犬糸状虫症(フィラリア症)
春になると、犬を飼っているご家庭に動物病院からフィラリア症予防の時期ですよ、という案内が届くかも知れません。この病気のことをよくご存知の方は少ないかも知れませんね。
病気の原因は何ですか?→心臓に寄生する寄生虫による病気です。寄生虫の形は、少し短めの素麺のようなものです。心臓、肺の循環器、呼吸器の病気です。
どのような症状がみられますか?→咳が出たり、以前と比べてあまり運動をしなくなったり、動かない時間が増えたり、腹水が溜まったりします。ときに、ゼイゼイと舌が紫色になる犬もいます。深刻な状態では、尿が赤くなることもあります(血色素尿)。
命に関わる病気ですか?→関わります。しかし、体内にフィラリア(犬糸状虫)がいても、はじめのうちは無症状です。
治療はできるますか?→できますが、寄生することろが心臓ですので、簡単ではありませんし、命の危険、健康を害することもあります。
治療は薬でできますか?→犬の心臓に寄生しているフィラリア(犬糸状虫)の数が少ないと薬を使うことが一般的です。しかし、寄生数が多いと、外科的に治療をすることがあります。
予防はでますか?→犬のフィラリア症、正しくは犬糸状虫症は、予防薬を正しく使うと100%予防できる病気です。月に1回、シーズン中毎月お薬を与えたり、1年に一度だけ注射をしたりして予防できます。
その予防が、動物病院から届く案内の目的です。
病気の概要
犬のフィラリア症(犬糸状虫症)にかかった犬の体内には、フィラリア(犬糸状虫)がいます。ミクロフィラリアという小虫や、成虫がいますが、ミクロフィラリアは血流に乗って体内を循環しています。成虫は心臓の右心室と呼ばれる領域や、肺動脈に寄生します。このフィラリア(犬糸状虫)が寄生している犬を刺した蚊が犬糸状虫のミクロフィラリアを運びます。
このミクロフィラリアを運ぶ蚊に犬が刺されると、結果、ミクロフィラリアが犬の体内に入り込みます。皮下組織、筋肉や脂肪などで2-3か月かけて発育を続けます。
その後、心臓の右心室から肺動脈に寄生します。感染後6-7か月で成熟して、ミクロフィラリアを産み始めます。
血液検査で、ミクロフィラリアを調べることがありますが、感染後6-7か月以内では、ミクロフィラリアは検出できません。ときに、飼い主さんが、先月分のフィラリア(犬糸状虫)症の予防薬を飲ませるのを忘れてしまって、フィラリア(犬糸状虫)が体にいないか調べて欲しいと言われることがありますが、その段階では、どのような検査を行ってもフィラリア(犬糸状虫)は検出できません。
診断
多くが、元気な犬の予防目的で検査を行うことが多いはずですが、ときに病的な犬がフィラリア(犬糸状虫)症ではないかと疑って検査をすることがあります。
その場合には、抗原検査、ミクロフィラリアの検出、心臓超音波検査(心エコー)を行うことが一般的です。
抗原検査
フィラリア(犬糸状虫)の成虫が1隻でも寄生していると陽性と判定できるキットがありますので、それを使って検査を行います。
ミクロフィラリアの検出
血液検査ですが、できるだけある程度決まった時間に検査をすることが推奨されます。そして、フラリア(犬糸状虫)が心臓に寄生していても、ミクロフィラリアが検出できないことがあります。それは、まずミクロフィラリアの数が少なすぎて、血液検査でとらえることができない場合です。次には、寄生しているフィラリア(犬糸状虫)が、オスだけしかいない場合、あるいは、メスだけしかいない場合には当然ながらミクロフィラリアは産まれませんので、検出できません。あとは、オスもメスもいますが、どちらもまだ幼若なフィラリア(犬糸状虫)で、ミクロフィラリアが産まれる前という場合、そして、普通のオスとメスのフィラリア(犬糸状虫)がいるにも関わらず、ミクロフィラリアが何かしらの原因で存在しない場合です。
これらのように、フィラリア(犬糸状虫)がいるのに、ミクロフィラリアが検出できないようなものをオカルト感染と呼んでいます。
ミクロフィラリアの定期出現性
ミクロフィラリアを最も効率よく見つけるためには、末梢血(普通に採血をする血液)の中に多く出現する午後2時から3時に検査をするといいとされています。これ以外の時間でも、検出はされますが、この時間が最も検出されやすくなります。
心臓超音波検査
心臓をエコーで検査して、フィラリア(犬糸状虫)を見つけるわけですが、画像検査ですので、感度は高くはありません。
治療方法
治療には、いくつかの方法があります。
・外科的に、直接心臓から寄生虫を取り除く方法。
・予防だけを続けて、今いるフィラリア(犬糸状虫)は、寄生虫の寿命で死滅するまで待つ。
・ドキシサイクリンとイベルメクチンを使う方法。
米国犬糸状虫学会というものがあり、ここが推奨する治療方法があります。
イミトサイドという注射を3回行う方法です。
これはおおよそ3か月以上の時間をかけて行う治療方法です。
そして、この肺高血圧が重度であれば、それだけ犬には危険です。
そのようなことが一気に起こるよりは、少しずつ起こる方が犬の体には優しいので、3回に分けてゆっくりと行う方法がとられます。
このような治療を行うよりは、月に1度のお薬をシーズン中与えたり、1年に一度だけの注射をしたりして予防するのがどれだけ良いかは、議論のないところではないでしょうか。
あとは、確率論でしょうか。
病気になるか、ならないか。