日本橋動物病院だより

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高齢犬の全身麻酔 - 乳腺腫瘍 –

残暑が長く長く続くとの予報ですが、日によっては、朝晩は過ごしやすくなってきました。それでも、朝から真夏のような空気にため息をつくこともあり、秋が待ち遠しくなります。

17歳になったばかりの犬に乳腺腫瘍ができました。

高齢犬ではありますが、全身麻酔下で手術をして取り除き、抜糸も終わって元気に過ごしています。今回は、その過程のお話です。

この高齢犬の飼い主さんは、胸の腫瘍に気づかれて来院されました。笑顔ながらも不安そうです。まだ家族として迎えたばかりの小さな頃から診ている子で、17年ものお付き合いがあります。

お家に迎えられた17年前から、今日に至るまで、いろいろな病気の相談を受けてきました。幸い、毎回しっかりと治ってくれています。今は、かなりの高齢になったので認知症のような高齢犬ならではの悩みも始まる頃です。

犬の乳腺腫瘍には、いくつかの特徴があります。

  • 避妊手術をした年齢が遅かったり、まだ避妊手術をしていない犬に起こりやすい
  • 良性と悪性が、大きさにある程度依存する

この子は、10歳のときに病気の治療で子宮を取り除きました。それまで避妊手術をしていなかったんですね。

そして、今回見つかった腫瘍は、大豆くらいの大きさで、まだ比較的小さめに見えます。乳腺腫瘍は、小さいほど良性の確率が高いものです。

飼い主さんは、長いお付き合いもあってか、治療の決定を全て任せてくださいます。このような腫瘍は、必ず大きくなりますから、治療というと手術をして取り除くのが最善です。しかし、犬の年齢を考えて、手術をするか迷われる方が多いのも理解できます。

手術をして大きく体力を落としたらどうしようか。全身麻酔で何かあったらどうしようか。高齢犬の麻酔や手術に対して、不安のない方はおそらくいません。

僕が大切に思うことは、現在の様子よりも今後のことを考えて判断するということです。今後のことについては、専門家が統計や体験を元に予測を含めてお話をするべきところ。

今は腫瘍は小さいし、犬も17歳とはいえ、まだまだ元気だから手術して取るほどのことか?今はそう思えるかも知れません。

手術を見送った場合の、この腫瘍の末路は、次第に大きくなる腫瘍を眺めるだけになるでしょう。運よく、ただ大きくなるだけならまだ良い方です。ときに、りんごくらいの大きさにまでなったり、さらに表面から出血が起こったりすることがあります。

このようなときに、あのときに手術をしておけばよかったと後悔することになるかも知れません。そのときになって、今から手術ができないものか?薬で治せないか?と、再度相談を受けることもあります。

この子の場合は、手術が一番の方法ですよ。とお伝えすると、最短でできる日を教えて欲しいということで、検討されることもなく手術をすることが決定しました。

当日は飼い主さんの希望で、腫瘍を取り除く手術のあとに歯周病治療を実施。どちらも麻酔管理上の問題もなく、終わったらすぐに目覚めてくれましたよ。

当院では、エリザベルカラーと呼ばれる、傷口を舐めないようにするものを使うことはほとんどありません。この子も、エリザベスカラーは必要ありませんでした。2週間して抜糸に来られ、それで全て終了です。

病理検査結果を報告し、飼い主さんも本当の笑顔を見せてくれました。

高齢犬に限らず、麻酔に注意が必要なことはいうまでもありません。高齢犬は基礎疾患も増えますし、若い犬と比べてさらに慎重さが求められます。

しかし、高齢犬の全身麻酔について、年齢で一様に線を引いて、この年齢からは麻酔を使う手術をしないと言われることがあるようです。全身麻酔で手術をするというと不安になるのは自然なことですが、手術ができないと言われると、それもまた不安になるのは理解できます。

実際に麻酔管理と手術の責任を持つ者としては、慎重な麻酔によって問題が起こることはほとんどないというのが率直な考えです。

それでも、僕の心情は、笑顔でお受けして笑顔でお返しすること。飼い主の心に過度な負担をかけることなく、ご家族にかかる余計なプレッシャーをできるだけ排除して、安全な手術を行うことです。

ちなみに今回の飼い主さんは、少しの心配はあったと思われますが、終始笑顔で進みました。これは、僕の受けた印象ですが、17歳の高齢犬は麻酔リスクが高くなるということもあまり意識されていなかったのではないでしょうか。

まだまだ元気。年を重ねて、一層個性的になった子がより可愛く見えましたよ。

https://www.nihonbashiah.jp/column/2017/10/4224/