犬の甲状腺機能低下症
甲状腺は、犬の喉のあたりに左右対になってあります。ここから甲状腺ホルモンが出ますが、この甲状腺ホルモンが少なくなる、あるいは欠乏する病気です。犬の場合には、高齢になると自然に発症します。もちろん全てに犬が高齢になると甲状腺機能低下症になるわけではありません。
甲状腺機能低下症には、一次性、二次性、三次性とあります。これは、どのように違うかと言いますと、甲状腺そのものに異常があるのが一次性で、下垂体や視床下部など、甲状腺には異常がないけれども、他の異常が原因で甲状腺ホルモンが欠乏するのが、二次性、あるいは三次性です。
犬の場合には、圧倒的に一次性が多く、ほとんどがこれだと言っていいと思います。
一次性甲状腺機能低下症には、リンパ球性甲状腺炎と特発性甲状腺萎縮があります。
甲状腺機能低下症の症状(多くの犬にみられる症状)
内分泌性脱毛について
これは、体の左右対称性にみられる脱毛です。左右に同じような脱毛がみられるのが特徴です。そして、その脱毛部分は、色素沈着がみられることがあります。この色素沈着とは、メラニン色素で、黒っぽい皮膚になります。
再発性膿皮症について
甲状腺機能低下症の犬では、膿皮症を繰り返したり、なかなか治りにくかったりします。犬の皮膚疾患で最も多いとされる膿皮症ですので、これが繰り返しみられても特段稀なことではありません。しかし、ある程度の再発では、甲状腺機能低下症を疑うべきだと思います。そして、甲状腺機能低下症の犬で起こっていた膿皮症は、甲状腺機能低下症の治療をすることで改善することがほとんどで、膿皮症の治療(抗生物質の投薬)を必要としないことが多いものです。
活動性の低下について
活動性の低下は、ほとんどの甲状腺機能低下症の犬にみられます。そして甲状腺ホルモンの欠乏は緩やかに起こることが多いために、飼い主さんは、犬が年を取っからだろうと考えることが多いものです。私は、甲状腺機能低下症を診断して治療に入ると、「元気になりますよ。」と伝えるのですが、多くの飼い主さんは、「いえいえ、今でも十分に元気ですよ。」と応えられます。そして、当然のごとく、治療が進むにつれて、「もともと元気はあったと思っていましたが、治療していくうちに、もっと元気になりました。」というのがだいたいのお決まりです。
甲状腺機能低下症、その他の症状(稀にみられる症状)
甲状腺機能低下症の診断
甲状腺機能低下症は、血液検査で診断ができます。まずは、動物病院内での血液検査での異常としては、総コレステロール濃度の上昇、トリグリセリドの上昇があります。トリグリセリドは、中性脂肪で、これが高いと高脂血症で血清が白濁します。これらの異常とともに、甲状腺機能検査として、血中の総サイロキシン(T4)濃度、遊離サイロキシン(fT4)濃度、甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度を測定します。
犬では、fT4が甲状腺以外の影響を受けることなく測れるので、T4よりもfT4の方が信頼度が高いとされます。
また、甲状腺機能低下症の犬では、甲状腺が萎縮していることがあるので、超音波検査で異常が見られます。
甲状腺機能低下症ではないのに甲状腺ホルモン濃度が低くなることがあります。
- 薬物によるもの:プレドニゾロン、フェノバルビタール、非ステロイド性消炎鎮痛薬、サルファ剤、フロセミド
- 全身麻酔
- 外科手術
甲状腺機能低下症の治療
レボチロキシンナトリウムという薬を飲ませます。1日に1回から2回で動物用は液体です。 しかし液体の動物用の薬は、いろいろと使いづらいところがありますので、ヒト用の錠剤が使われることも多いと思います。そして、ちょっと注意が必要なのは、海外からの輸入薬を使うことでしょうか。
犬にレボチロキシンンナトリウムを使うときには、錠剤の場合には、体重1kgあたり20マイクログラムという量が必要です。国内にあるヒト用の錠剤は、1錠あたり50マイクログラムのものと100マイクログラムのものがあります。つまりは、体重10kgの犬であれば、1回200マイクログラムが1日2回必要で、錠剤であれば2錠を1日2回を生涯に渡って飲ませることになります。これを海外薬ですと、1錠で済んだり、もっと小さくできることがあります。1錠に含まれる成分が多いからです。
ここで、ちょっと注意というのは、海外薬は動物の保険対象外です。動物の保険を使って、甲状腺機能低下症の治療をする場合には、海外薬を使うことはできません。対象外だからです。ですから、基本は国内の動物用薬かヒト用を使うべきです。体が大きければ大きい犬ほど動物用の液体が使いやすくなります。
どれくらいの日数で症状の改善があるの?
活動性の低下が改善するのは治療開始から2-3週間くらいです。1週間くらいという報告もあります。高脂血症は数週間、皮膚症状や前庭障害が改善するのは、数か月かかることがあります。
甲状腺機能低下症は、定期的な血液検査と生涯にわたる投薬が必要ですが、基本的にはそれだけで良い予後が期待できます。そして、真の甲状腺機能低下症でなかった場合には、治療を中止することができることもあります。治療を中止できた場合には、もともと甲状腺機能低下症ではなかったという結論になります。