本のインタビューがありました。 – 猫の扁平上皮癌 –
猫の飼い主さんの中に、本を書かれている方がありまして、今度出版される本に僕との対談のページを入れてくださるそうです。そのインタビューが、ありました。
2時間ほどお時間を用意して欲しいとのことでしたので、休診日の日に設定をしました。お約束した時間に、猫の飼い主さんだった著者の方、編集者の担当の方とカメラマンさんの3人でいらっしゃいました。
著者さんは、数か月前に猫さんを見送る経験されました。その時の看取りが、このインタビューのテーマです。著者さんはSNSで、猫さんと生活や闘病をアップされていて、それに反響のあった色々な方々の、それぞれの動物達の看取りについて思うところがあったということでした。
著者さんの猫は、口の中にできる扁平上皮癌というものが原因で幸せな生活に幕を閉じました。著者さんは、ご自身がされた猫の看取り方が、後から考えても全てが最良であったと回想されていらっしゃいまして、それには僕も同じ考えです。
猫さんが路上で保護されたところから始まりました。その、保護されてからお別れまでがおおよそ1年半です。著者さんがお仕事先の路上で、横たわり、動けなくなった猫を保護され、うちの動物病院へ連れて来られました。
この著者さんは、他に2匹の猫と暮らしていらっしゃいまして、初めてお会いしてから10年以上が経っています。そして、今回3匹目となる猫さんを保護されました。
路上で発見された時は、痩せて、脱水し、いわゆる一般状態と言われるものが極めて良くない状況での保護でしたので、何かしらの病気を持っているかも知れないというお話の元、3日間だけ入院管理をして、検査や必要な治療をすることになりました。その後に糖尿病であることが分かったり、インスリンの治療を行う中で、寛解と呼ばれる、インスリンの治療を必要としない期間も作れたり、そのような月日が流れたある日のこと、口の中に何かありそうだということで来院されました。
猫さんの口に中に、小さく、小指の爪ほどの面積もない潰瘍があります。一見すると歯肉炎のようにも見えましたが、ほぼ間違いなく扁平上皮癌と呼ばれる極めて悪制度の高い腫瘍だろうと考えました。そうなりますと、この段階で余命がおおよそ決まってしまいます。
まだ何も検査も行っていませんでしたし、治療を始めた訳でもありませんでしたが、この診察の中で、率直に、あと2-3か月だろうとお伝えをしました。
猫の扁平上皮癌は、現在の獣医療の限界を考えても、戦う相手ではないというのが僕の考えです。そして、できるだけ触らない、つまりは傷をつけない方が良いとも考えます。
本来であれば、癌などの腫瘍は、その診断のために少しだけ組織を取って病理検査をします。ときには、癌の広がりや転移を詳細に調べるためにCT検査を行います。病理検査のために組織を取る時も、CT検査の時も、それぞれ短時間ではありますが、全身麻酔が必要です。それ自体は問題なく行えるはずです。
どのような病気でも、まずは確定診断を行うことが基本ですが、今回はできるだけ触らない方が良さそうだと考え、一応、歯や口の中を専門的に診察をされている動物病院でのセカンドオピニオンを提案しました。
ご家族の方の常識的なものの見方、想定というものがあり、僕は、この病気に対する想定の範囲を広く持っていただくのが良いと考えました。セカンドオピニオンを提案した目的はそこにあります。
できるだけ、手を付けずに、穏やかに過ごせたらと良いだろうという思いです。
猫さんは、歯科の専門的な動物病院で病理検査を行い、そこの紹介で検査センターでCT検査を受けました。
確定したことは、病名は扁平上皮癌で、手術は困難で余命は長くはないということです。この著者さんは、さらにもう1件の動物病院で腫瘍科の獣医師にサードオピニオンを受けられています。そこでの見解も、僕やセカンドオピニオンの歯科の動物病院と同様で、QOLと呼ばれる生活の質を重視することを提案されます。
3人の獣医師から、異口同音にそう伝えられて著者さんのお考えは一つに決まりました。
緩和ケアに徹する。
その後は、痛み止めを使われたり、食べないときの点滴をしたり、補助的な治療を行いながら、最後の日を迎えられることになります。
SNS上の闘病記へ寄せられた色々な反響の中から、動物の看取りについてのコメントが多くあり、どうすれば良いのだろうかと悩む方々が多くいらっしゃるということを教えていただきました。
もちろん、一つの正解がある話ではありませんが、できるだけ早い段階で先が見通せると、初めはとても冷静ではいられないとは思いますが、次第に事実を受け入れ、冷静に向き合うことができる時間を持てるようになられる方が多いという印象を持っております。
それでも時に涙し、時に微笑みかけることができ、わずかに残った時間を大切にして過ごすことができると思います。
動物の最後には、動物病院との何かしらの関わりが必要なことがほとんどで、そうであれば、信用できる獣医師と、必要であれば、セカンドオピニオンを受けてみられても良いと思います。セカンドオピニオンを求める先は、かかりつけの先生にご紹介をいただけるのが最良だと考えます。
本の仕上がりを楽しみにしながらの、2時間ほどのインタビューが終わりました。