2年ぶりの来院。 – 高齢犬の麻酔と手術 –
今年は冬がおお急ぎでやって来た。そんな印象です。少ししか降らなかった秋雨が冬を連れてきました。街中のクリスマスツリーがあちらこちらで光っていて、写真スポットになっていましたよ。
今回は、背中に大きめのデキモノができたワンコの話です。この子は2年ぶりの来院でした。診察室に連れて入られると、鼻に残りそうな臭いがします。
きっと、長い間悩んでいらしたのだろう。
手術をしないと治らないとはわかっていても、高齢だし、負担をかけたくはない。だから、結論を先送りにしてしまった。でも、もうこれ以上は見ているのも辛い。何かできることはないだろうか。
ご家族には、そういう思いがあったと勝手に、本当に勝手に考えていました。
お母さんに連れられて入ってきたのは、小型のワンコ。見た目はとても元気です。
臭いをどうにかしたいけど、高齢犬ということもあり、積極的な治療は望まないとお話しされました。
つまりは、デキモノをそのままにして、臭いを消したい。または、薬を使ってデキモノを治したい。
確かに、ご自宅で常に臭いがしていると考えると、辛いことでしょう。デキモノをそのままにしておいて、ワンコの健康にも影響がないか気になります。悪性の腫瘍ではないか、他にも悪い影響はないのか、なども心配です。
臭いをどうにかしたいけど、手術はしたくはない。これがお母さんの気持ちでした。
大きなかさぶたがあり、それがデキモノを覆っているので、デキモノがどのようになっているか見えません。
お母さんには、少しだけ出血があるかも知れませんが、と、かさぶたを取ってきれいにしてからデキモノを診てみますとお伝えしてから処置をはじめました。
かさぶたを取ると、小さめのマッシュルームほどのデキモノはとても脆く、優しく触るだけでもじわじわと出血します。しかも、デキモノの一部が壊死して化膿もしていますから、取り除くのが最善だと考えました。消毒だけではどうにもなりません。
このワンコに最後に会った2年前には、なかったデキモノ。かかりつけの動物病院では、高齢犬だし、お母さんのご希望もあるから、治療はしてはいないということでした。
診察をして、お母さんにお伝えしたことは、
・消毒と拭き取りをまめに続ける
・手術で切除する
という2択です。
もちろん、手術で切除することを望まれていないことはわかっていましたが、手術が最善だと考えていたので、全身麻酔ではなく、局所麻酔での手術を提案しました。
もし、手術を選択されれば、今日このまま進めることができますよ。
だいたいのお時間として、30分間ほどお待ちいただくことにして、お母さんの承諾が得られました。
局所麻酔で?今日すぐにできるんですか?
辛そうな表情をされていたお母さんは、少しだけ笑顔です。
局所麻酔で皮膚切開(皮膚生検)をすることは、どうぶつの皮膚科の病気では、よく行う手技です。今回は、老犬で、皮膚のデキモノを取る手術ですが、皮膚生検には違いはありません。
臭いを放つデキモノを清潔に切除するために、周りの毛をきれいに刈り取り、動物看護師がきれいに消毒をしてくれました。
局所麻酔ですから、ワンコは動きますし、イヤイヤと体をゆすったりもします。その状態で、メスを入れ、化膿したデキモノを取り除き、傷口を洗浄してから縫合しました。
ワンコからは、デキモノと同時に臭いが消え、お母さんもホッとされている様子です。そして、何より、全身麻酔ではなく局所麻酔での手術ですから、ワンコは元気なままで手術前と様子が変わりません。
来られてから30分ほどのできごと。
2年ぶりの来院は、迷われた結果の決断だったに違いない。ここで一気に解決できるという期待があったとは思えない。何か少しでもできることをと思いながらも、きっとできることは限られているだろう。
そのような消極的な来院だったのではないかという印象をもちました。
全身麻酔を使わずに皮膚の腫瘍を切除する手術が、どこの動物病院でも一般的に行われているかというと、それはわかりません。
2週間すれば抜糸です。そこで全てが終わります。
長く悩まれていたお母さんの不安解消になれば、私たちにとっても本当に嬉しい結果です。