去勢手術を行なっていないオス犬の多くみられます。多くみられるとされていますが、私がこれまで診察をしたことがある会陰ヘルニアの犬は、去勢手術を行なっていなオスだけです。
会陰ヘルニアの犬のご家族から聞く、最初のお話は、排便しようとするが、なかなか出ないようだということです。他には、小さな便を頻回にするとか、便が細くなったということが多い印象です。
会陰ヘルニアの鑑別診断。鑑別診断とは、会陰ヘルニアに似た病気があり、会陰ヘルニアと断定するために、否定する必要がある病気のリストです。
ここで、会陰ヘルニアは、どこに起こるかと言いますと、お尻の横です。つまりは、肛門の左右どちらか、あるいは片方です。なぜ起こるかと言いますと、肛門の横にあるお尻の筋肉群が薄くなったり、萎縮したりして、裂けるように離れてしまい、そこに隙間のような穴が開きます。そん穴からお腹の中の内容物が飛び出した状態です。飛び出しても、そこには皮膚がありますので、お尻、肛門横の膨らみとして症状を呈することになります。
そのようなことですので、会陰ヘルニアの鑑別診断は、肛門の横に起こる病気です。
腫瘍、漿液腫、血腫、膿瘍、肛門周囲瘻、肛門嚢腫瘍が、見た目に会陰ヘルニアの鑑別診断になります。
しかし、ご家族から伺う最初のお話から推測する病気は、上の鑑別診断リストとは異なる場合があります。
排便しようとするが、なかな出ないと言われますと、獣医師がまず会陰ヘルニアを疑うかと言いますと、必ずしもそうではありません。例えば、椎間板ヘルニアがある犬ですと、背中の痛みから、スムーズは排便ができないことがありますし、便秘でも同様のことがあるでしょう。そして、台帳に腫瘍がある場合でも、同じような症状が見られることがあります。その他に、前立腺が大きくなっていても、排便困難が見られます。
肛門の横が大きくなっていることに気づけば、まず診断を間違うことはないのですが、ご家族の話からは、すぐにそこに注目できるかと言いますと、必ずしもそうではありません。
また、小さな便を頻回にすると言われますと、当然にそのような症状があるのですが、すぐに会陰ヘルニアを診断リストに入れることができるかと言いますと、難しい場合もあるでしょう。
会陰ヘルニアの症状
会陰部(肛門横や下)の腫れ、便秘、しぶり、血便、排尿困難、便失禁、尿失禁、下痢、腫れているところの皮膚が潰瘍を起こしていることもあります。元気がなくなります。
会陰ヘルニアでは、肛門の横が左右両方かどちらか片方腫れますが、その腫れたところに入っているのは、お腹の中の組織です。会陰ヘルニアの中身をヘルニア内容物と呼びますが、この内容物は、次のようなものがあります。
後腹膜の脂肪、結合組織、漿液などの液体、前立腺、直腸、膀胱、結腸、空腸、前立腺嚢胞などです。
私が診察するときには、ほとんどが直腸です。つまりは、曲がりくねった大腸に硬めの便が詰まっていて、それが触れることがよくあります。
この肛門横の膨らみ気づけば、診断までは時間がかかりません。X線検査(レントゲン)が最も良い検査方法です。あとは、直腸検査と言いまして、獣医師が指を犬の肛門から入れて、直腸を検査することで、会陰ヘルニアに状態を詳細に把握することができます。
会陰ヘルニアの犬はどのような様子?
脱水、敗血症、尿毒症(ヘルニア内容に膀胱がある場合)
治療には基本的に手術しかありません。基本的には、と言うのは、排便ができれば問題がないと言うことがあり、そのような場合には、便軟化剤や療法食を犬に与えることで、その場を凌ぐことができます。私はあまり、そのような保存的なことはしませんが、軽度であれば行なっても良いと思います。しかし、いずれは手術が必要になるでしょう。
どのような手術かと言いますと、肛門脇にある会陰ヘルニア部分を何かしらの方法で閉じなければなりません。一つは、会陰ヘルニアを起こしている両隣の筋肉を縫い合わせて、会陰ヘルニアで開いていた穴を塞ぐと言うものですが、これは多くの場合に失敗に終わります。一応、手術方法を書いた専門書に書かれている方法ですが、これで成功することがあるのか疑問です。
次には、私が好んで用いている方法ですが、仙結節靭帯という硬い組織を使って、この穴を塞ぐ方法です。ちょっと細かなことを書きますと、外肛門括約筋と言う肛門周りにある筋肉と仙結節靭帯を使って、開いてしまった穴を塞ぎます。多くの獣医師がこの方法を使って手術を成功させていますし、再発はほとんど見られません。
次には、シート状の人口素材を使って、この穴を塞ぐ方法です。もしかすると、最も簡単で、それなりに効果が見られる方法です。しかし、人口素材を使いますと、ときに感染を起こすことがありそうなりますと、この人口素材を取り除かなければならず、また難しい手術が必要になることがあります。
手術自体の成功率は、30%という報告から、45%は再発すると言う報告までありますが、仙結節靭帯と外肛門括約筋を使うことで、かなり高い成功率が望めます。
そして、手術の後で、また問題になるのは、再発率だけではありません。せっかく手術がうまくいきましても、直腸に憩室と言いまして、小さなポケットができていることがあり、これができてしまっていますと、手術が成功していても、排便困難が残ることがあります。当然ですが、手術をしないよりは、ずっと良い状態にはなりますが、完治したと言う実感がやや弱い結果になることもあります。
そして、手術自体が問題で再発した場合には、再度手術を行う必要があります。また、会陰ヘルニアの膨らみに膀胱が落ち込んでいると、犬の容態が急に悪くなることがありますので、できるだけ早い手術が必要になることがありますが、それでも緊急性は低いでしょう。
この会陰ヘルニアを見るたびに、去勢手術をしておけばならなかったのだろうと思います。絶対はありませんが、ほぼ間違いのない見方です。後ろを向いてばかりはいられませんから、前を向いて行きましょう。