高齢犬の手術 - 犬の子宮蓄膿症 –
イチョウの木が、燃え上がるような黄色になっています。木の周りには落ち葉だけで、匂いを放つ銀杏はもう見当たりません。ここ最近、うちの犬は落ち葉を踏みながら散歩をとても楽しんでいます。
今回は、小さな、とても小さなワンコが、急に元気がなくなったということで来院されました。
このワンコは女の子で、避妊手術をしていません。犬の避妊手術では、卵巣と子宮を取り除く手術をします。卵巣と子宮を取り除くと、この2つの臓器は病気にかかることがありません。
小さいから、避妊手術をするのはかわいそう。と、いうのがご家族のお気持ちだったようです。しかし、年をとり、高齢になってから、卵巣や子宮の異常が見られ始めました。
いつかは、手術をしないと治らないような病気になってしまうかも知れない。今年に入ってからは、そうお話をしながらの診察が続きました。
お母さんは、幼くても元気なうちに避妊手術をしておけば、病気にならなかっただろうと不安そうです。
確かに難しい問題かも知れません。
小さいうちに避妊手術をするか、年をとってから、病気の治療として手術をするかの2択なら、迷わず小さなうちの手術を選択するでしょう。
しかし、必ず病気になるとは限らないので、いつまでも元気でいて欲しいと願いながら過ごすことになります。
異変が見られ始めたのは、今年に入ってからです。
子宮に異常があり、どの程度の異常かを調べるために超音波検査を定期的にやって注意をしていました。高齢犬ということもあり、ここまで避妊手術をせずにきているので、予防的に手術をするという選択はありません。
予防的な手術ではなく、治療としての手術が必要になるまでは、経過観察をすることになりました。
この小さなワンコは、他のことで体調を悪くすることはあっても、その都度元気に回復してくれます。このまま手術を避けられたらいいな、というのが、私とご家族の思いでした。
しかし、今回はそうは言えない状態です。手術をするべきかを判断するための超音波検査でも、ワンコちゃんの容態をみても、外科手術が避けられません。
お母さんは、いつかは手術が必要だという思いをずっともっていましたので、「手術をします」という私の言葉には、何の質問もありませんでした。
このワンコの診察は、その日最後、20時くらいだったので、そのまま緊急手術です。
このような非常時、本当にうちの動物看護師さん達は頼りになります。迅速に手術準備を始めてくれました。
血液検査、胸とお腹のレントゲン撮影をやってから、点滴用に血管確保という処置を行い、すぐに手術開始です。
全身麻酔がかかったワンコを仰向けに寝かせ、切開予定のお腹を清潔に消毒し、メスを入れました。
わずかな出血でも、きっちりと止血しながら手術をするので、血液をほとんど失うことなく手術が進みます。皮膚を切開し、皮下組織を分けて、切開をすると、大きく腫れ上がった子宮が見えました。
血管を処理することが、この手術の大切な工程です。うちの動物病院では、血管を超音波でシールする医療機器を使って処理するので、手術時間が大幅に短縮されます。
手術も短時間に終わり、お電話を待っていらっしゃるお母さんにすぐに連絡をしました。手術が終わってからも、慎重に治療が必要です。
ひとまずは、大きな山を越えてくれました。
お母さんは電話で、ワンコを預けて帰る車の中で、幼いころに避妊手術をしなかったことを大変に後悔したとのこと。
私はいつも思うんですよね。
後悔は、どんな場合にもあります。悪くなることを知っていて、手術を先延ばししたわけではないので、その場面、その時の最善の決断をしてこられたはずです。
後ろを向いても、何かできることはないので、前だけを向けるように気持ちを切り替えないといけません。そうすれば、きっと明るくなると思うんです。なかなかすぐには前を向くことは難しくても。
御面会、そして退院の日を迎えて、お母さんもご家族の方も笑顔でしたよ。
できるだけ深刻な場面でも、笑顔でお受けして、笑顔でお返しする。そうするように心がけています。
高齢犬の麻酔についてのエピソードがあります↓