応しても、治るのが普通です。これを上皮化するといいますが、そのためには、角膜上皮細胞や角膜実質に接着しなければなりません。
その接着がうまくいかない、いわゆる接着異常で起こるのが難治性角膜潰瘍です。これは大変に痛いもので、何年も繰り返すこともあります。
中年から高年齢の犬に多く、角膜上皮が欠損して、角膜実質に接着できない状態を繰り返します。そして、この難治性角膜潰瘍を起こしやすい犬がいます。それは、芝犬や芝犬の雑種、プードル、コーギーなどです。
いくつかの治療を組み合わせることで、ほぼ100%治ります。しかし、問題は、一般的な角膜潰瘍と難治性角膜潰瘍の鑑別をしっかりとすることです。この区別をしないと、難治性角膜潰瘍の治療を始めることができません。
犬の目の傷がなかなか治らない場合には、難治性角膜潰瘍すなわち、角膜上皮と角膜実質の接着異常があるのかも知れません。その場合には、外科的な処置が必要です。