【犬の巨大食道症】食道が大きくなる病気。獣医師が解説します。

そこまで巨大ではありませんが、

大きいには違いありませんが、巨大と呼ぶほどではないと思います。それでも病名ですから、巨大食道症と呼びます。

巨大食道症とは、食道の動きが悪くなり、食道が大きく広がってしまった状態を言います。本来は、食道は細い管です。まるでヘビが獲物を飲み込んだ時のように、食べ物が口から胃に流れていくときに、食べ物の大きさの分だけわずかに広がります。巨大食道症では、食道内には何もない状態でも、食道は広がったままです。それは、まるでアートバルーンのようです。あの、色々と加工して細工ができる細長い風船です。そこに食べ物が入ってきても、ほぼその場で止まるだけで、胃に食べ物を送り込むことができません。

では、どうするか?

これは、巨大食道症の治療というか、対処方法です。犬が食事をしたら、食後15分から30分ほど犬を縦に保持するようにします。つまりは、通常は食べ物の流れは食道の運送性に任せるわけですが、それを期待することができないために、犬を縦にして重力で胃に送るというものです。

これを治療と呼んで良いのかは、何とも言えませんが、動物病院で提案する対応方法としては、一般的です。もし獣医師が犬の巨大食道症と診断をしたならば、飼い主さんには必ず犬に食べ物を与えたら、食後15分から30分間は縦にしておいてくださいね、とお話するはずです。

縦にしておく以外の方法

縦にしておくと言っても、毎食15分から30分間も犬を抱っこしておくことは困難です。犬が嫌がる事も多いですし、ご家族の方もかなりの時間を必要とします。私が知る方法は、円筒形のものに犬を入れておくという方法です。例えば、円筒形のゴミ箱のような物の中に、犬を縦に入れておくことができれば、必要時間中ずっと抱っこをしておく必要はありません。もし途中に犬が筒ごと倒れてしまっても、あまり危険はないでしょう。

そして、縦にしておく以外の方法としては、胃瘻チューブというものがあります。これは、食べ物を食道を経ずに、直接胃に送り込むチューブを設置する方法です。

胃瘻チューブの詳細は、また別記事にしますが、今回は概要を書きますね。よくお腹いっぱいになったときなどに、手でお腹(胃のあたり)を触ることがあるでしょう。まさに、その辺りから胃に直接柔らかい管(ストローのようなチューブ)を設置します。すると、ここから直接胃に食べ物を入れることができるようになるために、食道を必要としないのです。

胃瘻の設置には、短時間ではありますが麻酔や鎮静が必要になりますし、永久的なものではないので、時々交換するなどの処置が必要です。

巨大食道症の分類

巨大食道症には、大きく分けて2つの分類があります。一つは、先天性巨大食道症、次に、後天性二次性巨大食道症、そして、後天性特発性巨大食道症です。

先天性巨大食道症

先天性巨大食道症の原因はまだ明らかにされていませんが、求心性迷走神経の異状によるという報告があります。巨大食道症を発生することが多いとされる犬種が報告されていますが、報告されている犬種のほとんどが体重30kg以上の大型犬です。

後天性二次性巨大食道症

後天性二次性巨大食道症は、下のような疾患の二次的な症状として起こるとされています。

重症筋無力症、食道炎、裂孔ヘルニア、多発性筋炎、全身性エリテマトーデス、犬ジステンパー、鉛中毒、アジソン病、胃拡張捻転症候群、食道狭窄、自律神経失調症、筋ジストロフィー、蓄積病、延髄疾患、胸腺腫、甲状腺機能低下症

後天性特発性巨大食道症

後天性という言葉は、原因不明という言葉とほぼ同等です。上の表のような基礎疾患が見られずに、高齢犬に多く見られます(比較的若い犬では、7-8歳以上から見られます)。これらは原因不明ながらも、神経異常によって、食道が弛緩してしまっているものと考えられています。

巨大食道症の最大の注意点

なかなか注意もできないのですが、巨大食道症の最大の注意点は、誤嚥性肺炎です。巨大食道症の犬は、誤嚥性肺炎や突然死が多く、これは、食道内にとどまっている食べ物を吐出して、それが誤って気道に入ることで起こります。それが最終的な死因になることが多いのですが、注意するにも限界があると思います。

巨大食道症の診断方法

巨大食道症の診断は、胸部単純X線検査を行って、食道全体が拡張していることを認めたら、次にバリウム造影で食道内に止まる食べ物を確認することで行います。

しかし、やや診断に時間がかかることがあります。巨大食道症の犬の飼い主さんのお話ですと、主な症状は嘔吐です。犬が吐き戻しをするということで来院されます。そして、私たち獣医師は、嘔吐=消化器疾患と考え、消化器=腹腔内臓器ということで、腹部単純X線検査を中心に検査を行ったり、腹部超音波検査を行ったりします。

つまりは、胸部単純X線検査を行うのが後になることが考えられるわけです。そして、胸部単純X線検査を行っても、バリウム造影を行っていない場合には、巨大食道症も分かり難いことがあります。

もし巨大食道症に気づかれない場合には、対症療法として、いわゆる吐き気どめなどを処方される事もあり、当然ながら、食道にとどまっている食べ物に対して、通常は胃に働く吐き気どめは効果が見られませんので、薬を使っても吐き気が止まらないという事も起こり得ます。しかも、よく使われる吐き気どめであるメトクロプラミドやモサプリドは、食道から胃に入り込むところにある筋肉を収縮させることがあります。

つまりは、食道の内容物を胃に送らなければならないのに、その胃に入り口を薬によってさらに狭くすることがあるということです。通常は、これによって吐き気どめにもなるわけですが、巨大食道症では、これが悪く働くことにもなります。

巨大食道症のその後

巨大食道症の犬の多くは、治ることが見込めず、誤嚥性肺炎や突然死を起こすことが多いものです。しかし、上の表に記したような基礎疾患が原因であれば、それらを管理することで、食道の動きが再開される事も期待できます。

また、国内では少ないとされる、重症筋無力症による巨大食道症であれば、適切な治療により治ることもあります。