日本橋動物病院だより

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子犬の骨折は、びっくりするくらいに速く治る

季節の変わり目。エアコンを入れるとちょっと寒いし、切るとややじめっとする。長い夏が終わろうとしていますが、秋はあっても束の間で、きっとそのまま冬になりそうな気がしています。

狼狽を隠せないご主人と、もはや全てを受け入れ、すでに前を向いている奥様。という若いご夫婦が来院されました。迎えたばかりの子犬が骨折をしてしまった。抱っこしていた腕からの落下でした。

骨折をしていると、自由に歩くことはできません。成長期で元気な盛りなのに、走り回ることができずに寂しそうな顔に見えます。

高いところから落ちた場合、手や足を挙げて歩くことはよくあります。しかし、それは落下の直後だけで、30分もすれば普通に動ける犬を多く見てきました。もしかして、今回もかな?骨折はしていないんじゃないかな?と、初めは思ったのですが、傷めている腕を触ってみると、骨折は間違いがないようです。

X検査をして、骨折の様子がよくわかりました。手首と肘の間には、橈骨と尺骨という2本の骨があります。2本とも、肘に近いところで折れていました。

治療方法は、固定です。

手術をすることなく、腕の外からギプスを当てる固定方法と、手術で骨にプレートを装着して固定する方法があります。

最終的に、もとの骨のようなキレイな状態に治すためには、プレート固定一択です。この子犬もプレート固定をしました。

特に1歳未満の子犬の場合には、骨折していても、外からの固定で、骨が真っ直ぐに保たれていれば、手術をしなくても治ることがあります。しかし、外からの固定だけで、治るまでの間ずっと真っ直ぐにしておくことはとても困難です。

しっかりとギプスのようなもので固定していても、ある程度のズレを受け入れなくてはなりません。ズレたままだと、骨が曲がってくっつきます。どれくらいの歪みまで許容できるかが問題です。

このような理由から、手術ではなく、外からの固定を選択するのは、良い条件が揃っている時に限られます。

外からの固定を選択して、真っ直ぐに治らなそうだと判断してから手術をすることもできますが、できれば初めからプレート固定を選択したいところです。

獣医外科では、骨折の治療で必ず考えておくべきことがあります。

・治るまで破綻しない、確実な固定をする

・手術後、できるだけ早くに歩くことができるようにする

・治るまでの間、できるだけ多くの関節を動かせるようにする

このことが、子犬に起こる骨折では、プレート固定が最も優れている理由です。

もう少し、子犬の骨折についてお話ししておきますね。

骨折の治療は、いつするべきでしょうか。

多くの方は、できるだけ早くに手術をした方が良いと思われるでしょう。しかし、治療には、動物の全身的な状態を考えなければなりません。骨折をするほどの衝撃が体にかかったわけなので、手術は、骨折から1日かもう少し経ってから行うことが推奨されます。

また、骨折をしているということは、そこで出血が起こっていることも多いものです。この出血は骨折後4日以降に目立ってきます。ということで、骨折後、2日から4日ほどのあたりが、手術に適しているというわけです。

では、手術をしたらどれくらいで歩けるようになるか?

うちで手術をした子犬は、1週間もすれば、少しずつ歩けるようになっていますし、2週間もすれば、結構普通に歩けるようになっています。

実際に歩けますが、骨がくっつくには、もう少し時間が必要です。プレート固定が強固なので、歩けているにすぎません。

骨折が治るまでの期間

・生後3か月未満 4週間

・3か月から6か月 2-3か月

・6か月から12か月 3-5か月

・1歳以上 5-1年

レントゲン検査では、3か月もすれば、しっかりと治っているようには見えますが、実際には、上のような時間がかかります。

手術をおすすめすると、飼い主さんは、そのまま入院を希望されました。

手術が決まると、手術計画を立てます。骨折の様子に合わせて必要なインプラント、今回はプレートとスクリューを選択しました。

話が少しそれますが、先日、トリミングサロンの方から質問がありました。とても小さなワンコが骨折をしたとのことです。その犬の体重が2kgなかったので、手術の適応ではなく、外からの固定一択だったが、問題はないのか、というお話でした。

元気に動き回る犬に、手術ではなく、外からの固定でちゃんと治るのかという心配です。

犬の骨折手術は、体重が2kgなくても問題なくできます。使うインプラントをしっかりと選択する必要がありますが、当院では、そのような小さな子に使えるチタン製のインプラントを使って手術をしてきました。

今回の子犬は、体重が2.3kgです。

全身麻酔をかけて、点滴を始めながら手術をはじめました。特別な工程はなく、骨折部位での出血もほとんどなかったので、手術時間も短めです。手術時間が短いと、犬への負担も少なく、優しい手術になります。

子犬は、麻酔から覚めるとすぐに、ひょこひょこと歩いていました。手術をした方の腕は、まだ包帯がついているので床には着いていません。それでも、退院までの数日でとてもよく回復し、帰る時には4つ足で歩けるようになっていました。

骨折をしたとわかった時の飼い主さんの辛い気持ちはよくわかります。手術と入院が必要だと、言葉を選んでお伝えしました。しかし、こうやって元気に走り回れるようになると、飼い主さんの気持ちも軽くなったように見えます。

子犬の骨折は、本当によく治るものです。今では、すっかり元の通りになって、元気いっぱいに散歩ができるようになりましたよ。


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