獣医師は、炎症性腸疾患のことをIBDと言っています。まあ、そのままです。一つの病気の名前というよりは、いくつかの病気の総称というようなものです。inflammatory bowel diseaseのことで、inflammatory: 炎症、bowel: 腸、desease: 疾患です。余談ですが、小腸をsmall bowelとか、大腸をlaege bowelなどと言っています。
この病気の症状は、長く続き軟便、下痢です。そして、食欲不振、嘔吐、体重減少です。
そして、この病気のはっきりとした原因はわかっていません。しかし、全然わかっていない訳ではありません。遺伝的な素因があり、食物環境、腸内の細菌、腸の中の粘液や細胞の異常、そして免疫システムの異常がありというところまでわかっています。そして2歳ごろや6歳くらいでの発症が多く報告されています。
そして、どのように診断をするのかと言いますと、この検査でこうなったら炎症性腸疾患(IBD)だというような検査はなく、次のようにして行います。
・慢性の下痢または嘔吐または食欲不振そして体重減少のうち、どれか一つまたは複数の症状が見られる
・腸の細胞を検査して、炎症が起こっていることが認められる
・慢性腸炎という別の病気ではないことがわかっている
・食事療法、対症療法、抗生物質では症状の改善が鈍い
・消炎剤や免疫抑制療法によって症状の改善が認められる
このようなことで、炎症性腸疾患(IBD)と診断できます。
つまり、他の病気ではないことを調べ、最後に消炎剤や免疫抑制療法でよくなったら、炎症性腸疾患(IBD)と言えますよという訳です。
そして、この病気の難しいところは、下痢も嘔吐も、食欲不振も体重減少も、他の色々な病気でも普通に見られますし、動物病院であれば、どこの動物病院でも毎日上の消化器疾患の動物を診察しているということです。
その中で、炎症性腸疾患(IBD)のどうぶつはかなり稀だと思います。
はじめに、この病気を診断することは難しく、色々と試す中で確定できるようになります。
すなわち、症状が出た初日にこの病気だと診断することは難しい訳です。
なぜか?それは簡単です。下、例です。
飼い主さん「うちの犬が下痢をしました。最近、何だか軟便だなって思ってはいたのですが(つまりは、今日だけのことではないということ)」
獣医師「では、まず検便をして、血液検査をして、全身麻酔で腸の細胞を取って病理検査をして、食事療法をするので、動物病院で渡すドッグフードを食べさせて、一般的な対症療法や抗生物質を試して、さらには免疫療法もやってみましょう」
どうでしょうか、非現実的ですよね。
さらに言いますと、ある動物病院でやや長めに下痢の治療を受けていて、いくつかの薬も試し、食事療法も試し、それでも良くならないので、他の動物病院に行った場合はどうでしょうか。そこまでわかっているのであれば、続きをやれば良いので簡単ですよね。はじめの動物病院の先生よりは。
これが、後医は名医と呼ばれる所以です。
つまり、後から診察をする医師、獣医師の方が簡単に診断に近づけるということです。その理由は、やっても効果がなかったことをあらかじめわかってから、その先の治療をすれば良いからです。だから、かかりつけの先生に治せなかった病気を後から行った動物病院の先生が早い段階で治療してくれたと思っている方も多いかも知れませんが、必ず医師や獣医師の治療技術の違いからではないはずです。
この病気になると、飼い主さんもどうぶつと同様に大変です。
かなりの長期間にわたる治療が必要だからです。
動物病院通いも多くなりますし、何より下痢が続きますから、おうちの中での排泄を片付けたり、どうぶつのお尻を洗うことも多くなるでしょう。
治療は、食事管理、抗生物質、ステロイド、免疫抑制薬そしてその他の薬剤を使っていきます。
私は食事療法ではまずHill’sのw/dやi/dローファットを勧めています。
抗生物質では、メトロンダゾールを使うことが多く、これはかなり効果的です。
そして、ステロイドはプレドニゾロン以外はありませんから、自ずとこれを使います。
免疫抑制薬は、アザチオプリン、シクロスポリンを使うことになります。
最後に、その他の薬として、サラゾスルファピリジンを使いますが、これがすごく良く効いたということは残念ながらまだありません。
最終的には、どうにか下痢を解決できることが多いですが、やはり治療を止めることは難しいですね。少量でも、かなりの長い期間に治療が必要です。
治すことは難しいですけど、症状が出ないようにはできることがほとんどです。
快適な状態を作ることは、比較的短い期間にできますので、かかりつけの先生を信じて、じっくりと向き合ってみてください。
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