バイバイ、フクロウちゃん
5月も半分が過ぎましたが、まだ初夏の感じが弱く、これから初夏を迎えるのかと思う間も無く梅雨に入りそうですね。犬との散歩も、桜が緑になってからがとても良いタイミングですが、今年は太陽が見える日が少ない気がします。
うちの動物病院に、2月の終わりごろ、保護された1羽の野鳥が来ました。
丸の内署の警察官が連れてきてくれたフクロウです。カラスの攻撃を受けて傷ついていました。
・東京都で保護が必要な野鳥が見つかったら、まずは東京都庁の鳥獣保護担当に連絡をすることから始まります。
・都庁の鳥獣保護担当には、野生動物、野鳥を引き受け可能な動物病院のリストがあり、そのリストにある動物病院に連絡が入ります。
・動物病院が受け入れ可能であれば、野鳥が搬送されてきます。
うちは、ずっと受け入れ可能動物病院ですので、これまでも野鳥を保護し治療し自然に戻してきました。
今回はフクロウちゃん。フクロウが保護されてきたのは初めてです。
フクロウには、いろいろな種類がいますが、この子は「フクロウ」という種類。
野鳥が運ばれてきたら、まずやることは種類の特定です。これは、野鳥の食べ物を選ぶためです。
野鳥が長生きするためには、食事をしっかりとってくれることが大切です。食べる野鳥は長生きしますが、食べない野鳥は体力の消耗が激しく、自然に戻すことが難しくなります。
野鳥の中には、何を食べているのかがはっきりとしないものもかなり多くいます。少なくともこれを食べるけど、他に何を食べているかわからない。そんな野鳥も数多くいますし、どれくらい食べさせたら良いかもわからない野鳥は相当数います。
実際によくわかっていないんですよね。それぞれの野鳥の食べ物を調査することは、空を自由に飛び回る鳥を追いかけながら調べないといけませんから困難を極めます。
今回のフクロウちゃんは肉食。これはとても良いことで、生きた魚しか食べない野鳥に比べて食料の調達がしやすくなります。本来はネズミや昆虫を食べることもあるフクロウちゃんですが、まず鶏ささみを与えてみました。
フクロウには、野生ではない、ペットとして飼われている種類があり、これらはどんなエサで長生きできるかある程度わかっています。そのような意味では食事選びは簡単な方です。
しかしフクロウちゃんは鶏ささみに全く口をつけようとはしません。
このような場合には、強制給餌と言いまして、口に直接突っ込んでエサを与えます。ひな鳥は親鳥から直接口の中にエサを突っ込まれます。同じやり方です。
小さめに切った鶏ささみをフクロウちゃんの口に突っ込んでみます。これを飲み込んでくれないと希望が見えなくなりますが、フクロウちゃんはしっかりと飲み込んでくれました。
1日にどれくらいの鶏ささみを食べさせたら良いのか。これは体重が減らない量が目安です。フクロウちゃんは、うちの動物病院にいた2か月ほどの間に体重がゆっくりと増加してきました。
初めのうちは、1日に半分の鶏ささみを食べていましたが、数日もすると1日に1本は食べるようになりました。それでも不足する栄養素があるといけませんので、定期的にビタミン類を追加します。
傷も治り、動物病院内で飛ぶことができるようになってきました。
診察室から処置室へと部屋を越えて飛べるようになりました。そして飛んだ後は必ず少しの間興奮していまして、口を開けてオドオドしているように見えます。
もう外に放すべきだな、そう思いながら予報を見ながら天気の良い日を探しました。
とても大切なことがあります。
珍しい野鳥さんですので、生息している場所がイマイチ確かではありません。どこに放したら良いかという問題です。
もしかしたら都庁の方ならご存知かも知れないと思い、東京都庁の鳥獣保護担当に電話をしてみました。フクロウの保護がある場所、生息域として考えられるところの情報があるかも知れないと考えたからです。
やや長めの保留音が続いた後、都庁からの回答は、
「まず、放す時間は夜です。」…「次に、木の枝に止まらせてください」…
えっ?
とりあえず、自分で考えなければなりません。
見つかったのは東京都千代田区丸の内。
もし野鳥ならほぼ間違いなく皇居に棲んでいたはずです。
周辺には公園がありますが、フクロウちゃんが棲み、獲物を取るほどの自然には見えません。
仕事で皇居に行きますが、本当に緑が多く、都心の森です。
でも、皇居に放すことは許されないでしょう。
フクロウちゃんがそこまで飛んで行ってくれたら何の問題もありませんが、飛べるとは言え、しばらく飛んでいないまま皇居の周りにあるお堀を越えられるかは分かりません。
途中で落下することは悲しすぎます。
地図で色々と探して、遠くまで運ぶことも考えました。
奥多摩、長野、栃木、千葉。
電車や新幹線を使うとなると、ストレスをかけることになります。
それでも都内よりは緑が多いところで暮らせるでしょう。
でも、元々棲んでいたところに帰りたいのだろうと。
もちろん、それは可能性でしかありませんが、皇居にたどり着けて、かつ安全なところを見つけました。
休診日に、動物病院に残っている看護師さんに留守番を頼み、連れて行ってきました。
看護師さんもフクロウちゃんとの別れを惜しみながら、できれば最後に写真を撮ってきてくださいと頼まれました。
どこが良いかと探し回りながら、ちょうど良い高さに枝のある木を見つけたので、フクロウちゃんに別れを言って、その枝に乗せようとすると、
ふわーと、飛んで行きました。
フクロウちゃんは、飛ぶ時に音を発しないことが知られています。
無音で視界から消えて行きました。
それでも心配でしたから、フクロウちゃんが飛んで行った方向を探してみましたが、もうフクロウちゃんを見つけることはできませんでした。
これでいいんだ、元気でね。
そう思いながら動物病院へ帰りました。
それからしばらく天気が良い日が少なく、毎日フクロウちゃんが心配でしたが、自然界の生き物の力は偉大です。僕が考えるよりもずっとずっと逞しく生きていてくれるはずです。
もう保護されることがありませんように。
そう願わずにはいられません。
バイバイ、フクロウちゃん。
元気でね。